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【Vic3】南の巨像 第一話 フェイジョの敗北とブラジル内戦(1836-1853)

 

1825年にポルトガルからの独立を達成したブラジル帝国は、その初めから危機的な状況に陥っていた。

独立を勝ち取った初代皇帝ペドロ1世は、自由主義的な思想を持っていた先進的な皇帝であったが、より急進的な自由主義を信奉する議会勢力と対立し、やがてこれに対抗することへの虚しさとポルトガル本国での問題の解決のために、1831年に急遽退位を宣言した。

当時、後継者となった彼の息子ペドロ2世はわずか5歳。

当然すぐさま摂政が立てられるも、その主導権を握り国内はバラバラ、そして独立を求める諸勢力との内乱に陥り、1828年にはウルグアイが独立

そして1836年現在もなお、ブラジルは内乱と国内の混乱を引きずり続けていた。

 

果たして、この南米最大の国は、この混乱を乗り越え、世界に轟く大国へと成長できるのか。

それとも混乱の中で自壊し、歴史の渦の中に飲み込まれ消えてしまうのか。

 

「南の巨像」の物語が、今始まるーー。

 

 

Ver.1.5.10(Chimarrao)

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  • Voice of the People
  • Dawn of Wonder
  • Colossus of the South

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目次

 

第2話以降はこちらから

suzutamaki.hatenadiary.jp

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2つの戦争(1836)

「それでは、状況を説明致します」

「ああ、よろしく頼む」

陸軍大臣のジョアン・パウロ・ドス・サントス・バレットの言葉に、単一の摂政を務めるフェイジョは頷く。

「現在、我が軍は2つの戦線を形成しています。グラン・パラ州とアマゾナス州で蜂起した分離主義者たちに対峙する西部戦線、そしてリオグランデ・ド・スル州で蜂起した共和主義者たちに対峙する南部戦線です」

「このうち、西部戦線の敵兵の数は多いものの、その内訳は原住民や奴隷、農民といった非正規歩兵が大半を占めており、熟練のラバテュ将軍に任せてある1万の兵で十分対応可能でしょう」

「問題は南部戦線です。ここでは若手のベルガルデ将軍に1万5千の兵を任せて守らせており、敵軍は9,000と少ないですが、正規兵の数も多く、守りを固められると厄介です」

初期の歩兵ユニットである戦列歩兵は防御力が高く設定されている。

 

「そこで、首都に駐留している帝国軍7,000を、シルヴァ将軍に率いさせてこの南部戦線に派遣することを進言いたします。シルヴァ将軍も若いですが、非常に優秀な人物で、すでにブラジル独立戦争やシスプラティナ戦争での実績も御座います。また、この帝国軍には我が軍唯一の大砲も用意しており、攻勢において優位を保つ上では重要となりましょう」

必要技術である「ナポレオン戦争」獲得前だが1大隊だけブラジルに初期配置されている騎馬砲兵。攻撃に特化した能力を持っており、新バージョンではこのように、兵科のバランスを考えることで攻撃特化・防御特化の部隊を用意する、より戦略的なシステムになった。

ペドロ1世の支持者にして、ペドロ2世に剣術や馬術を教えるなど、帝室に信頼され、帝室を愛する男である。

 

「ああ、その形で問題ない。奴らの理想も理解できないわけではないが、今は帝国の安定が最優先だ。速やかな解決を頼むぞ」

フェイジョの言葉にバレット大臣は少しだけ不機嫌そうな顔をしたものの、特に何も言わずに敬礼し、軍議は終了する。部屋に残ったフェイジョに、財務大臣のマルティン・フランシスコ・リベイロ・デ・アンドラーダが話しかけた。

「最後の一言は余計だったな。バレット大臣は忠実な帝政主義者だ。共和主義者に同情的な姿勢を見せれば、内心での反発もより高まることだろう」

「独立の総主教」ホセ・ボニファシオの弟である彼は、もう1人の兄と共にアンドラーダ三兄弟として初期ブラジル政権における大きな影響力を持っていた。とくにマルティン・フランシスコは財務長官を何度か経験し、輸出入関税に関わる政策などに携わった。

 

アンドラーダの言葉に、フェイジョは苦虫を噛み潰したような表情を見せる。

「そうやって思ったことを口にする悪癖があるから、フェイジョ、君は敵を多く作るのだ。今はこの混乱した国を治めるべく、敵対する者同士でも妥協し、手を取り合わなければならない。そこには配慮が必要だ」

「分かっているよ。分かっている。対立は混乱しか生まない。我々はその瓦礫の上に秩序を作らなければならないということは」

アンドラーダの言葉にフェイジョは手を振りながら応える。「だからいけ好かない君やヴァスコンセロスと手を結ぶことにしたんじゃないか」

史実では知識人指導者のフェイジョ単独摂政による政権運営が行われ、アンドラーダや小ブルジョア指導者ヴァスコンセロスは野党としてフェイジョと対立していたが、ゲーム上ではあまりにも正当性が稼げないため、彼ら「高揚せし自由党」メンバーを政権内に入れている。

 

「何も分かっていないな」

嘆息するアンドラーダ。

「まあ良い。戦争はバレット大臣らに任せておけば良い。我々が考えるべきは、その後の政治、そして経済だ」

フェイジョはアンドラーダの言葉に無言で頷きつつ、その言葉を噛み締めていた。

彼の言う通り、今フェイジョの手中にあるこの国の政治は、あまりにも脆く崩れかかった基盤の上にある。

その解決策は何も見えない。フェイジョは独りになった部屋の中で、頭を抱え、机に突っ伏していた。

 

 

1836年1月11日。アントニオ・デ・ソウザ・ネト将軍率いる強固なリオグランデ共和国軍が守る南部戦線では、若きベルガルデ将軍が敵の2倍近い数でもって何とか攻勢を示している。

ベルガルデ将軍は若くして先のシスプラティナ戦争でも活躍した名将で、その「革新的」な性格から繰り出される「奇策」でもって、これもまた名将であるネト将軍を追い詰めていく。

一方、同時期に開かれた西部戦線はというと、ベテランのラパテュ将軍が率いる部隊が押し負けているという事態が発生していた。

ラバテュ将軍はペドロ1世時代から雇われて活躍するフランス人士官であり、半島戦争や南米のシモン・ボリバルの戦争に従軍するなど経験は豊富だったが、その「傲慢」な性格が災いしたようだ。非正規兵中心と侮った相手に対し、自軍の半分程度の数の兵で挑むという愚行を犯していた。

相手のマヌエル・ロペス将軍が、非常に防戦能力に長けた経歴の持ち主であったことも災いした。

結果、ラバテュ将軍の軍は見事に敗北し、さらに統制の取れない撤退の中で次々とロペス将軍の部隊の追撃を受けて多くの兵が斃れていった。

新バージョンで追加された「戦闘状況」。より臨場感のある戦闘展開を想像できるようになったのは非常に良い。

 

この報告を聞いたバレット将軍は怒り叫んだという。

「あの口だけのフランス野郎が! しばらく攻勢には出ず防衛に徹しているように指示を出せ!」

 

一方の南部戦線からは、ベルガルデ将軍が危なげなく勝利を掴んだとの報告が入ってくる。

ネト将軍も慣れたもので、落ち着いた統制の取れた撤退を行うことで損害を可能な限り抑えられたようだが、シルヴァ将軍率いる帝国軍も到着したことでブラジル軍側の優位は揺るぎない。

ジュゼッペ・ガリバルディなるイタリア人義勇兵が一緒になって防衛戦に加わってきたものの、これもシルヴァ将軍率いる精鋭帝国軍の前には抵抗むなしく敗戦を繰り返すばかりであった。

4月にはリオグランデ共和国全域の制圧が完了したため、この戦線に貼り付けていた南部軍・帝国軍を共にグラン・パラ戦線へと移動させる。

ラパテュ将軍もこのまま負けてばかりではいられないと、防衛の徹底という中央からの指示を半ば無視し、「強行軍」でなんとかロペス将軍の部隊を押し込んでいく。

ここに南部戦線からの援軍も加わり、趨勢は決した。

1836年6月にはリオ・グランデ共和国が、同年8月にはグラン・パラのカバナージェムたちがそれぞれ降伏を宣言。「2つの戦争」が終わりを告げた。

なお、リオ・グランデ共和国との間に結ばれたグリーン・ポンチョ条約においては、この戦線で活躍したベルガルデ将軍の進言により、反乱軍たちに対する多大な恩赦と補償とが提案されることとなった。

フェイジョは当初、この提案に乗り気であった。同胞の反乱に対し寛容さを見せ、同様の反乱が連続しないことにも大きな効果があるのではないか、と。

だが、これにはバレット大臣を始めとする保守派から猛烈な反対を食らった。最終的には与党の一員である財務大臣アンドラーダの「そんな金はない」という痛烈な一言によってフェイジョの意見は封殺され、リオグランデ・ド・スルはこの後も長らく荒廃した土地と向き合う必要性に迫られ、さらには国境沿いの街と合わせ、ゲリラとの戦いが暫く続くこととなったのである。

そしてこれはグラン・パラ州でも同様であった。カバナージェムと呼ばれた、反乱を起こした農民・原住民・下層階級の貧しい人々は、中央政府の意向により容赦なく蹂躙され、アマゾンの森林は無残にも焼き払われた。

多くの犠牲と痛みとを敗者にも勝者にも味わわせながら、この「2つの戦争」は終わりを告げ、ブラジルは本来の姿を取り戻した。

そしてフェイジョにとって、本当の戦いはここからであった。

決して簡単ではない、辛く苦しい戦いは。

 

 

フェイジョの敗北(1836-1840)

「――さて、それでは、現状の経済状況を確認していこう」

会議室の正面に立った財務大臣マルティン・フランシスコ・リベイロ・デ・アンドラーダの言葉に、長机を取り囲む一同の視線が集まる。

「まず現状、我らがブラジルにおいてはありとあらゆる商品が不足している状況だが、その中でもとくに、鉄が足りない。圧倒的に不足しており、各種建築にも滞りが出ているような状態だ」

「アメリカやイギリス、オスマン帝国からも、一部は赤字覚悟で輸入を進めてはいるが、それでも圧倒的に不足しているのが現状で、早々に自給できるよう手を打たねばならない」

「そのために我が国有数の鉄資源の宝庫でもあるミナスジェライスの開発を進めようと考えているのだが、いかんせんこの地のインフラ整備が追い付いておらず、せっかく採掘した鉄鉱石も十分に首都に移送されない状況が続いている」

「ミナスジェライスは18世紀以来の金鉱山採掘も盛んだからな。そちらの輸送のためにただでさえ少ない物流網が圧迫されている状況はある」

と、補足を加えたのがアンドラーダと同じ自由党に所属するベルナルド・ペレイラ・デ・ヴァスコンセロス。かつてはアンドラーダと同じく財務大臣を経験したこともあり、財政についての知見も豊富であった。

「ああ、その通りだ。私も現地の実業家たちに声をかけ、インフラの整備を手伝わせてはいるものの、焼け石に水と言ったところだ」

新バージョンより、国ごとの利益集団のボーナスが大きく変化している。ブラジルの実業家集団の第一ボーナスはインフラ+10%。悪くないが、産業系技術の取得速度向上ボーナスと比べるとやや見劣りがするのも事実。知識人のボーナスなんかも弱め。


「やはりフェイジョ、君が陛下と『よく話し合って』、陛下直々の布告を下すべきではないか。ミナスジェライスに対する道路整備の強化と、そして資源産業の奨励を」

アンドラーダの言葉に、長机の一番奥で話を聞いていた摂政フェイジョはあからさまに嫌な顔を見せる。

内心の共和主義者たる彼は、あまり皇帝陛下の権限を前面に出した政策を促進したくはなかった。さらに言えばミナスジェライスはアンドラーダとヴァスコンセロスが下院で代表を務めている州でもあり、今回のこの政策提案は彼らの利益誘導の一環であることは間違いがなかった。

とは言え、その主張の内容は明確に理には適っており、あからさまには反対しづらい。そこで彼は別の言い訳を使った。

「言いたいことは分かっている。だがアンドラーダ、君もよくご存じのように、我が帝国の財政はひっ迫しており、これを解消するためには消費税の項目を増やすほかなく、これ以上の皇帝権限による布告の発令は、国民の反発を招きかねない」

「なぜこんなに財政が厳しいか、分かるか?」

アンドラーダの問いかけに、フェイジョは沈黙する。

「君が摂政をしていることで議会からの反発も強くなっており、それがゆえに税金を上げる承認を得られずにいることだ。君が原因だよ」

初期ブラジルの特別ルール「摂政時代」も相まって非常に正当性が低く、税金を上げるどころか一段階下げないとろくに法律制定もできない惨状。

 

「まあまあ、与党の中で対立していても仕方がないではありませんか」

険悪な雰囲気が漂い始めた会議室の中で、その男は手を叩きながら皆の注目を集めた。

「私に任せていただければ、陛下の権威を上げ、布告への正当性を持たせることも十分に可能です」

そう告げたのは、自由党の一員であり、かつ国内のカトリック教会を代表する立場を担っていたジャヌアリオ・ダ・クーニャ・バルボーザ神父であった。

「ほう、どうやって?」

アンドラーダの言葉に、バルボーザ神父は一冊の本を取り出して説明する。

「私が責任者を務める官報ディアリオ・フルミネンセを使って、陛下が神に選ばれた存在であることを強く主張していきましょう。国内の敬虔なカトリック教徒たちは喜んで陛下の御言葉を聞くようになるでしょう」

神父の提案にフェイジョはさらに嫌な顔を見せたが、誰もがそれを無視した。

「成程、それは良い手かもしれんな。早速実行してもらいたいが」

「ええ。但し、条件があります。我々教会の要望を一つ聞いてもらいたい」

言ってみろ、とアンドラーダが促す。フェイジョは自分が行政の長であることを蔑ろにされている状況について文句の一つも言いたくなったが、どうせまた無視されるだけだろうと考え、黙っていた。

「現在、議会では公立学校制度の制定が進められている状況かと思いますが、これを取り下げ、新たに我々教会が主導する宗教学校制度の制定を進めてもらいたいのです」

「成程な」

「教育を施すことのみならず、陛下に忠実で帝国の為に働く敬虔な国民を育てるうえでも、非常に有用な制度であることと考えます」

何を馬鹿な、とフェイジョは口を開きかけたが、それを制してヴァスコンセロスも同意を示す。

「現在進めている公立学校制度も、正直国民の評判は芳しくない。結局のところ、勉強のための道具を買いそろえる余裕も我々にはない、と、下層階級が中心となって抗議活動が行われているぐらいだ」

「それは、公的資金を投入することで・・・」

「そんな金はないんだよ、フェイジョ。同じことを言わせないでくれ」

アンドラーダの言葉に押し黙るフェイジョ。「我々はもちろん、貧しい方々の味方です。必要な道具は全て揃えましょう」というバルボーザ神父の言葉が決定打となり、宗教学校制度の制定が進められることとなった。

 

フェイジョの敗北はそれだけではなかった。

先の「2つの戦争」後のリオグランデ・ド・スルの荒廃やグラン・パラにおける軍の横暴に心を痛めていたフェイジョだったが、この勝利に気をよくした陸軍大臣ジョアン・パウロ・ドス・サントス・バレットは、さらなる「侵攻」の提言を内閣に提出する。

「と、言うわけで皆様方、今こそ8年前に奪われた我らが東方州を取り返す好機であると私は考えます。かつてこの地を独立せしめたイギリスも、今は極東に気を取られているようで介入するつもりもなさそうです」

このバレット大臣の提言も、アンドラーダとヴァスコンセロスの賛成によってフェイジョの意向は無視され、1837年1月29日にブラジル帝国は東方州ことウルグアイへの宣戦布告を実施。

当然、小国ウルグアイにこれに抵抗するすべはなく、5月には早くも降伏。

ブラジル帝国は東方州の復帰を成し遂げることに成功した。

さらに、軍部は発言力をより高め、今度はこのブラジルの東方州征服に抗議し、敵対的な姿勢を示していた隣国アルゼンチンに対して宣戦布告を決議。

シスプラティナ戦争でもブラジル軍を苦しめたアルゼンチン軍は決して簡単に勝てる相手ではなかったものの、激戦となったサンタフェの戦いで見事な勝利を収めたノルデスティーノ人のリービオ・カルモが英雄として祭り上げられるなど、軍部と資本家たちが結託して仕掛けた国内向けの宣伝攻勢の甲斐もあり、国民からの支持は上々であった。

そしてこの「アルゼンチン戦争」にも勝利し、ブラジルはパンパの広がる肥沃な土地を一気に獲得することに成功したのである。

新バージョンになってから? 以前から? 州画面の州補正にカーソルを合わせると同じ州補正を持つ州にハイライトがついて分かりやすく表示されるようになった。地味に便利。


全く主導権を握れずにいる摂政フェイジョに対し、彼の支持層であったはずの都市知識人層からも強い反発が示され、巷には彼を揶揄する風刺画も多く描かれることとなった。


そして極めつけとなる出来事は、1840年の1月に巻き起こる。

その頃には完全に政治の主導権を握っていた実業家集団の長・アンドラーダの手によって、ペドロ2世の成年年齢を18歳から14歳に引き下げる法律が可決され、フェイジョの計画よりもずっと早く、その親政が開始されることとなったのである。

ここにおいて、摂政の任も解かれることとなったフェイジョの影響力は完全に地に堕ちた。彼は失意のうちに故郷のサンパウロへと戻ることとなり、その姿もまた、風刺画となって描かれ、嘲笑の的とされた。

https://en.wikipedia.org/wiki/Regency_period_(Empire_of_Brazil)

 

フェイジョ派を放逐し、自由党単独政権となった政府は、皇帝ペドロ2世の権威も背景に正当性を回復させ、いよいよブラジル政治は安定の時代へと突入するかのように思われていた。


しかし、ことはそう簡単ではない。

ここからさらなる動乱が、このブラジル帝国を待ち構えていたのである。

 

 

自由主義の加熱(1842-1851)

1842年。

自由党が政権を握り、ペドロ2世が親政を開始してから早2年。

ミナスジェライスでの鉱山開発も順調に進み、資源不足もある程度解消。

特に新たに導入した「大気圧機関ポンプ」によりその採掘量が大幅に増大。

その分、新たな資源として石炭の需要が高まり、リオグランデ・ド・スル国境沿いに位置するサンタカタリーナにてその採掘を進めていく。

これらの資源開発を中心に少しずつブラジル経済は上向きを見せ始め、不安定だったGDPもわずかではあるが上昇傾向に。

そして1842年4月8日。

この状況を受けて、イギリスから貿易協定締結のお誘いがあるなど、経済面においては確実に改善の兆しが見えつつあった。

だが、このことが政府内でのさらなる対立を招くこととなる。

 

1842年7月6日。

半年後に控えた選挙に向けて、自由党内で貿易の在り方について意見が分裂。

それまで政府を主導してきていたアンドラーダ率いる実業家集団が、イギリスをはじめとした諸外国との貿易協定を促進し、より広い自由貿易体制を構築しようとする一方、中小商店主を中心に支持を集めるヴァスコンセロスを中心としたグループは保護貿易の継続を主張。

最終的にアンドラーダが新たに「自由貿易党」を立ち上げたことで、この分裂は決定的なものとなった。

さらに、同じタイミングで、スペインから国外追放処分に遭っていたフアン・メンディザバルがブラジルに来訪。

かつて、ペドロ1世によるポルトガルでの自由主義革命を支援したこの男の存在はブラジル内でも人気が高く、異国人ながらもフェイジョの代役として知識人層の支持を一挙に集めることとなった。

扇動者効果もあり人気も高いこの人物に「主導権を付与」し、フェイジョと入れ替えで知識人指導者になってもらった。


そして、アンドラーダが抜けた穴を埋めるような形でこのメンディザバルを受け入れ、新生自由党が発足。

1843年1月1日の選挙でも地主・軍部が支持する保守党、アンドラーダ率いる自由貿易党を破り、第一党としての信任を得るに至ったのである。

 

ポルトガルからの独立戦争時代から、直近のペドロ2世親政開始に至るまで、ブラジル政界に強い影響力を保ち続けていたアンドラーダ家の時代も、間も無く終わりを告げようとしていた。

代わって実業家集団内での影響力を高めつつあったのが、この男。イリニュー・エヴァンジェリスタ・デ・ソウザ。リオグランデ・ド・スルの牧場主である父のもとで生まれるも5歳のときにその父を亡くし、貧しさの中で学校にも行けず、帆船の所有者であるリオデジャネイロの叔父のもとで世界中を旅する幼少期を過ごし、9歳からは一人取り残されたリオデジャネイロで事務員として働き続けた苦難と努力の人物である。

彼はその後、20代の前半から起業家としての才覚を現し始めた。丁度ミナスジェライス州において政府の支援でインフラ整備・資源産業への優遇措置が取られたタイミングでこの地の金鉱山の権利を買い占め、新たに「リオデジャネイロ貴金属工業」を設立。

一度はゴールドラッシュが終わり採掘量が減り掛けていたミナスジェライスの金鉱山の更なる開発を促進。莫大な富を築くことに成功した。

企業は特定の施設に対する建設力ボーナスをもたらす。貴金属工業は金鉱山の建設に高いボーナス。

 

そして彼はこの富を活かし、ミナスジェライスにブラジルで初となる鉄道を敷設。

同じ頃、国家への貢献の高さから与えられたマウア男爵の爵位にちなみ、この鉄道はマウア鉄道と呼ばれたと言う。

 

そのマウア男爵ことイリニューは、アンドラーダ時代に距離を取っていた自由党との再接近を図る。

貿易の形態については未だ意見の相違はあるものの、これと関連するある政策――すなわち、「奴隷制廃止」に向けての意見の一致をもとに協力し、未だこのブラジル政界において強い影響力を持つ保守派地主層への対抗を進めることで同意したのである。

 

 

奴隷制――それは、ブラジルの経済とは切っても切り離せない、直視すべき遺産であった。

かつて、ポルトガルの植民地として発足した16世紀の当時から、経済の基盤としての砂糖プランテーションを支えていたのはアフリカから導入した黒人奴隷たちであった。

現在はそれがコーヒーに取って代わってはいるものの、やはり同様に広大なプランテーションを維持するためには奴隷の存在は必要不可欠であり、英国をはじめとする西欧国から批判され続けている現在も、その撤廃は政界で強い影響力を持つ地主層による強烈な反発により困難を極めていた。

だが、自由党の新たなリーダーたるメンディザバル、実業家集団の新たなリーダーとなったマウア男爵、そして民衆の間でも活動家として人気を博していた南アンデス人のルペルト・ルイス=タグレといったリーダーたちが広く国民の支持を集めたことにより、「奴隷解放」に向けた機運は大きく高まることとなった。

ミナスジェライスやサンパウロなどの各農園から奴隷が逃亡する事件も頻発し、社会問題化していた。

 

1849年2月には、自由党・自由貿易党連立政権による公式の奴隷制廃止が宣言される。地主層にもやや配慮し、その禁止を実効化するための制度面は骨抜きとなり、実態としては引き続き奴隷制が存続はしたものの、完全なる廃止に向けての大きな一歩となった。

このまま地主層の力を弱め続けることで、その目的は十分に達せられることだろう。そうすれば、彼らはさらに弱体化し、国内の非効率な旧制度の撤廃と改革も進められることだろう。

だがもちろん、当の地主層も、これを黙って見ているわけがない。

そして、その動きを無視できるほど、彼らはまだ弱体化していなかったのだ。

 

 

1851年1月13日。

ペドロ2世の養育係にして、帝国軍最強の誉れ高い英雄カシアス侯ルイス・アルヴェス・デ・リマ・エ・シルヴァ)は、リオデジャネイロ郊外の邸にて一人の男と会っていた。

男の名はセペティバ子爵オーレリアーノ・デ・ソウザ・エ・オリヴェイラ・コウティーニョ。ブラジル帝国上院議員にして野党・保守党の党首でもあり、近年の自由主義勢力の伸長に抗う、守旧派の代表格であった。

「よくぞお越し頂きました、カシアス候。お覚悟を、決められたということでよろしいですかな」

「ええ」セペティバ子爵の言葉に、カシアス候ははっきりと頷く。その表情は確かに覚悟を決めた男のそれであった。

「私はこれまで、陛下のためになればと思い、その責務を果たしてきました。しかし、帝国を守るためのファラーポス戦争はまだしも、その後のウルグアイ戦争、アルゼンチン戦争と従軍する度に、同胞とも言うべき南米人たちをこの手で傷つけ、そして愛すべき我らが大地を荒廃させていくことに、我慢のならぬ疑念が湧き続けておりました。その戦果の上に、畏れ多くも貴族に列せられ、侯爵位を預かりはしましたが、そこに名誉を感じることは真の意味ではありませんでした。

 そして今、陛下の周りに巣食う自由主義者たちは、ブラジルの伝統的農業の基盤を愚かにも崩壊せしめようとしております。勿論、奴隷制度が非人道的であることは私も理解しています。しかし、彼らの手口はそれを、あまりにも急速に、すべて破壊せしめようとしているのです!

 彼らの狙いは結局、地方の富を収奪し、彼らが利権を持つ都市部へとそれを集中せしめようとすることです。そして、その背後に立つのは英国を始めとした西欧列強の存在。彼らの進む先にあるのは結局のところ西欧への従属という、かつての屈辱へと回帰に過ぎません」

「ええ、その通りですカシアス候。つい先日も、イギリスから彼らの関税同盟への加入を勧める特使が訪れました。勿論、私はこれに強硬に反対し、最終的に否決されましたが、マウア男爵ら与党の面々はあわよくばこれを応じかねない様子を見せてすらいました」

「理解できない。何のための独立だったのか。結局、奴らは陛下の為と言いながら、平気で陛下も国家も自分たちの利益のために売り払うつもりでいると言うわけだ」

カシアス候は憤慨し、右手を机に叩きつけた。

「良いでしょう。一時的にでも陛下に銃を向けることになるのは心苦しくはありますが、これも真に陛下と国家のため。セペティバ子爵。私は共に立ち上がることをここに約束致します」

立ち上がるカシアス候にセペティバ子爵も合わせて腰を上げ、その右手を差し出してがっしりと握手を交わした。

こうして、帝国に忠誠を誓っていたはずの2大勢力が結びつき、帝国は大いなる混乱に巻き込まれることとなる。

1852年。

ブラジル帝国誕生以来最大の危機となる「ブラジル内戦」の勃発である。

 

 

ブラジル内戦(1852-1853)

1852年5月19日。

サルヴァドールに視察に来ていた皇帝ペドロ2世を狙った爆破事件が発生。

これは過激な共和主義者による犯行と断定し、その代表格であった革命家軍人フランシスコ・サビーノを逮捕。鎮圧を図った。

合わせて政府は現皇帝およびその政府に対し反抗的な勢力の一掃を企図したキャンペーンを開始。捜査の手はサビーノとは直接関係ないセペティバ子爵ら反奴隷解放派の勢力にまで及ぶこととなった。

強制的な家宅捜索がリオデジャネイロのセペティバ子爵邸宅に実行されることとなり、セペティバ子爵自体は直前に脱出し難を逃れたものの、邸宅に残った資料から彼の蜂起に関する計画が明らかになる。

そしてその協力者として帝国軍の英雄たるカシアス候の名前が記されていたことが、政府与党軍関係者一同にとってはあまりにも衝撃的な事実であった。

 

もはや、内戦は不可避。そう悟った政府の動きは素早かった。

まずは軍部指導者たる陸軍大臣バレットをすぐさま懐柔。これまでは地方の権限が強かった国内警察の仕組みを、今後は陸軍主導の専門的組織に集約させる約束を取り付け、協力を確保した。

すでに家宅捜索で得ていた情報から、蜂起の準備が進められていた州が帝国北東部に集中していることを確認している。

この影響下にないと思われるリオデジャネイロやサンパウロの部隊だけを集め、そこで組織した「ブラジル帝国軍」を、バレット大臣はじめ軍部のエリートたちにより徹底的に訓練。

西欧仕込みの最新式の戦術「散兵」方式を叩き込み、急ピッチで開戦への準備を進めていった。

旧式の兵科は「アップグレード」することで最新式の兵科へと変換できる。ただし一気にアップグレードできるわけではなく、時間経過と共に少しずつUGが達成されていく。上記画像はすでにUGを開始してからそれなりに時間が経っている状態だが、まだ7大隊分の戦列歩兵が残っている。


そして1852年11月。

ついに、反乱軍が蜂起。

主にカシアス候を信奉する将校と兵士たち、またはサビーノを支持する共和派の民衆が中心となった総勢2万弱の兵が動員されているとの情報を事前に掴んでいた。

数の上では政府軍が有利ではあるものの、相手は名将カシアスである。油断はできない。

それを見込んで、あらかじめ欧州に派遣していたメンディザバルが、朗報を携えて帰国してきた。

なんと、ナポレオン3世率いるフランス帝国が、ブラジルとの貿易協定締結を条件に軍事的支援を差し出すことを約束したのである。

もちろんこれは、イギリスへの対抗として、南米への経済的干渉の足掛かりにしようという思惑の上ではあったのだろう。

それでも、この強力な援軍を得たことで、政府軍はこの内戦をかなり有利な状態で開幕させることができたのである。

 

年が明けて1853年1月。古き金鉱の町ゴイアスにて、緒戦が開かれる。

かつてカシアス候と共にファラーポス戦争を戦ったベルガルデ将軍も、カシアス候が守る鉄壁の陣地を前に成す術もなく、屍を築いていくばかり。

続けて仕掛けたラバテュの軍も当たり前のように敗走していく。

とは言え、軍量の絶対的な差は如何ともしがたく、陸海すべてにおいて反乱軍の支配地域を包囲。一つの部隊が斃れてもまた、別の部隊が即座に攻撃を仕掛けるという波状攻撃を見せていく。

画像では分かりづらいが、このように単一の部隊を相手に複数の部隊で戦線を形成しているとき、1つの戦闘が終わると間髪入れずにすぐに次の戦闘、というように数に頼んだ波状攻撃が仕掛けられるようになっている。恐らくは、旧バージョンよりもより一層数が正義となっている。


そして、この戦線の総指揮を任されているのが、「国民的英雄」リービオ・カルモ。カシアス候なき後の「帝国軍」1万8千の兵を任され、ベルガルデ将軍の南部軍、ラパテュ将軍のアマゾン軍が奮闘する背後で、機を待ち続けていた。

そして、来るべき瞬間を見つけ、一気に突撃を指示。

すでに立て続けの戦闘で疲弊し続けていたカシアス候の軍は、ここに来て最大の兵数で襲い掛かってきた精鋭・帝国軍を前にして、一気に瓦解していくこととなる。

さらに、北西部の戦線でも、フランス軍が上陸してきてこれに攻撃を仕掛ける。

最新式の装備を揃えたフランス軍の圧倒的な戦力を前にして、反乱軍の兵士たちもひとたまりもなく、ただただ敗走するばかりとなっている。

最初はさすがのカシアス候、と政府軍側を恐々とさせた瞬間もあったが、蓋を開けてみれば一方的な結果が積み重なり、その年の暮れが近くなるころには趨勢は決し始めていた。

そして1853年12月11日。

ついに、反乱軍は刃を折り、降伏を決断する。

反乱の首謀者であったセペティバ子爵とカシアス候はその身柄を拘束され、リオデジャネイロにて銃殺刑に処されることが決まった。


 

「最期に何か、言い残すことはあるか?」

リオデジャネイロの広場の中央で、後ろ手に拘束されたまま立たされていたカシアス候に対し、これを見守っていたバレット大臣が言葉を投げる。

カシアス候は毅然とした態度で大臣を見据え、語り始める。まっすぐと彼に向けられた複数の銃口も、まるで彼の目に入っていないかのような態度であった。

「大臣、貴殿も理解しているはずだ。この帝国も、もはや長くはない。私はその寿命を少しでも長くしたかった。それが、この帝国と陛下に忠義を尽くす者の役目だと信じていたからだ」

カシアス候の言葉に、バレットは沈黙していた。英雄に銃を向ける兵士たちの腕も、心なしか震えているようであった。

「今や帝国は、これを自分たちの富と繁栄のための道具だと勘違いしている寄生虫たちによって、食い物にされてしまっている。その背後にはフランスやイギリス、あるいはアメリカといった大国たちが控えているのだ。帝国も、その中の若者たちの未来も、肥え太った欲望の獣たちによって侵食されてしまうことだろう。

 私はこのまま死ぬが、これで終わりではない。むしろ私よりもずっと、帝国を、陛下を慮ることのない過激な共和主義者たちが、この国に破滅をもたらすであろう。

 そのとき、せめて貴殿の手で、陛下を御守りいただきたく、大臣」

「――そうしたいところだが、どうかな。私もまた先は長くなく、そしてすでにこの手は汚れているのだから」

大臣は帽子の鍔を下げ、踵を返した。

「――撃て」

リオデジャネイロの夏の空に、複数の銃声が響き渡り、一人の英雄の人生が終焉を迎えた。

 

 

 

かくして、帝国創設以来最大の危機となったブラジル内戦は、フランスの介入もあり1年足らずで幕を閉じることとなった。

政権を担う奴隷解放派にとっての障害がなくなったことで、ついに奴隷制の廃止が実現したのである。

 

だがそれは、果たして未来の栄光を約束するものであったのだろうか。

それとも――カシアス候の最期の言葉が示すが如く――破滅をもたらす引き金となるのだろうか。

 

 

第二話へと続く。

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