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クルキ・タリナ⑥ 聡明なるラウリ・上(1164-1178)

 

クルキの一族は11世紀半ばの時点ではフィンランドの一部族の長という立場に過ぎなかった。

しかしミッコという名の男がその勢力を一気に拡大させ、最終的にはキリスト教徒のスウェーデン王国を滅ぼし、バルト海沿岸地域における最大勢力へと成長。

その子アンリの代にはノルウェー王国も滅ぼし、デンマーク王国からも領土を奪い、スカンディナヴィアを名乗る大帝国を築き上げたのである。

しかしその叡王アンリの死後、帝国は混乱の時代に陥ることとなる。

アンリの子ヨハネスが即位後わずか2年で暗殺されたのを皮切りに、その子ヴァイノ、ジグルト、ボルクウァルドが次々に暗殺ないし病没し、アンリ死後20年の間に実に4人もの皇帝が擁立され、そして廃されることとなったのである。

その間に、帝国各地は有力諸侯らが我が物顔でこの権力を奪い尽くし、皇帝の権威は地に落ちる状況となっていた。

その中で、新たな皇帝として即位したのは、ヨハネスの年の離れた弟であるラウリ

フィンランド王として帝国東部の治世を任されながら、彼もまたポフヤンマー公やカレリア公などの諸侯らにその権力を食い物にされていたはずの男だったがーー彼の到着と共に、帝国は新たな時代を迎えることになる。

 

混乱の時代を経て、帝国はいかなる未来を形作るのか。

 

 

目次

 

Ver.1.12.5(Scythe)

使用DLC

  • The Northern Lords
  • The Royal Court
  • The Fate of Iberia
  • Firends and Foes
  • Tours and Tournaments
  • Wards and Wardens
  • Legacy of Perisia
  • Legends of the Dead

使用MOD

特殊ゲームルール

  • 難易度:Extreme
  • ランダムな凶事の対象:プレイヤー含め誰でも

 

前回はこちらから

suzutamaki.hatenadiary.jp

 

ラウリという男

1164年4月23日。

甥の訃報を受け、フィンランド王ラウリは海を渡りルンドまでやってきた。

綺麗に整えられていた甥の亡骸を前にして彼は慟哭してみせた後、居並ぶ廷臣たちを前にして、堂々とした様子で自身の即位を宣言した。

「あー・・・まあ、その、なんだ。

 私が君たちの新しい皇帝だ。まあ、よろしく頼むよ」

――堂々と、というのは訂正しなければなるまい。

どこか気の抜けた言い方で即位を宣言したラウリに対し、多くの臣下たちは一抹の不安を覚え、そしてウプーランド公やイェムトランド公ら有力諸侯たちは内心安堵した様子で小さな笑みを口元に浮かべていた。

新たなる皇帝、恐るるに足らず。その聡明さは噂には聞いていたが、実際にはおよそ主体性と言えるようなものはなく、また臣下のポフヤンマー公との内戦や異教徒との聖戦を経てその体は大きく傷つき、片足を失ってさえいた。

 

「陛下、早速ですが現状、デンマーク王との戦の只中でありまして」

宰相のウプーランド公が近づき説明すると、「ああ」とラウリは応える。

「いいよいいよ、それらはすべて任せる。何とか頑張ってね」

と手をひらひらさせながら興味なさそうに返し、その他の臣下たちのもとへと割って入っていった。

彼は気さくに臣下たちに話しかけ、その周囲には笑い声が響き始める。暫く不幸が続き、常に猜疑心と緊張感に溢れた宮廷内において、久方ぶりに耳にする笑い声であった。

「掴みどころのない男だな」

家令を務めるイェムトランド公に話しかけられ、ウプーランド公も鼻を鳴らす。

「フン・・・フィンランドすらまともに統治しきれていない男だ。大したことはあるまい。ボルクウァルドが殺されたのは誤算だったが、我らは粛々と新しい政権における基盤を固めていくだけだ」

ウプーランド公はそう吐き捨てると、戦争の状況を確認すべく宮廷を後にした。

 

ボルクウァルド期末期に開始されたデンマーク戦争は、順調にことを運んでいた。

ラウリの皇帝即位とほぼ時期を同じくし、オールボーの戦いにおいて帝国軍が圧勝。元帥マルサルカイハンティ・ライネはこの勝利で得た敵軍の軍旗を皇帝に献上するなど、その成功を大々的にアピールした。

そして7月にはデンマーク王も抵抗を諦め、降伏を受諾。

王国を南北に二分する形で、シュレースヴィヒの地をスカンディナヴィア帝国に譲渡することに合意した。

 

「陛下」

戦後処理を進めるにあたり、ウプーランド公はラウリに進言する。その背後にはイェムトランド公の姿も。

「新たに獲得したシュレースヴィヒスレスウィの地ですが、我々にその統治を任せてもらえないでしょうか。帝室は未だ混乱状態にあり、陛下はフィンランドスオミ王国側も同時に統治するという難しい使命が御座います。我々のような陛下に従順なる第一・第二の臣下が責任を持って異教徒の地をお治め致します」

ウプーランド公としては有無を言わせぬ口調で迫ったつもりであった。これはお願いではなく、強要である。拒否すれば、どうなるかーー。

しかし、ラウリは心から不思議そうな表情で応える。

「? いや、別に問題ない。これは皇帝として始めた戦争の結果であるが故に、獲得した土地は皇帝が直接治めるつもりだ」

ウプーランド公のこめかみに、青筋が走る。

「こ、此度の戦いは我々の指導の下、成功に導きました。それに前帝ボルクウァルド様とはこの戦争の後の処遇については任せてもらえることを」

「それって何か文書で残ってるの?」

ラウリの言葉に、ウプーランド公は言葉を詰まらせた。

「それに、前の皇帝はあくまでも前の皇帝。今は私が新たな皇帝なので、その獲得した土地の処遇について私が考えさせてもらう。貴殿らの活躍にはもちろん、感謝しているが、従順なる臣下であれば、それは当たり前の行動だろう?」

ラウリはニッコリと笑い、ウプーランド公とイェムトランド公の肩に手を置いた。

宰相パーミニステリ殿、家令ステュエッティ殿。引き続き、帝国への貢献、大いに期待している。我はこれより国内への巡幸を開始する。それまで宮廷の管理、よろしく頼むぞ」

そう言ってラウリはさっさと玉座の間を出て、言葉通り巡幸の準備を開始した。

残されたウプーランド公は怒りに肩を震わせながら、何やらぶつぶつと呟いている。

その背後でイェムトランド公は落ち着いた表情で、口元に手を当てながら何事かを考えている様子であった。

 

帝国西部の主要都市を巡るラウリの巡幸は、概ね成功と言えるものであった。20年に及ぶ混乱期において一切行われることのなかったその巡幸は、行く先々で市民や諸侯らの歓待を受けた。

それは久方ぶりの成人した皇帝の即位であり、またデンマーク王との戦いの勝利を祝す凱旋でもあり、そしてまた、ラウリの気前の良さが行く先々で帝国の財宝を分け与えるものでもあったため、民衆からの評判は上々であった。

とは言え、ただ浪費するだけの旅ではない。彼は気前の良さと同時に強欲さも兼ね揃えており、行く先々で何かと理由をつけては臣下たちから金を巻き上げることを忘れなかった。

これらの徴税の「理由付け」を支援したのが、ラウリが側近として連れて歩いたゴットランド領主市長アイモであった。彼は優秀な行政官として、行く先々で法律に従った追加徴税の方法を編み出し、文句を言わせないままに主君の懐を温める。

2年以上にもわたる大旅程の末に、ラウリは大量の資金を手元に置くことに成功。

彼は自らの理想とする統治に向けた準備をしっかりと整えることができたのである。

 

だが、そうこうしているうちに、内部では新たな「動き」が作られていく。

ウプーランド公がイェムトランド公らと共謀し、彼の息子であるオラヴィを新たな皇帝として推戴する派閥を形成していったのである。

オラヴィは初代皇帝アンリの孫にあたる人物で、帝位継承の資格を持ち得る人物であった。

 

そして1167年2月14日。

ウプーランド公は主君・ラウリに対し、最後通牒を突き付ける。「汝はこの事実を大人しく認めよ。さもなくば我らが力ずくで認めさせるまでだ!」

この書状を玉座で確認したラウリはいつもの飄々とした表情を特に変えることなくしばし思案したのち、

「――相分かった。この帝位、大人しく禅譲致そう」

主君の決断に、異を唱える者は殆どいなかった。すでにウプーランド公やイェムトランド公など、批判的なものは早々に立ち去った今のラウリの宮廷内には、彼の可能性を十分に理解した者たちだけが残り、誰もが主君の指し示す道こそが正しき道であると理解していた。

ただ一人、皇帝の「摂政」を務めるアールフリドだけが、この決断に否定的な構えを見せた。すでに没落しつつあるギスキン家とは言え、この20年培ってきた権力を、帝位禅譲という形で失うことには抵抗があった。

だが、そんなアールフリドに、ラウリは優しく語り掛けた。

義姉あね上、お気持ちは分かります。しかし今は、決断の時なのです。

 思えばこの20年、義姉上にとっては栄光ばかりの20年とは決して言い難かったでしょう。とりわけ、義姉上の子であった、ヴァイノ様を手にかけるご決断をされたときは・・・」

囁くようにして告げたその事実に、アールフリドは目を見開き、その双眸から涙を流し始めた。

「――私は反対だった。そんなことする必要はないと・・・しかし、叔父上はそれを許さなかった。私は摂政という地位にありながら、結局はベルグスラーゲン公の傀儡でしかなかった」

「ええ、ええ、そうでしょう、義姉上。義姉上は、本来は心優しく、そしてこの帝国の未来を見据える瞳を持つ御方。今はあのときの悲劇が故にその氷を凍てつかせてはいるものの、この憎悪と陰謀に塗れた宮廷を去ることで、その心を再び取り戻すことがまずは先決なのです」

「それに、私は諦めてはおりません、決して」

ラウリの言葉に、アールフリドはハッと顔を上げる。

「今この宮廷に無理にとどまることが、クルキの血を継承する上での最大の障害となり得るのです。まずは身の安全を確保し、十分な基盤を整えた上で、再び帝位を取り戻すべき時を待つだけです。

 そのときには、義姉上、貴女の残された御子息様にも、その機会を与えるつもりでは御座いますよ」

最後の言葉が決め手となり、アールフリドは帝位禅譲を受け入れることとなった。

だが、最後に彼女はラウリに向けて告げる。

「ラウリ・・・これだけは信じて頂戴。ボルクウァルドは確かに私の子ではなかったけれど、彼を殺したのは私やギスキン家ではないわ」

「ええ、分かっております。真の犯人は他にもいる。それは改めて、探っていくつもりです・・・」

 

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かくして、スカンディナヴィア第6代皇帝ラウリは、その帝位を甥のオラヴィ・セップへと禅譲することを決めた。

帝位を奪われたラウリはもともとの「フィンランド王」であることに戻り、その所領も帝国東部のフィンランド王国地域及び西部の一部所領のみに限定された。

ルンドの宮廷も追い出された彼は、かつての居城であるオウルにまで戻って来ることとなった。

「いやはや、3年ぶりか。しかしもっとずっと長い間留守にしていたように感じるぞ。私にとってあのような大都会よりも、こういう森の中の砦の方がよっぽど落ち着くな」

「――ご苦労様でした、陛下。またお仕えできること、光栄に御座います」

快活な様子でオウルの宮廷に上がり込んできたラウルを待ち構えていたのは、フィンランド王時代の宰相を務めていたカレリア公。かつてはポフヤンマー公と共にラウリの権力を簒奪しようと暗躍していた彼も、今や心からラウルに仕える従順な諸侯の一人となっていた。

「ああ。むしろ、ここからが本番だ。頼りにしているぞ。

 早速だが、戦いの準備をよろしく頼む」

ラウリの言葉に、カレリア公は最初いつもの冗談だと思って半笑いを浮かべるが、やがて主君の目が真剣そのものであることに気づく。

「――いきなりですか?」

「ああ。こういうのはスピードと意外性が重要だ。今、私は帝国中に舐められた存在として見られているだろう。それはそれで都合が良いが、それよりもここから一撃を加えることで、帝国内における今後の立場を有利にしておきたい。

 いわば、新皇帝とウプーランド公に見せつけるのさ。俺は、お前らなんぞいつでもぶちのめすことができるんだぜ、とな」

カレリア公は頷く。

そして、ここから「聡明なるアルカスラウリ」の反撃が始まっていく。

 

 

反撃の時

ラウリの反撃の最初の標的とされたのは、隣国サプミの女王ソーヤであった。

太祖ミッコの孫にあたる人物で、帝国北部の実力者ギェマヨフカ公の後ろ盾もあり、帝国混乱期中の1151年に、まだ幼かったラウリからサプミ王位を奪い取った女。

そこから20年近い時を経て、復讐の機会がついに巡ってきたというわけだ。

 

1167年5月。

まずはフィンランド軍3,150を元帥マルサルカイハンティ・ライネに率いさせてフィンランドとの国境沿いにあるギエンパの砦を包囲開始。550名の守備兵が守るギエンパの砦は、約半年後に陥落の見込みとの報せだ。

当然、サプミ軍も黙ってはいない。首都ビトンから発出した3,700の兵が、砦を囲むフィンランド軍に攻撃を仕掛けようと迫る。

数的には不利。
しかし、フィンランド軍を率いるイハンティ・ライネは、慌てることもなく各小隊長たちに指示を飛ばしていく。

先のデンマーク戦争でも類稀なる戦果を上げ、皇帝ラウリに敵の軍旗を捧げた男。彼もまた、ラウリに魅せられ、帝都を追われたラウリに従ってフィンランドまでやってきた男だ。

そして彼は、フィンランドスオミ人らしい、タイガでの戦いを得意とするタイプの将軍であった。

そんなイハンティの「縄張り」とも言うべき領域に入り込んだが最後――たとえ数で勝るといえど、無事には済まないのだ。

退却を始めるサプミ軍。

しかしイハンティは逃さない。戦意を失い逃走する敵兵を、森の中にあらかじめ潜ませておいた伏兵たちによって囲み、襲撃し、次々と鮮血に塗れさせていく。

イハンティ自身も先頭に立って敵兵に斬りかかり、有力な将軍を一人、討ち取ってすらいる。

結果はフィンランド軍の圧勝。敵軍はその総兵力の3分の1以上を失い、逃げかえるほかなかった。

その後も順調に、占領地域を広げていくフィンランド軍。

1168年6月にはソーヤも降伏に追い込まれ、サプミ王国全土がラウリのものとなったのである。

 

休む間もなく、ラウリは次の戦いを進めていく。

次の標的は、帝国創設後も長らく半島の中央部に鎮座し続けていた異教徒たち。

幾度となくこの地から異教徒たちの軍勢が現れては、ウコヌスコ信徒らの土地を奪い取ろうとこれを荒らし回る事態に農民たちは辟易としていた。

しかし死を恐れぬ屈強なカトリック兵たちを相手に、周辺の諸侯は中々手出しをできずにいた中で、ラウリはいよいよこれを叩くと決めたのである。

 

「――こんな絶望的な戦いにおいても、貴殿らは共に戦ってくれるというのか」

異教徒たちの族長を務めるウールヴヒルドルの言葉に、鎧を身に纏った男ははっきりと頷く。

「かつて我々がバルト海にて嵐に遭い、スカンディナヴィアに漂着したとき、危険を省みず助けてくれたことを我々は決して忘れない。貴殿らに助けられたこの命、貴殿らのために使い尽くすことに何を恐れようか」

聖ヨハネ騎士団の総長マテイがそう告げると、彼の周囲の騎士たちはみな気勢を上げる。その数、3,600超。数年前からウールヴヒルドルらと生活を共にしている彼らの存在が、ウコヌスコ諸侯らが幾度となく略奪に遭いながらもこれを叩き潰せない要因となっていた。

しかしそんな彼らも、いよいよ命運が尽きるべきときがやってきていた。ラウリは自前の兵力3,500のみならず、彼の父が創設したウコヌスコの聖戦戦士団「カレヴァラの息子たち」も召集し、総勢8,500超の軍勢でキリスト教徒たちを襲おうとしていた。

その軍勢を率いるのはやはりこの男。先のサプミ戦争でも活躍した、ラウリの懐刀イハンティ・ライネ

北欧の森における最強の軍隊が、半島最後のカトリック勢力たちを駆逐すべく、その森に足を踏み入れる。

クルキ家の一門であるエムンド・クルキ。彼は元サプミ王でアンリ王の弟でもあるクーティの孫にあたる人物であった。父から受け継いだ領地は兄に任せ、次男である彼は聖戦士の一人としてその生涯を捧げることを誓い、この戦いにおいても活躍を見せることとなった。

 

総指揮官イハンティ・ライネが戦いの中で負傷するほどの激戦は、最終的にフィンランド軍に軍配が上がった。

女族長ウールヴヒルドルは敗北を認め、その領地はすべてフィンランド=サプミ王国のものに。いまだ民衆の信仰はカトリックのままではあるものの、それもやがて、ウコヌスコに染まることになるだろう。

そしてこれを成し遂げたのは他でもない、「元皇帝」ラウリであった。

彼はその信仰心においても「美徳の模範」と呼ばれる程の存在となりつつあった。

そしてやがて、誰がこの帝国の主として真に相応しいのか。

あるいは今、その玉座に座っているものが果たして真に相応しいと言えるのか。

そのことを問う言説が、民衆の間に流布されつつあったのである。

 

 

「ーー父上、どうすれば良い?」

玉座に座る皇帝は、おろおろと戸惑う様子で父のウプーランド公に助けを求める。

「情けなし。お前は皇帝なのだから、常に堂々たる姿でそこに座っておれ。ただでさえ、その矮躯わいくは人に侮られかねぬものなのだからな」

言いながら、ウプーランド公は我が子の愚かさに内心辟易していた。

(全く、その血筋さえなければ儂自ら皇帝を務めたいものだが・・・致し方ない)

「オラヴィ、案ずることはない。すでに手筈は整えておる。奴は随分と間抜けな男のようで、宮廷内に素性の知らぬ奴らを平気で入れている。余計なことをしなければ、平穏でいられたという事実を、間も無く身をもって知ることになるだろう」

 

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「あら、珍しいわね」

ラウリが庭に座り込んで一匹の猫と戯れているところを見かけ、彼の正妻であるアリスが驚いたように声をかける。

「いやちょっとね・・っとと。なかなか気難しいものだね、猫っていうのは」

好き勝手にラウリの体を踏みつけてはその差し出す手から逃れようと飛び跳ねる獣の姿に苦戦しつつ、ラウリは実に楽しそうに笑う。

「人間なら誰でも、貴方の思い通りに動かすことはできるのでしょうけれど、猫ではそうはいかないみたいね」

「そうだな・・・だが」

クスクスと笑う妻に合わせ笑いつつ、やがて彼は振り回していた手をすっと下ろす。

すると猫は瞬く間にラウリの体をよじ登り、その肩の上でうずくまり欠伸をし始めた。

「いざというときに真に忠義を見せるのは猫の方かもしれん。コイツは私にとって、最も頼りにできる護衛なのさ」

 

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1175年2月10日夜。

フィンランド王ラウリの寝室の中にいつの間にか潜り込んでいた毒蛇を、ラウリの愛猫が追い払うという事件が発生。

その報せーーつまりラウリは無事であったという報せーーを耳にしたウプーランド公はすぐさまラウリに書状を送る。

すなわち、「当方に何も敵意はなく、同じ皇帝の臣下として友であろうではないか!」という内容と共に、不可侵の約を結ぶための代金を包んだ書状である。

このあまりにも情けない手の平返しを見て、人々は彼を嘲り、そして密かに「小心公アルカ・プリンシ」と呼ぶようになったという。

堪らないのは梯子を外される格好となった息子のオラヴィの方である。ラウリの次の標的が自分であることは明白であったのだから。

しかし彼は追い詰められると猫を噛むタイプであった。

1175年11月。

ラウリが総勢1万1千の賛同者たちを得て皇帝にその帝位の「返還」を要求したとき、彼は見違えたかのように堂々とした様子でこれを跳ねのけたという。

かくして、「聡明なるアルカスラウリ」による、「帝位請求戦争」が開始される。

 

 

帝位請求戦争

戦争の開幕と同時に、イェムトランド公の領地から兵を挙げたフィンランド軍は、そのままスウェーデン王国領北部から親オラヴィ勢力圏への侵攻を開始する。

1176年5月にはスウェーデン王国首都シグチューナを包囲。

翌年1月にはこれを陥落させるなど、圧倒的な速度で戦果を上げていった。

一方の皇帝軍はというと、1176年末にようやく姿を現す。

総勢7,600超の兵を率いてフィンランド王国領南部のニューランドの地へと上陸する。

反乱軍としてもこれを傍観するわけにはいかない。

彼らがそこから真っ直ぐに北上すれば、その先には王都オウルに到達してしまう。

何より、野戦で敵を打ち破ってこそ、真の帝国の支配者たる威厳を見せつけられるというもの。
1177年5月。

ハメーンリンナを陥落させた皇帝軍と、スウェーデン方面から海峡を渡りやって来た反乱軍がついにメッスキュラの地で激突を開始する。

最初期こそ、数的劣勢の中で次第に追い詰められつつあったフィンランド軍。

しかし、そこに援軍がやってきたことで次第に形勢は逆転していく。



ついには1177年7月28日にこのメッスキュラの戦いは終幕。

指揮官も務めた「巨人ヤッティライネンインゲマルは一人で総勢120超の敵兵を屠るなど、目を瞠る活躍をしてみせたのである。

太祖ミッコが愛したカレヴィ・シュダンマーから受け継がれてきた「国王の選ばれし傑物」の継承者でもある男だ。


この勝利で趨勢はほぼ確定したと言ってよい。

最終的には1178年5月の「ニューランドの決戦」で反乱軍が圧勝したことで皇帝オラヴィも抵抗を断念。

1178年5月20日。ウプーランド公*1オラヴィは降伏を認め、ラウリは再び「皇帝ケイサリ」の地位を取り戻すことに成功したのである。

 

「――実に、見事でしたな、陛下」

此度の戦争において、軍を出すなどの直接的な協力はしなかったものの、その侵攻ルートにおいて土地を貸し、間接的に協力を果たしていたイェムトランド公が、新たな皇帝ラウリに向けて恭しく臣下の礼を取る。
ラウリも、かつては敵対的であったことなどは気にする様子もなく彼を重宝し、特にその権謀術数の才を自らの権力基盤増強に活用していた。

手始めにラウリにとって「邪魔者」であった「摂政」アールフリドを、横領の罪を問う形で追放。

彼女の代わりに新たな摂政となったイェムトランド公は、主君の意を汲んで国内の反抗的な勢力を次から次へと微罪で投獄。その首を狩り、没収した財産を国庫へと組み入れるなど皇帝の権威権力を高めるための片棒を担いでいった。


これにて、「皇帝」ラウリの権力基盤は盤石。

その繁栄は永遠のものに――と思われていたそのとき、ラウリはイェムトランド公から一通の書状を手渡される。

それは、デンマーク王ヴァレンティンから届けられた書状であった。

 

「――ほう」

その中身をイェムトランド公から説明されたラウリは、実に心から愉しそうな表情を見せる。

「関係者はすべて闇に葬ったつもりであったが、秘密というのは永遠に隠し通せるものではないのだな」

クックック、と哄笑する主君に、「いかがなさいますか」とイェムトランド公は冷静に尋ねる。「拒否すればこの事実を、奴は公表するものと思われますが」

「何――構わぬ。すでに得るべきものは手中に収めた。15年前、唐突に手渡された腐敗しきった虚木としてのそれではなく、十分に成熟し、実り豊かな巨木となった帝国を、な。

 今更我が名が穢れようと、大勢に影響を及ぼすものではない」

デンマーク王とその賛同者たちの手により、ラウリの隠してきた秘密は帝国中に知られることとなる。
やがて、彼は新たに「残酷帝ユルマ・ケイサリ」と称されることとなった。


それでも、彼の権力は揺るぎなく盤石なものとなっている。



バルト海イタメリ世界に君臨する同地域史上最大の帝国。

その運命は、果たしていかなる結末を迎えるのか。

 

次回、最終回へと続く。

 

 

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過去のCrusader Kings Ⅲプレイレポート/AARはこちらから

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北条高広の野望β ~上杉謙信を3度裏切った男~北条高広の野望β ~上杉謙信を3度裏切った男~(1567-1585):Shogunate Beta版プレイ。単発。

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*1:父の小心公シグトリュグは戦争中に病死し、オラヴィが継承していた。