「太陽の沈まない帝国」スペインが、その覇権を保持したまま19世紀を迎えた世界は、1856年に到達していた。
国内の産業革命によって急速な発展を遂げる大英帝国は、このスペインの覇権を脅かすべくアジア進出を図りビルマに侵攻するも、スペインの介入により断念。

逆にスペインは極東の大国・中国での影響力を確実なものとするべく、拡大していた中国南部のカトリック教徒たちに反乱を起こさせ、大清帝国を打倒。同地に同君連合としてのスペイン領中華帝国を成立させる。




その途上で、新大陸のスペイン植民地では、スペインからの独立を目指す反乱が立て続けに発生。


いずれも鎮圧を果たしたものの、今後の反乱を抑制するための国内改革の必要性を痛感した皇帝カルロスは、軍部の改革派将校らの提言を受けて選挙制度の導入を実現することに。

しかし厳しい所得制限の残る不十分な選挙制度は、世界における植民地の拡大や拡張主義を是とする資本家たちを中心とした政党に主導権を握らせる結果に。

彼らが次に標的と定めたのは、宿敵イングランドの一部となっていたアイルランド。プロテスタントに抑圧されるカトリック同胞の救出という大義を背に、世界最強の帝国スペインはもう1つの最強との直接対決へと突き進むこととなる。

アイルランド問題
民族主義運動が渦巻く中、アイルランド国民は、プロテスタントの圧政に今も苦しむ祖国を懐かしく思い出しています。私たちは、アイルランドをイギリスの圧政から解放する努力を再開しなければなりません。
1529年以来、何千人ものアイルランド人がスペイン王国の領土に居を構え、保護を受けてきました。スペイン王国の中央機関が作成した文書を収集し、保存するために16世紀に設立されたシマンカス総合文書館には、かつて祖国を追われた男女のユニークな物語を反映する文書が保存されています。彼らは、その容姿、特異性、異なる習慣、活動で、私たちの祖国建設に影響を与えました。必要であれば、私たちは武力でもって、アイルランドを取り返すことになるだろう。

スペイン帝国と大英帝国。共に世界に植民地を有する「太陽の沈まない帝国」。
その二大帝国による直接対決が、ついに始まろうとしていた。
※本MODは日本語非対応であり、日本語でプレイするとオリジナルイベントの多くで文章が表示されないなど支障をきたすため、英語版にてプレイしております。
目次
Ver.1.8.6(Masala Chai)
使用DLC
- Voice of the People
- Dawn of Wonder
- Colossus of the South
- Sphere of Influence
- Pivot of Empire
使用MOD
- PAX HISPANICA
- Cities: Skylines
- ECCHI Redux
- Expanded Building Grid
- Extra Topbar Info
- GDP Ownership Display
- Romantic Music
- Sphere Emblems Plus
- Universal Names
- Western Clothes: Redux
前回はこちらから
アイルランド戦争
「本作戦について、私から説明をさせて頂きます」
そう言って立ち上がったのは、マリーノ・アルメンダリス陸軍大臣の腹心にして、彼を頂点とする軍部最大派閥の改革派に属するフランシスコ・セラーノ。次期大臣候補と目されている男である。

「1857年11月現在、ヨーロッパ列強を巻き込む大規模な戦いが中東を舞台に繰り広げられようとしております。すなわち、オスマン帝国がエジプトに対し、これまでの戦いにおいて奪われた領土の回復を求める第3次エジプト・オスマン戦争です。
この戦いにはオスマン帝国の後見人であるイギリスが介入。そしてオスマン帝国および英国の宿敵でもあるロシア帝国がエジプト側で参戦しております」

「そしてエジプトからは我々にも支援要請が来ております。ロシア帝国も我が国の同盟国でもあり、先達ての中国戦争においても多大な協力を受け取った相手でもあります。この要望を断る理由は一見ないようにも思えますが――」

「――あえて、我々はこれに応じず、中立を宣言すると」
宮廷首席顧問官ルイス・デ・ラ・クルス。諸大臣の意見を取りまとめ皇帝に報告し、逆に皇帝の意思を諸大臣に伝えるーー皇帝の個人的な友人であり第一秘書を長年務めてきた彼も今や52歳。会議を運営する閣僚たちもその多くが同年代か年下となり、より強い発言権を持って会議に臨むことができるようになっていた。
「はい。そしてこれは、より大きな目的の為の策となります」
「アイルランド問題だな」
ルイスの言葉に、セラーノは頷いた。
「その通りです。エジプト・オスマン戦争に応じる形で英国軍の主力が中東に向かっている隙を突いて、我々は宿敵イングランドとプロテスタントによって抑圧される立場となっているアイルランドのカトリック教徒たちを解放するための戦いに挑みます。
もちろん、隙を見せているとは言え相手はかの大英帝国です。陸軍力では我らがスペイン帝国がこれを遥かに凌駕し、ビルマでも中国でもそれが勝利をもたらしましたが、今回は陸路で国境を接しているわけではない英国との直接対決となります。世界最強と名高い王立海軍を超える海軍力が絶対的に必要と考えられてきました。
それ故に、この数年は海軍力の増強に力を尽くしてきました。結果、今や我らがスペイン海軍の威容はついに大英帝国を抜き、世界一となりました」


「ルイス閣下、今こそ、我々が英国に対し聖戦を仕掛けるべき時機が満ちております! いつでも号令を発し下さい!」
威勢よく告げるセラーノ。ルイスも迷いがないわけではなかった。このスペイン帝国はこの20年間、ひたすら戦争を続けてきている。自由主義者による内戦、ビルマ戦争、中国戦争、ヌエバ・エスパーニャと「大陸会議」の反乱への対応、そして今回のこの対英戦争・・・帝国の財政は盤石で、この戦争の継続によってそれが危機に瀕するということはないものの、それに伴う課税もあり、農村民や労働者を中心に王室に不満を持つ者たちも少なからず数を増やしつつある。

しかし、だからこそ、アイルランドの解放という分かりやすい大義名分は、国民の支持を集めるには丁度良いだろう。この勝利を通じて、再び帝国の一体化を獲得する!
「それでは全軍、作戦を開始せよ。我らが宿敵イングランドに、大いなる敗北を与えるのだ!」
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1858年1月20日。第3次エジプト・オスマン戦争が開幕。
早速英国軍はその陸海の主力の殆どを、オスマン帝国の敵国たちに対する各戦線へと配置する。

しかし彼らは気づいていなかった――仏英海峡に密かに運び込まれた大量のスペイン海軍と、ブルッセラスの地に待機する30万を超えるスペイン陸軍の存在に。


そして気が付いたときにはすでに遅かった。
1858年4月30日。
スペインは、英国とその同盟国たちに対し宣戦を布告。アイルランドのすべての土地をカトリックの盟主たるスペインに対して「返還」することを要求。

それと同時に、スペインの陸海軍が連携して上陸。慌てて本国へ帰還しようとするイギリス軍も間に合うことなく、無人の荒野をスペインの精鋭兵たちが駆け抜けていく。



そして5月2日には早速イギリスの首都ロンドンを制圧。

最前線にはすでに15万近いスペイン兵が集結しつつあり、イギリス軍を圧倒している状況である。

さらに戦略的目標であるアイルランドに対しても同時上陸を狙っていく。

アイルランド沖の海戦では、英国海軍をスペイン海軍が次々と撃沈。


障害がすべて取り除かれたことで、いよいよアイルランドにもスペイン陸軍の上陸が開始される。

制海権を奪ったことで、上陸だけでなく、イギリス本土とその殖民地あるいは友好国との間を結びつける海路も次々とスペイン海軍が支配・征服・蹂躙。

結果、イギリスは経済的にも締め上げられ、継戦能力はさらに失われていくこととなる。

年が明け、1859年に差し掛かる頃には、グレートブリテン島及びアイルランドのほぼ全域がスペイン軍の支配下に。

ここに来て、イギリスにこの戦いを続ける余力など残っているはずがなかった。1859年1月16日。英国はアイルランドの全土をスペインに明け渡すことを認め、完全降伏。

アイルランドはすべてスペイン領となり、これで「アイルランド問題」は無事、解決されることとなった。


「ーー見事な采配だった、セラーノ中将。すでに落日の兆しを見せていたとはいえ、1年も経たずして降伏させるとは」
「お褒め頂き光栄で御座います、ルイス閣下。これも全て、我らが帝国軍への惜しみない投資と、全面的な信頼を寄せて頂いた陛下及び閣下のお心遣い故で御座います。もはやこの地上において、我らが帝国陸軍・帝国海軍に敵うものはいないことが証明されました」
「うむーーあとは、世界の真の勝者となった我々が、この帝国に永遠の繁栄をもたらすべく、正しき統治を行わねばならない。
まずはアイルランドはすぐさま独立させるように」

「は。しかしまだまだアイルランド国内には親英国派の存在や少なくないプロテスタントもおり不安定な部分も御座います。暫くは傀儡国として本国の影響力を十分に残すことを進言します」


外務大臣のフリオ・バラナの言葉に、ルイスも頷く。
「承知した。総督には陛下の甥にあたるフェリペ殿下を据えるように。アイルランド臣民の不興を買って再び不安定にせぬよう、細心の注意を払わせてくれ」

「畏まりました。それから、我々のイギリス本土侵攻によって手薄となったオスマン帝国戦線では、ロシア軍の猛攻により瞬く間にこれが占領される事態に」

「ロシアとオスマン帝国との間にはサン・ステファノ条約が結ばれ、多額の賠償金と共にドブロジャの地をロシアに割譲することが取り決められました」

「ロシアはその他にデンマークやスウェーデンなどの北欧諸国、オマーンなどの南アラビア諸国もその勢力圏に加え、徐々に拡大しております」


「成る程・・・ロシアは我々の同盟国だ。それが故に逆に、英国と比べその伸長を抑制しづらいとも言えるな。神聖ローマ帝国との結びつきを強めつつ、ロシアの動向には常に注意をしておくように」
「承知しました。最後に、イバルリ殿が提言したいことがあるとのことで」
バラナの言葉と共に、執務室がノックされ、入室を許可されたフランシスコ・ハビエル・イバルリが部屋に入ってきた。
「皆様方、この度のアイルランド戦役での完勝、祝着至極に御座います」

ナバラの鉱山王にしてスペイン帝国の実業家集団の長、そして現在の政権与党・進歩党の党首でもあるイバルリ。ある意味でこの帝国における皇帝と並び立つ最高権力者とも言える男である。
丁寧で腰の低そうな雰囲気を出しつつも、その目は次なる野望と欲望に赤く燃えており、ルイスは警戒感を強めつつその次の言葉を待つ。
「我々はこの国の政権与党として、主に経済の面からこの偉大なる帝国の繁栄を補助していきたいと考えております。そこで、今回は我々の進める『アフリカ政策』の承認をして頂きたく。
現在、先達て制定された『植民地効率化法*1』に則り、中央アフリカに位置するニジェール植民地を拡大しつつありますが、当地には英国も植民地を広げております。先の敗戦によりこの地での対立を激化させるつもりは向こうにもないでしょうが、彼らを牽制するためにもこの地域での勢力拡大は急務となります」

「その報告は聞いている。そしてその一環として、ダルマセス将軍にニジェール川流域の探検を行わせていたことも」

「ええ。そしてその調査の結果、ニジェール川上流域に位置する強大なソコト帝国において、先代のカリフの急死に伴う幼君の即位と、これを発端とする国内の激しい混乱の状況を把握することができました」


「すでに、ソコト内の反カリフ派勢力と連携しており、いつでも彼らに『協力』することで、この地をスペインの勢力圏内に入れる準備ができております」

「成る程・・・」
ルイスは歯噛みする。またも、彼らの欲望により、悪しき帝国主義が広がる結果になるのか、と。
しかし一方でそれが確かに帝国の繁栄につながる事業であることは、イバルリの部下が後で持ってくるであろう大量の報告書を見なくともルイスには理解できた。
そして何より、不完全とはいえ自ら進めた改革にて成立した「民主的な」議会の決定を、十分な合理性なく破却することは、皇帝自身もまた望まぬことであろうことは明白だった。
「ーー分かった。進めてくれ。だがくれぐれも現地民の自治と、その文明化の支援を最重要視することを忘れぬように」
「承知しました。ご承認賜り、感謝致します」
深々と頭を下げ、殊勝な様子で退室するイバルリ。フリオ・バラナ外務大臣もその後に続いて部屋を出て行った。
後に残されたセラーノ将軍は不安そうな目でルイスを見やる。
「・・・閣下、我々改革派はまだ力不足ゆえ、あのような勢力をのさばらせることとなっているのは申し訳なく思います。しかし現在、この状況を変えうる計画を進めてもいます。必ずや、未来の帝国には正しき陛下の理想を反映させてみせましょう」
将軍の力強い言葉に、ルイスは「ああ」と応える。
「頼んだぞ。帝国の未来が正しく輝くためには、君たち若者の力が必要だ」
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1861年12月。
長らくの混乱と停滞の時を迎えていたフランス共和国で大統領選挙が実施され、一人の男が圧倒的な得票を記録して勝利した。
男の名はナポレオン・レルベット。かつてこの国で欧州全域を支配しようとした男と同じ名を持つその男は、まさにその『英雄』を目の当たりにしているかのような民衆の歓呼に包まれ、エリゼ宮のバルコニーへと姿を現した。

「――時は満ちた。我々フランスが、本来の誇りと栄誉を取り戻すべき時が。
まずは北アフリカ。この地をすべて征服し、アフリカ植民地競争へと参入するのだ!」

新たな戦いが幕を開ける。
西仏戦争
ナポレオン・レルベットは1807年、ナポレオン戦争の真っ只中に生を享けた。ナポレオン1世率いるフランス軍がイエナ・アウエルシュタットの戦いで屈強なプロイセン軍を壊滅させ、ティルジットの和約が結ばれたばかりであった。
まさに英雄と言うべきナポレオン1世の姿に、フランスの政治家であったアルマン・レルベットは感動し、生まれたばかりの息子にもナポレオンと名前をつけたほどであった。
しかしその後、ナポレオン1世は敗北する。スペインという存在によって。ナポレオン・レルベットは父から皇帝ナポレオンの偉大さを繰り返し語られ、そしてスペインに対する憎悪を植え付けられながら育ったのである。
パリの大学を卒業した直後に、フランスでは七月革命が巻き起こり、新たにブルジョワ君主制が成立した。父の後を継いで政治家としてキャリアをスタートさせようとしていたナポレオンだが、この新政権に与することはせず、左翼野党の一員として活動を開始した。
1842年の革命によって七月王政が崩壊し、第二共和制が開始されるが、このとき彼は急進的な共和派に属することはしなかった。かと言ってブルボン王家やオルレアン王家の復古を目指す右翼グループに属することもしなかった。
彼はあくまでも、かつての『英雄』の復活を望んだ。彼は自らの立場を『ポナパルティスト』と呼称し、そして混乱の続くフランス国内において目覚ましい勢いで支持を獲得した。そして1861年12月。彼は圧倒的な支持を背景に大統領に選出される。
彼は自らをナポレオン3世と呼んだ。そして民衆もそれを望んだ。彼は国民の熱狂的支持を得て、選挙制度を廃止し、議会を解散した。彼は大統領のままでありながら、絶対的な権力を握ったのである。


そして彼は、フランスのかつての栄光を取り戻すために動き始める。
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「ーー状況を説明してくれ」
宮中首席顧問官ルイス・デ・ラ・クルスの言葉に、外務大臣フリオ・バラナは頷く。
「新たに『ナポレオン3世』を大統領に据えたフランス共和国は、50年前のバーバリ戦争の際に彼らが占拠したブージーを拠点とし、内陸部のベルベル人国家の併合を求めて軍事介入を開始しました」

「国内の絶え間ない混乱に見舞われ、これまで西英に比較して出遅れていたフランスが、ついにアフリカに対する政策を開始したと言うわけだな。
しかし、我々のすぐ懐で、あまり騒ぎ立てられるのも心地良くはない。ましてや北アフリカの地は、陛下の温情により宥和が進められていた地であり、これを蔑ろにするようなフランスの蛮行には、陛下もいたく立腹しておられる」
「同感であります」と、ルイスの言葉を受けたフランシスコ・セラーノ参謀総長が前に出る。「我々はすでに、全軍動員する準備ができております。フランスはかつての敗北の記憶を失ったように思えます。ましてや、ナポレオンなどと言う名前を再び持ち出すなど・・・完膚なきまでにこれを打ち滅ぼし、2度とその忌まわしき名を吐き出せぬようにしてやりましょう」

セラーノの勇ましさに呼応するようにして、会議室に集まる閣僚たちは皆一様に興奮した様子でフランスとの対決を宣言する。
方針は決まった。すぐさまスペイン政府はフランスによって侵攻を受けているアイト・アッバス王国に救援を申し出。

代償はフランスの持つ北アフリカ植民地をスペインに割譲すること。フランスをアフリカの地から追放することで、彼らの北アフリカの地での権益拡大を食い止め、北アフリカ諸国を護る意思をはっきりと示す。

そしてこの「介入」を明確にすることで、フランスが自ら退いてくれることをスペイン政府も望んではいたのだがーー

「退く気はないようだな」
「ええ、本当に彼らは身の程知らずなのですね。あるいは、彼らにとって我々スペインというのは、かつての栄光を妨げ、英雄ナポレオンを亡き者にした仇敵。そのナポレオンの名を騙る現在の独裁者にとっても、ここで退くことはあり得ない選択肢だったのかもしれませんね」
「準備は問題ないな?」
「もちろんです。戦線は二つ。敵首都パリにも近い『東部戦線』では、敵軍の配置も盤石で、フランドル軍やイタリアの古テルシオ軍団を中心とした我が軍も戦力は
総勢13万近い軍隊を用意はしていますが、戦力は拮抗しております」



「一方、ピレネー山脈沿いに形成された戦線においては、フランス軍5万に対して我が軍は12万。さらに北アフリカ派遣軍がこれを制圧して戻ってくればさらに増え、この戦線は容易に突破できることが予想されます」



「よし。ならば、このまま予定通り開戦だ。ナポレオンと愚かなるフランスには再び、敗北の味を味わってもらおう」
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1862年12月24日。
北アフリカにおける勢力拡大を狙ったフランス共和国が、スペイン帝国による介入を受けたことで始まった「西仏戦争」。

ピレネー山脈東端、ルシヨンから押し寄せるスペイン軍の物量の前にフランス軍は手も足も出せず、次々と占領地を広げられていく。




やがて1863年9月13日。フランス第二の都市リヨンを舞台とした決戦が行われ、ラミロ・アラナ少将率いる14万の大軍が、パトリス・ド・マクマオン元帥率いる5万のフランス軍を撃破。



このリヨン陥落が最後の契機となり、パリのナポレオン3世もついに降伏。

英国に続きフランスを降し、スペインは世界における覇権を確かなものとしたのである。
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「おめでとう御座います、閣下。これでフランスのアフリカ進出を妨げることができました。我々の側でもニジェール植民地にスペインニジェール会社を設立し、さらにカメルーン方面への進出も進めております」


「さらに現在はパナマの地に巨大な運河を建設中となります。これが実現すれば太平洋におけるスペインの存在感もより高まることになるでしょう」

「我々もまた、こうして帝国の繁栄に資することができるのは心から嬉しく思います」

与党・進歩党党首フランシスコ・ハビエル・イバルリは誇らし気にルイスに告げる。そして目を細め、彼にとっての『本命』を語り始める。
「つきましては閣下、次なる改革のご提案となります。現在、陛下によるご指名で定められることとなっております閣僚の人事について、より民主的な選挙制による任命に変える法律を、外務大臣のフリオ・バラナ氏から提案されております。私としてもこれに賛成ではありますため、進められればと思いますが・・・」


道理は通っているが、皇帝の権限をさらに抑制しようとするその動きに、ルイスは警戒心を抱く。しかしやはり、これを正面から否定するわけにもいかず、諦めたように返すしかなかった。
「分かった。陛下には私から言っておく。進めてくれ」
満足した様子で部屋を去るイバルリの背中を目で追いながら、ルイスは嘆息する。すでに彼ももう60近い。陛下の先も長くないであろう中で、彼がやれることももう少なくなりつつあった。
(今の私にできることは、この帝国を永遠の繁栄に耐えうる体制を残しつつ、安定を保つことだけ。それだけを、確実に守り通さねばならない・・・)
しかしルイスのその思いを嘲笑うかのように、帝国は再び混乱に見舞われる。
そしてそれはもはや敵はいなくなった外部からではなく、内部からもたらされたのである。
永遠の未来へ
「ーー今や、時代は新しい局面を迎えている。いつまでも我々はサラマンカ学派のような古臭い考えを持ち続けていてはならない。神などというような超常的現象に縋ることを辞め、我々は人間らしく、その目で、鼻で、口で、手で、舌で感じ取ったもののみを信じるべきである。
故に、我々はここに宣言する。『実証主義』の立ち上げを!」

実証主義教会
実証主義哲学者のエルメネジルド・プリドーは、マドリードにスペイン実証主義教会を設立しました。教会の行事は、実証主義の知識人たちの会合の場となっています。
パンフレットが手から手へと飛び散り、新しい教会の通りに流れていった。片面は道徳的無秩序の終焉を約束し、もう片面は学問による解放の新時代の到来を告げている。机上の学者、実際の学者、事務員、銀行員らは皆、前向きな理想を見出した。目標としての進歩、基盤としての秩序、そして支配的な真実としての愛という理想だ。


「――実証主義?」
「ええ、神の存在さえも信じぬ虚無主義者たちです。彼らはカトリックの権威も、そこに立脚する我らが帝国の叡智・サラマンカ学派をも否定し、そして挙句の果てには王政の廃止すらも求めております」

「かつてあった急進主義たちの亜種のようなものか?」
「確かに王政廃止を訴える点は似通っておりますが、彼らはさらに現在の与党が推し進める民主主義政策を欺瞞のものとして徹底的に批判しております。
曰く、民主主義とは名ばかりの不十分な金権主義であり、それであるならばいっそのこと選挙制度そのものを廃し、確かな知性を持ったものによる技術官僚統治を推し進めるべきだ、と。
現在制定に向けて動いている選挙制の官僚制度及びこれを推進する首相イバルリ氏への批判も強めています」

「現在の民主主義が不完全なものであることは同意できるが――かと言って、民主主義そのものを否定するのはやり過ぎだ」
「仰る通りです。しかし、現政権に対する反発は我々の想定以上に強く、これを否定する実証主義者たちはかなりの支持を集めており、特にシチリアでは武装蜂起の兆候すら出てきております」


「結果、政府に対する国民の支持は急速に低下しており、正当性は初めて半分を割る結果となっております」

「そうか・・・」ルイスは深刻な表情を見せる。「早急に、対応を考えねばならぬな。王政を維持することはもちろんだが、対応を誤れば、ようやく芽吹き始めていた民主主義の可能性すら摘み取ってしまいかねない。
セラーノ将軍、まだ機は熟していないかもしれないが、予定よりも早く、動き始める必要がありそうだ。そのための道筋は私が責任を持って陛下に進言し、同意を得よう。君たちは行動を開始してくれ」
「ーー承知しました。真の改革を始めます!」
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「陛下、お加減はいかがですか?」
皇帝カルロス5世の居室を訪れたルイス・デ・ラ・クルスは、寝所に横たわる皇帝に話しかける。皇帝は柔和な笑みを浮かべて応える。
「今日は随分と調子が良い。久々にお前が来ると聞いて、力が湧き出たのかも知れぬな」

「勿体無いお言葉です。無理をお願いしてすみません」
「構わぬ。何でもできるお前が私を頼ろうとする時は、それだけこの国にとっては重要な時であることを理解している。
だが、30年前から変わらぬ。私はお前を信頼している。お前の中にもすでに答えは決まっているのだろうし、私ができるのはその背中を押すことだけだ」
ルイスはその笑顔と言葉に勇気づけられ、意を決して口を開く。
「ーーすでにお耳には入っているかと思います。実証主義者たちによる動乱のこと。彼らは現与党を批判し、その同調者たちは日増しに数を増やしております。
これを我々が武力で押さえ込むことは容易です。30年前のように」
「だがお前はそれを望んではいないのだろう」
カルロスの言葉に、ルイスは頷く。
「はい。彼らはこの国の今の政治の犠牲者でもあります。彼らはこの世界最大の帝国の臣民でありながら、日々の生活を苦しみの中でもがいている状態です」

「彼らを無視し、今の体制を無理に維持し続けようとすれば、この帝国は決して永遠の繁栄を享受することはできないでしょう。
かと言って、過激化する彼らの意見をすべて飲み込むわけにもいきません。その極端な到達点は、現在の王政の廃止すらありうるのですから」
ルイスは真剣な眼差しをカルロス皇帝に向けながら続ける。皇帝は口を挟むことなく、小さく頷きながら続きを促す。
「30年前は、それを武力で叩き潰す以外の選択肢は取れませんでした。しかしそこから30年。我々は我々なりに、現在のこの制度を維持しながら改革に向けての努力を重ねてきました。我々は今、別の選択肢を取ることができます。
すなわち、我々は我々のやり方で、明確なはっきりとした改革の姿勢を臣民に見せるのです。今、実証主義者たちを支持している民衆の中にも、現在の政権を否定しても、陛下の威光まで否定しようとする者は少数派であります。そんな彼らを、この反体制運動から引き剥がすためにも、我々の側で彼らの先手を行く改革の姿勢を見せる必要があるのです。
――そのためには、多少なりとも強引な手法は必要でしょう。
陛下がこれまで重要視していた原則を覆すことさえも辞さずに」
最後の言葉が肝であった。自らの心音さえ聞こえてきそうな緊張感の中で、ルイスは陛下の表情を窺う。カルロスはやや驚いた様子を一瞬だけ見せたものの、それ以上は何も言わずに再び笑みを浮かべた。
「なるほど、承知した。すでにその準備は整っているのだな?」
「ーーはい。すでに改革派の陸軍大臣を中心に、サラマンカ学派、そして近年力をつけてきている労働者たちの代表者をまとめ上げた『民主進歩党』が結成され、その時を待ち構えております」

「ーーあとは、陛下のお言葉により、彼らに政権を委ねることをご決断頂ければ、我々はこの危機を乗り越えることができます。帝国の現在の不穏を解消する改革への道筋を、この改革派政権により提示していきましょう」
「この20年、守り続けてきた民主主義の萌芽を、一旦は自ら踏み躙るというわけだな」
「・・・改革の道筋が正しく示されれば、有権者たちも理解し、次の選挙では民意が示されるかと思います。そして、新たな政権においては、民主主義をさらに正しい段階にまで押し上げることもできます」
「ああーー分かっている。それに、サラマンカ学派も参加する新政権は、我が子フェリペの政権においてもきっと助けになるだろう。
私ももう先は長くない。次の時代に向け、やり残したことを私もやるべきなのだろう。
ルイス、お前の言う通り、民主進歩党に組閣を命じよう。必ずや、この帝国に望ましき未来をもたらすのだ」
「はーー」ルイスは平伏し、力強く告げる。「この命に代えて、必ずや、帝国の未来を保証いたします」
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皇帝カルロス5世の大命により、新たに結成されたばかりの民主進歩党が中心となった新たな内閣が組織される。

突如のこの動きに、当然の如くそれまでの与党であった進歩党・穏健党は強く反発。犬猿の仲であったはずの両党は合併し、自由貿易党として反発を強めることに。

さらにはこれまで政治に直接関わることには距離をとっていたイエズス会も危機感を強め、独自政党「伝統主義の聖餐」を組織して抵抗する。


民主進歩党はこれらを打ち倒すべく、実行的な改革を推し進めようとする。まずは実証主義者たちが批判していた「選挙制の官僚」法制定を中断し、代わりに現在の社会に当然のように横たわっている「検閲」法を始めとした、様々な非効率で不公正な法律の改正を訴える。



このことは、これまで進歩党や穏健党を支持していた資本家や富裕商人たちの間にも、少しずつ彼ら民主進歩党への支持を表明する勢力を生み出していくことに繋がっていく。
そして迎える、1866年選挙。
やはり水と油であった自由貿易党から資本家勢力が再び独立し単独で進歩党を結党したこともあり、進歩党と民主進歩党は接戦を繰り広げていくことに。

最終的には僅かの差で民主進歩党が勝利。

民意も得た民主進歩党政権は明確な正統性をも手に入れ、政界の混乱はひとまずの落ち着きを見せることとなった。

そしてその信任を受けて、新政権は矢継ぎ早に改革を断行。まずは公約通り検閲法を廃止し、集会の権利を認める法律を制定。

さらに悪評判の高かった救貧法を改正し、より適切な福祉を提供する「賃金助成法」を制定するなど、実証主義者たちを支持していた低所得者たちの支持も広く集めていくことに成功する。

かくして、長きに渡り帝国内を不安定にさせ続けてきた実証主義運動は沈静化。帝国は安定を取り戻したのである。

そしてそれを見届けるかのようにして、理想を追い求め続けてきた皇帝カルロス5世は崩御。

その息子フェリペがフェリペ6世として即位し、父の遺した改革派政権を維持することを宣言した。


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「ーー新政権の様子は問題なさそうか?」
「はい。首相の座についた私の後任として、トマス・エストラーダ・パルマ将軍を新たな陸軍大臣とし、国内の安定を保っております」

「確か、キューバの出身だったな。有能な改革論者と聞いている」
「ええ。同じくカリブ海出身のフアン・パブロ・ドゥアルテも新たに政権入りさせ、彼が影響力を持つ中産階級たちも、現政権を支持するようになりました」


「国内の不安は随分と払拭されたようだな。これも、多種多様な人種民族の登用に積極的な陛下の方針の賜物か」
「それはもちろんそうですが、同時に閣下の助言に助けられていると陛下も仰っておりました。・・・しかし閣下は間も無く、引退されるとも聞きましたが」
セラーノ首相の言葉に、ルイス・デ・ラ・クルスはフ、と笑みを溢す。
「私は元々、前帝の個人的な友人という立場で自由にさせてもらっていた経緯もある。若者が中心となるこれからの新しい政権に、私のような老害がいつまでも居座っていても、やりづらくなるだけだろう。大人しく身を引くさ」
「ーー今のこの帝国の姿があるのも、閣下の尽力故であることは、私だけでなく多くの官僚たちが認識しております」
「ありがとう。そう言ってもらえるだけ嬉しいよ。しかし、やはりこれからの帝国の未来は、当事者たる若者たちによって担われるべきだ。私はマヨルカ島あたりで、ゆっくりと余生を過ごさせてもらうさ」

ルイスの言葉に、セラーノもそれ以上は抗することはなかった。
「承知しました。私も同様に、やるべきことを果たした後は、潔く身を引こうと思います。
とは言え、まだまだ、不安な要素もあります。今回の改革を実証主義者たちは自分たちの勝利であると宣言し、その影響力の拡大を画策しております。一旦は鎮静化した彼らではありますが、引き続き注視していく必要はあるでしょう」


実証主義の時代
実証主義者たちの活動は、スペインの専門職界にその原則を深く根付かせました。実証主義の原則は、今後何年にもわたってスペインの専門機関を導くものとなるでしょう。
「大事な日です。素晴らしい日です! 一つの集団、一つの目的。今日、この寺院には司書や労働者、店主や独身女性、大工や事務員がいます。これほど多くの人が同胞の幸福のために働いているのを見るのは、なんと大切な日でしょう。それでは、今日の行事の順序を変えましょう。まずはお互いに平和のしるしを捧げることから始めましょう」
私たちは進化の次の段階に近づいています。

「また、同盟国でありながら今や我々に拮抗しうる最大の勢力となりつつあるロシアの動向も気になります。彼らはジェノヴァ、コルシカを飲み込んだトスカーナ共和国を自身の勢力圏に加えており、将来においてロシアと敵対するようなことがあれば、この戦略的危険性は無視できないものとなるでしょう」

「その通りだな」ルイスは同意する。「この帝国の目の前にはまだまだ数多くの困難があり、越えるべき障害がある。それは決して容易に乗り越えられるものでもないだろう。
しかし、それはかつて我々の偉大なる先人たちによって成し遂げてきたことでもある。かつて、異教徒たちに支配されてきたこの半島を、ピレネーの南面より少しずつ着実に取り戻し、やがて七つの海全てを支配するに至ったこの栄光の帝国。
戦い続けることは、その誇りを守ることをも意味する。この栄誉ある帝国政府の中枢にいる者は皆、決して驕らず、決して理想を捨てず、偉大なる帝国を永遠のものとすることを誓わねばならない。
だが、きっと君たちならばできるはずだ。楽しみにしているぞ」
ルイスの差し出した手を、セラーノは固く握り締める。

かくして、物語は終わりを迎える。
スペインが覇権を握ったまま19世紀を迎えたこの世界において、この帝国はその繁栄を維持したまま、永遠の時を迎えられるかのように力強く羽ばたいていた。
もちろん、この先もまた、時の試練は彼らを苦しめ、困難に直面せしめるであろう。
しかし偉大なる先人たちが築き上げてきた寛容と宥和の哲学を彼らが忘れることさえなければ、きっとそれは次の百年も生き続けることができるはずだ。
偉大なる帝国よ、永遠たれ。
Fin.
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