リストリー・ノーツ

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クルキ・タリナ③ 寛容なるアンリ・上(1107-1127)

 

12世紀後半、のちにフィンランド王国として統一されることとなる地方の弱小な一部族の長でしかなかったクルキ家のミッコは、幼くして父アンリを喪い、母アームや養育係でもあった将軍サタヤルカの補佐を受けつつ次第にその権力と影響力を増していった。

そして1080年、彼はフィンランドを統一し、さらに1091年、ウコヌスコの3つの聖地を獲得。12世紀初頭にはサーミ人の支配地域にも勢力圏を広げ、ついにはキリスト教国家のスウェーデンも征服し、バルト海全域に影響力を持つ巨大国家となった。

 

そのままさらにミッコはその勢力をスウェーデンの対岸に位置するノルウェーにまで広げ、全スカンディナヴィアを支配する巨大な「帝国」を築き上げることさえも狙い、1107年春にノルウェーに宣戦布告する。

すでに長きにわたる内戦と、デンマーク王国からの侵攻によって疲弊していたノルウェーに、抵抗する術などない。

このまま、ミッコの覇業を妨げるものなど、何もないように思えていた。

 

しかしそれは、唐突に訪れる。

1107年5月20日。

対ノルウェー戦争の司令部が置かれていた、ベルグスラーゲン女公アールフリドの居城・ファレネ。

そこでの晩餐会の席において、彼は食事中に突然苦しみ始め、間もなくトゥオネリへと旅立ってしまったのである。

バルト海世界にその名を遺す強大なるクルキ帝国の祖・ミッコの物語はこうして終わりを告げ、新たに寛容なるスヴァイツェヴァイネンアンリの物語が幕を開ける。

果たして彼は、亡き父王の遺志を叶えることはできるのか。

そして、その過程にある、決断と悲劇とは。

 

目次

 

Ver.1.12.5(Scythe)

使用DLC

  • The Northern Lords
  • The Royal Court
  • The Fate of Iberia
  • Firends and Foes
  • Tours and Tournaments
  • Wards and Wardens
  • Legacy of Perisia
  • Legends of the Dead

使用MOD

特殊ゲームルール

  • 難易度:Extreme
  • ランダムな凶事の対象:プレイヤー含め誰でも

 

前回はこちらから

suzutamaki.hatenadiary.jp

 

フィンランド内戦

状況と対策

その騒乱は唐突であった。突如、宴席の一部が騒々しくなったかと思えば、そこから怒号や悲鳴が鳴り響き、危険な言葉が混じった声が荒波のように幾度となくアンリのもとにも届いていた。その言葉の中身を十分に理解するよりも早く、周囲の護衛たちがアンリに「すぐにお逃げなさい」と囁き、それに同意する間も無く彼はまるで抱えられるようにして部屋を脱出させられた。気がつけば彼の周りには、物々しく武装したフィンランド兵たちによって固められていた。

そして誰もはっきりとは言わねども、断片的な情報からアンリは事態の中心にある出来事について十分な理解を獲得することができていた。

 

すなわち、父ミッコが死んだ。

このバルト海イタメリを囲む大帝国を支配する巨大な存在が、唐突に崩れ落ちたのである。

 

そのことを感情的に処理するよりも早く、彼の頭の中には今後の戦略についての思考が高速に転回されていた。

もちろん、帝国の第一皇子たるもの、あらゆる事態を常に想定はしていた。しかし今はあまりにも困難な事態であった。ノルウェーとの戦争はまだ始まったばかりで、講和への道筋は全く見えない。

そしてあまりに偉大すぎた父王の突然の不在は、その威信に惹きつけられて従ってきた王国内の有力諸侯たちの叛意を焚きつけるには十分すぎる材料であった。帝国を完成させ、十分な準備を行なったのちであればまだしも、それが成される前の今は、一瞬で各王国がバラバラになりかねないものであった。

 

1107年5月26日。

スウェーデンから命からがらに逃げ出したアンリは、最低限の手勢を引き連れてフィンランド王国首都ウルヴィラへと辿り着いた。そこにはすでに、アンリの義父であり王国家宰としてその実権の多くを掌握するアートス・アントネンが待ち構えていた。

「陛下、ご無事で何よりで御座います」

忠誠を示すかの如く膝をつき、深々と頭を下げるアートス。王国内最大の勢力を誇る彼が真っ直ぐな忠誠を示してくれることは、アンリにとってはこの上ない安心であった。

この事態に備え、反乱への参加を防ぐ同盟関係を結ぶことを最優先に、アンリの婚約相手をアートスの娘にしていた。

 

しかし、アートスの冷静な言葉は、事態の深刻さをより具体的にアンリに伝えるものとなった。

「現在、ミッコ様の御遺体については、カレヴィ・シュダンマーを中心とした親衛隊の手によって慎重に移送されているところで御座います。現状、ベルグスラーゲン女公も弟君のスウェーデンルオチ王ヴォイット様も、我々に友好的であり、この度の事態が引き起こされたことへの遺憾の意と同情、そして謝罪を表明しております。今後、その真意を探る必要はありますが、今のところは最善の注意を払いつつもその好意の持続を願う他ありません。

 続いて、ノルウェーノルヤ侵攻部隊についても、正確な情報は不明ですが、撤退を命じる指令を発出しております。元より内乱とスウェーデンの侵攻によりノルウェー兵自体はほとんど侵攻の際にも遭遇しなかったと聞いており、本来であれば危険なこの撤退戦も無事乗り越えることはできそうです」

「とは言え、ノルウェーの征服自体は諦めるほかないでしょう。すでにデンマークタンスカ王による侵攻も進んでおり、この地は彼らに奪われる可能性が高いかもしれません」

「状況は一転し、隣国にあまりに強大な敵を抱えることになりうるわけか」

アンリの言葉にアートスは頷く。

「ええ。しかしそれよりも先に、やはり内部の敵に備える必要があります。現状、国内の有力諸侯のうちポフヤンマー公とピエタルサーリ女公、さらにはフィンランド伯とニューランド伯などにも反乱の兆しが見えます」

「フィンランド伯、ニューランド伯・・・すなわち、かつて父が大恩を持つ大元帥スーリ・マルサルカサタヤルカ殿の御子息たちだな」

「ええ。彼らは総兵力こそ多くはないものの、フィンランド人の精鋭たる森林警備兵メッツァンヴァルティヤを数多く揃え、決して侮れない相手となります」

「なるほど・・・助力を貰えそうな外部勢力は?」
「弟君であるスウェーデン王ヴォイット様は先ほど申し上げた通り、サプミ(サーミ)王クーティ様も同様に現状では友好的であり、すでに兄弟同盟の締結に向けて前向きな状況にあります」

「とはいえいずれも国内の不安定に直面しているという点では同様。兵力として期待できる状況にはありません。

 その他の同盟の可能性としては陛下の姉君たるマリヤ様の嫁ぎ先であるグオラダト族長マイニオ様や、同じく姉気味たるロヴィーサ様の嫁ぎ先であるトチマ伯サヴィナ様などが御座いますが、いずれも現状は様子見。同盟の締結の遣いを出しておりますが、進捗は芳しく御座いません」

「この状態でポフヤンマー公らの蜂起があれば、王国はひとたまりもない可能性があるな」

「ええ。ですので、まず取り組むべきは、反乱勢力の切り崩し、そして新たな同盟の締結と、避けざるを得ない反乱に対する準備かと思われます。

 陛下。この苦境を見事乗り越えることで、新たなクルキ家の栄光への道が拓けます。そのお力、信じておりますぞ」

アートスの目がきらりと光る。それは、まるでアンリを値踏みするかの如く。

アンリも理解していた。この戦いに敗れれば、この男でさえも自分を裏切り、そしてクルキの名は永遠に喪われることになるだろう、ということを。

 

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1107年7月18日。

アンリはまず、反乱勢力の最大戦力であるポフヤンマー公ハーパに対し、自身の異母妹のラウハを彼の嫡男カレヴァの婚約者として差し出すことで、同盟締結を実現した。

ポフヤンマー公としても決して納得のいくものではなかったものの、前フィンランド王の「正妻」であり現サプミ王の母でもある姉タルヴィッキからの説得もあり、これを渋々承諾。アンリとしても、この男に大きな「借り」を作ることになったのは否めなかった。

続いてアンリは、王国の東に位置する巨大なビャルミア人部族の長ユラークと同盟。こちらも異母妹のリューリッキを彼の息子に嫁入りする約束を交わすことで、同盟関係の構築に至った。

これで内なる刃を弱らせ、外に大きな助けを得ることのできたアンリ。
スウェーデンから戻ってきた兵たちとも合流し、彼らを休め、そして来るべき時にひたすら備えることにした。

そして、年が明けて1108年2月9日。

いよいよ、ピエタルサーリ女公を中心とした反乱軍が一斉に蜂起。

ここから長きに渡る「フィンランド内戦」が幕を開けることとなる。

 

前半戦:ピルッカラとテルヤの戦い

開戦と同時に、アンリは準備していた2,700弱の兵をすぐさま南方フィンランド伯領トゥルクへと向かわせる。

城主のラウリが逃げ出している隙に、この包囲を開始。早々に反乱軍の一翼を奪いにかかる。

しかし夏になると、逃げだしたフィンランド伯の部隊と合流を図るべく、ピエタルサーリ女伯軍の兵がウルヴィラ周辺を通り東方へ向かおうとしている情報を獲得。

オーランド諸島を渡り、弟ヴォイットが寄越したスウェーデン軍も近づいてきているとの情報もあり、ここで一気に反乱軍の勢いを削ぐ!

それはまさに辛勝というべき勝利であった。

兵の数自体は優っていたものの、最終的な犠牲者数はこちらが上回る結果に。敵指揮官も捕えるなど勝利は勝利なのだが、これで反乱軍の戦意を大きく削れたとは思えない勝利であった。

それが故に、その直後、後詰に駆け付けようとして間に合わなかった敵軍の姿を見つけたとき、フィンランド軍を指揮するクマン人将軍グザク・キスクンサグは、ここでさらなる勝利を、と逸る思いで自軍の兵たちを奮い立たせた。

そして、1108年9月12日。

その戦いは幕を開ける。

それは、グザクにとって初めての光景ではなかった。

今からおよそ20年前、まだクマン人の首領の下で戦い、リヴォニアの地にまで遠征した大軍の指揮官を任されていたとき。

同じように森の中で、フィンランド人たちのこのようなゲリラ戦術を前にして、次々と兵を失ったときのことを、思い出した。

あのときの過ちを、彼は再び味わうことになったのだ――

「愚かだな、慢心したか、平原の王。ここは遠きフィンランドスオミの森だ。我らが誇り高き森林警備兵メッツァンヴァルティヤの露と消えよ」

大元帥サタヤルカの子という肩書が決して名ばかりのものでないことを、タパニは証明してみせた。

2倍近い敵に対する大勝利。そして数多くの王国軍兵を屍に変えることに成功したのである。

さらに、王国軍側の犠牲は数以上のものがあった。敗北を悟り、統率を乱してこの死の森から逃れようとした兵たちは、護るべき彼らの将軍の周りさえ放棄し、結果としてこの退却戦で、フィンランド王国の誇る二人の名将が命を散らすこととなったのである。

グザクはおよそ1ヶ月ほどかけて遠きカミサルキの地にまで撤退。

この報告を、アンリはウルヴィラの居城で受け取った。

彼の眉間に深い皺を刻み込まれ、そしてやがて、沈黙のままに彼は目を伏せた。

 

後半戦:メリカルヴィアの戦い

状況は最悪であった。先の敗北はスウェーデン軍・サプミ軍の戦意を削いだ上に、頼みの綱であったビャルミア族も、隣国ヴォログダ族に攻められてそれどころではなくなっていると聞く。

さらに国内では新たな反乱の兆しも――弟のミッコを担ぎ上げた反乱が、準備されているという。

そして、この状況を踏まえ、アートスが反乱軍首領のピエタルサーリ女伯に接近しているという極秘の報せもアンリのもとに届いていた。

 

――アンリは目を開いた。

彼はすぐさま側近に指示を出し、フィンランド湾を挟んだ先にあるエストニアのレヴァラへと遣いを急がせた。

 

1ヶ月後。

カミサルキの地で、なんとか兵の立て直しを図っていたグザクのもとに、武装した屈強な一団がやってきた。

彼らは、自分たちのことをフィンランド王によって雇われた傭兵団であると紹介した。

その部隊長はアンモットと名乗るサーミ人で、屈強な森林警備兵メッツァンヴァルティヤを始め、強力な軍勢を率いてグザクの部隊への合流を申し出てきた。

グザクは心の中でアンリに感謝した。あまりにも大きな敗戦を引き起こしたにも関わらず、なおも彼のことを信頼し、兵を託してくれるというのだ。

その信頼に、応えねばならない。

すでに、アンリの居るウルヴィラの居城が、反乱軍によって包囲されているとも聞く。

急がねばならない。

グザクはすぐさま全軍に激を飛ばし、本来であれば彼を苦しめる冬の森の中を躊躇いなく先頭で突き進んでいった。

 

そして1109年2月。

傭兵団も含め兵を回復させたフィンランド軍が、ウルヴィラを包囲する反乱軍へと迫る。スウェーデン軍やサプミ軍も再び、ここに助力するべく駆け付けつつあった。

これには、反乱軍もさすがに危機感を覚え、包囲を解いてすぐさま北方へと逃れる。

だがこれを見て、グザクは最大の好機を得たと判断した。

「――森の怪物共め。自らその優位を捨てるとは、愚かなり。

 平原の王としての矜持、見せてやろう」

そして、1109年4月26日。

メリカルヴィアの地で、その激戦は繰り広げられることとなった。

まさに、一進一退の攻防。

戦闘に参加するすべての闘士たちが、死力を尽くし、敵兵の群れに己が身を曝しながら斬りかかっていった。

彼もまた、その一人であった。

カレヴィ・シュダンマー。前フィンランド王ミッコが最も信頼する闘士の一人でもあった彼は、その信頼によって託された護衛という責務を全うすることができぬまま、主君を死なせてしまったことを深く悔い続けていた。

いつしか彼は、その死に場所を探し始めていたのかもしれない。

自らの頑強なる肉体が、主君とその一族に貢献できる、最良の場面、最大の贖罪の機会を――

「――うおおおおぉぉぉ!」

野獣のような咆哮を発しながら、彼は敵陣へと斬りかかり、そして近寄るあらゆる敵兵を斬り捨て、そして物言わぬ骸へと変えていった。

彼のその無謀なる突撃は確かに局面を変え、次第に王国軍側の優位は揺るぎないものへと変わっていった。

だが、やはりその代償を、彼は身をもって受け入れる必要があった。

敵軍の無慈悲な一撃が、カレヴィの胸元を深く貫いた。

それまでに、無数の敵兵を確かに屠り続けてきたその男が、最後に口元に笑みを浮かべながら、フィンランドの冷たい大地へと静かに崩れ落ちていった。

 

そして、王国軍は見事、この戦いに勝利した。

犠牲は大きい。しかし、死力を尽くした上でのこの勝利は、すでに長きに渡る戦いで士気を失いつつあった反乱軍の足並みを乱す最後の一撃としては実に相応しいものとなった。

10月には反乱首謀者の本拠地ピエタルサーリを陥落。

1110年1月23日にはヴィープリの地で更なる勝利を収める。このときは森の戦いに長けた傭兵団長アンモットが指揮を執った。

そして同年8月にはタパニの本拠地であるニューランドの制圧を完了。

これで反乱軍側もついに折れ、1110年8月14日。ピエタルサーリ女公を始めとする反乱軍一同は降伏を受け入れることとなったのである。

 

戦いを終え、反乱の首謀者たちは皆捕えられ、鎖に繋がれていた。

その兄弟の前にも、アンリは訪れた。彼らは毅然とした様子で、自らに訪れる運命を受け入れる様子を見せていた。

しかし、そんな彼らを前に、アンリは優しく微笑み、口を開いた。

「ラウリ殿、タパニ殿、ご安心めされよ。貴方は我が父ミッコに大恩あるサタヤルカ様の御子息たち。例え、一度の気の迷いで剣を向けたとて、それでその恩が消えるわけでは御座いませぬ。けじめの一つとしてその領地は取り上げさせては頂きますが、それ以上のことは求めませぬ。もし貴殿らが望むのであれば、再び我々王国のためにその力を振るって頂くことさえ、望ませて頂きます」

その言葉に、兄弟は思わず落涙したという。父への恩義を忘れず、その子らにも報いるというアンリの寛容さについては、たちまちに王国中に広がることとなる。それと同時に囁かれたのは、アンリが幼い頃から見せていた、たとえ相手に殴られても赦す、というその寛容さについての話。

寛容なるスヴァイツェヴァイネンアンリ」という新王に対する通称は、このときより広く知れ渡ることとなるのであった。

 

「一方」

と、アートスは愉快気に告げる。

「反乱の首謀者であるピエタルサーリ女伯については、容赦のない処刑を行なわれましたな。彼女が未だ古いウコヌスコ信仰を保持していたが故、それは先の寛容さと矛盾するものとは思われてはいないものの、それでもなお、少しでも反抗心を残す者たちにとっては、この危ういバランスの存在はその動きを牽制させるには十分すぎるもの」

異端信仰となった古ウコヌスコ信仰をもつピエタルサーリ女伯の処刑には信仰点を必要としない。そしてこの選択はその他にも理由がある。彼女が2伯領を持ち全ての土地が取り上げられないことに加え、子も兄弟もなく、後継者が生い先短い老母のみであることから、その老母に土地を継承させ、やがて自分のところに自然と転がり込んでくることを狙い、処刑を選択した。

 

「実に見事な采配で御座います」

何食わぬ顔で宮廷に顔を出し、裏切ろうとさえしていた主君を褒め称えるアートスに、アンリも思うところがなかったわけではない。だが、それ以上に安堵が勝った。

アートスもそれを知ってか知らずか、気にせずに続ける。

「それが効いたのでしょう。反乱の意思を示していた弟君のミッコ様を支持する勢力も力を失い、時が経てば何事もなかったかのように解散するようにも思われます」

「ビャルミア族長も当初劣勢だったにも関わらず、独立で反抗に成功しているようで、引き続き今後の同盟関係は維持される模様で御座います」

アートスの報告に、アンリは溜息を一つ吐く。即位からこの瞬間に至るまで、常に張り詰めた思いを抱いていたが、ようやく一息つけそうな状況になりつつある。

「問題は、ノルウェーノルヤですね。我々の撤退の後、デンマークタンスカがこれを征服するかと思っておりましたが、そのデンマークで内乱が発生」

「結局ノルウェーはその機に乗じて反抗に成功し、1108年に両者は停戦。ノルウェーは我々によって征服された土地も奪還し、反撃の機会を窺いつつあります」

ふむ、とアンリは思案する。

「それは危機的な状況か?」

「いえ」

アートスは頭を振る。

「この3年間に比べれば、全く。ノルウェーはすでに借金も嵩んでおり、こちらと本格的な戦争を行いうる状況にありません」

「この3年戦い続けた精鋭たちであれば、すぐさまこれを黙らせることができるでしょう。とは言え、こちらも長期的な戦いは難しい。スウェーデンルオチ王国内で勃発しているキリスト教徒たちによる反乱を道中で鎮圧がてら、ノルウェーとの戦いを停戦にまで持っていくための反撃は、十分に成し遂げられるでしょう」

アートスの言葉に、アンリは頷いた。

「分かった。兵たちには申し訳ないが、あと少しばかり、その力を貸してもらおう」

 

 

1110年11月。フィンランド軍は兵を揃え、スウェーデンに上陸。先達ての内戦で力を貸してくれた弟に報いるべく、スウェーデン内部で起きていた反乱を鎮圧していく。

さらにこれを平定したのち、1111年6月からはノルウェー領内に侵入。かつてと同様に抵抗しそうな勢力はほとんど出てこず、次々とその諸都市を陥落させていく。

とはいえ、すでに内戦勃発から4年が経過しようとしていた。さすがの兵たちも疲弊し、とくにこの間フィンランドに尽くし続けてきていた猛将グザクが、戦場にて病に倒れこの世を去ったことは大きな転機となった。

1112年3月にはノルウェー軍がスウェーデン南部に上陸。

これ以上は、互いに兵力を摩耗するばかり。

アンリはノルウェー王との講和締結を決意し、ノルウェー側もこれを受け入れることに同意した。

 

両国の国境付近に位置するノルドマルクの城で結ばれたノルドマルク条約は、この戦いで占領されたすべてのノルウェー領地をこれに返還することをフィンランド側が認めた代わりに、ノルウェー王ハーラルは娘のソーラを人質としてフィンランド側に差し出すなど、実質的なフィンランド側の勝利とも言うべき内容であった。

そしてこれを戦乱の永劫の終わり、永遠の平和の始まりにするつもりは、アンリにもなかった。

彼は、ただ単に寛容なだけではない。殴られても殴り返さないのは、それが有用であるときだけだ。

彼はその寛容さ以上に、心の奥底に秘めた力強い「野心クニアンヒモア」を持っていた。それはかつて、ノアイデのグリゴリーから与えられたものでもあった。

そして彼は悟っていた。この5年間に及ぶ国内の混乱と苦境の原因を。

父の死に伴い、王国は兄弟によって三分された。本来であれば父はこのバルト海世界に帝国を築き上げ、統一を図ろうとしていたが、それが実現する前に父はトゥオネラへと旅立ち、そして帝国は生まれる前に分裂したのだ。

それは必然であった。4つの民族と3つの信仰が共存する巨大王国は、偉大なる「ウッコの擁護者ウコン・プオルスタヤ」ミッコの存在があってこそ、維持しうるものであった。

それがいなくなれば、これを結びつけようとしていた鎖は解き放たれ、あとは激しい混乱だけが王国を襲う。

となれば、再び誰かがミッコ王に匹敵する権威を持つ必要があった。

 

再び、王国は統一されなければならない。

絶対的に強い、真なる王の下で。

 

そのために、アンリは手段を選ぶつもりはなかった。

 

 

決断の時

1112年夏。

フィンランド内戦、それに続くノルウェーとの戦争終結を経て、ようやくアンリは父ミッコの葬儀を聖地コイヴィストにて執り行うこととなった。

ミッコがラーネマーの武闘会でその武勇を知らしめたメイルも副葬品として捧げ、厳かな別れの言葉は聞く者を皆例外なく涙させた。

その振る舞い、威厳全てにおいて、先の内乱鎮圧の手腕と合わせ、彼が偉大なる三国の王ミッコの正統なる後継者であることを広く印象付けたのである。

一方、同じミッコの子たちである次男ヴォイットも三男クーティも、この葬儀には参列しなかった。

いや、できなかった、というのが正解か。先ず次男のスウェーデン王ヴォイットについて言えば、同時期にノルウェー人たちによる侵攻を受け付けていた。

これはすぐさまフィンランド軍が兵を出したことで、撃退に成功。先の内乱におけるスウェーデン軍の支援に対する返礼を果たすこととなった。

そして北のサプミ王クーティについても、同様に戦いに直面していたが故に葬儀への参列ができずにいた。

ただしこちらは外からの侵略ではなく、内からの蜂起であった。それも、クーティ自身の誤った決断が故に巻き起こされたものとしての。

くそヴィット・・・兄上の軍はまだ来ないのか。支援要請は行っているのだよな?」

「は。承諾の意は確かに頂いており、同時期に巻き起こっておりましたスウェーデンにおける戦いも先達て鎮圧されたと聞き及んでおりますが故、間も無くかと・・・」

「早くしてくれなければ・・・我々の軍だけでは敵いようがないぞ。

 大体、宰相のカラショーカ伯はこんなときにどこへ消えたのだ!? 元はと言えば奴が、父を失い無力となったユーレヴェドノ伯にもはや力はないと告げ、その所領剥奪を我に唆したのが元凶だというのに・・・」

「ーー陛下! フィンランドスオメン軍がやって来ました!」

家臣の言葉を受け、クーティはすぐさま城の窓に駆け寄り、そこから見える森の中から勇壮なる軍勢が姿を現しているのを認めた。

安堵するクーティ。しかしその軍勢が城の麓まで近づき、先頭に立った男から発せられた言葉を、彼は最初信じることができなかった。

「横暴なる所業を為された一門の恥辱たるクーティ王よ、大人しく抵抗を諦め、降伏せよ! 我々フィンランドの王アンリ様は、陳情に訪れたユーレヴェドノ伯、ギェマヨフカ公、そしてカラショーカ伯の言葉を受け同情を抱き、悪逆なる貴公の座を廃し、彼らの意向を受けて自らこのサプミの地も統治されることも決められた!

 大人しく城を出ればその身の安全は保証しよう。しかし抵抗を続けるのであれば、一門であることに関わりなく、容赦なき対応を行うことをここに宣言する!」

呆然と立ち尽くすクーティ王を尻目に、家臣たちは皆、そそくさと城を出て早々と降伏を決める。最後は一人城に残されたクーティも何かをすることなどできず、やってきたフィンランド兵によって身柄を拘束されることとなった。

そして反乱の首謀者たちの推戴を受け、フィンランド王アンリはサプミ王も兼ねることとなり、ここにフィンランド=サプミ二重王国が成立した。

ゲーム的には暴政に対する反乱に敗北した結果、後継者に王位を譲り渡すこととなったクーティ。彼には子どもがまだいなかったため、必然的にアンリがこれを継承することとなった。もちろん、そのことを狙い、クーティが反乱に敗北することを放置した結果である。

 

「大義であった。一歩間違えればクーティに罰せられ刑死させられる危険もあった中、よくぞ成し遂げてくれた」

「いえいえ。クルキの王たる器ではないものを放置しておくことこそ、命存えるよりも耐え難きことであるのは間違いありません。無事成功し、真の王たるアンリ様に尽くせたこと、心より嬉しく思います」

丁寧な口調と共に拝礼するケットゥ。アンリは今回の功績を経て彼に追加でロウナラの土地を与え、さらに自身の新たな宰相として傍に置くことを決めていた。その他にも反乱に貢献したウッコを新たな元帥マルサルカに据える。

狙い通りサプミの地も手に入れ、有力な家臣も手に入れたアンリは、いよいよ父が成し遂げられなかった偉業へと手をつけることにする。

すなわち、ノルウェー王国に対する大聖戦である。

単体の国家同士では兵力は互角。しかしフィンランド軍側にはスウェーデンに加えビャルミア族、さらにはフィンランド内戦時には様子見をしていた義兄のグアラダト族長も今や問題なく同盟締結に応じてくれたことで、その総兵力はノルウェー軍を圧倒するものとなっていた。

もちろん、それでも敵軍は決して侮れるものではない。前回の時のように内乱も起きておらず、別勢力による侵攻も受けていない状態。そして敵国土は急峻な山岳や丘陵地帯に覆われ、侵攻も容易ではない。

その中で、ハスカールヴァリャーグといった屈強な戦士たちが、敵兵の中には混じっている。特にハスカールはフィンランド軍の主力である弓兵たちにとっては実に相性の悪い相手でもあった。

ゆえに、アンリも準備を万端にし、この戦いに挑むこととなった。

まずは先の同盟国たちの手配に合わせ、新たに聖戦騎士団を設立。

カレヴァラの息子たち」を名乗るその騎士団は、ヘッラという名の稀代の女性戦略家をその総長に据え、高い信仰心と共に異教徒たちを屠ることを高らかに宣言した。

この軍勢を持って、フィンランドはサプミ王国、スウェーデン王国など各地から多方面侵攻作戦を開始。

第一軍は元帥マルサルカウッコ率いるサプミ軍、第二軍はメッスキュラ伯率いるフィンランド軍、第三軍はアンリ自ら率い、親衛隊長のミエモ・ヤーッコラがこれを補佐する国王軍。

これらの猛攻を前にして、ノルウェー軍も殆ど抵抗らしい抵抗もできず、ただ自らの地が蹂躙されるのを見守るだけとなった。

1122年6月29日にはその首都ニーダロスが陥落し、3年に及んだノルウェー征服戦争は終結を迎えた。

戦争中にノルウェー国内で天然痘が流行し、1121年末には国王ハーラル6世が病没。和平は新たに国王となったこのソールズルとの間で結ばれた。

 

15年前に父が頓挫し、10年前に一度終戦させたこの戦争も、ようやく終わりを迎えることに。

この偉業を受けて、ウコヌスコの民はアンリを「運命づけられし者」と讃え、かつてミッコ王が目指した「その先の偉業」に期待をかける者たちも、決して少なくはなかった。

 

そしてアンリはついに、決断の時を迎える。

 

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「陛下、準備が出来ました」

密偵頭を務めるフィンランド伯が、声を潜めて報告を行う。

「スウェーデン王の侍医を務めるアーム殿にも接触し、買収に成功。オンゲルマンランド伯からも色良い返事を得ており、計画は無事進捗しております」

「そうか」

アンリも神妙に頷く。

それは、決して彼にとっても平気で取れる選択肢ではなかった。

クーティのときとは違う。ヴォイットは同じ母親から産まれた兄弟でもあり、互いの協力関係の連続の上に、今では深い友情があることも確かであった。

しかし一方で、先の父王ミッコの死に際し、彼とその周辺に怪しい動きがあったことも確かであった。

密偵を進める中で、最も怪しい存在であったベルグスラーゲン女公アールフリドは、何者かの襲撃によって命を落としたという。

そしてまた、ウルヴィラの宮廷内においても、何者かがアンリ自身の暗殺を企ていた形跡が発見されている。

そこに、ヴォイットが関与していたという証拠はまだない。

しかし、少なくとも今のスウェーデンを放置していれば、クルキ家による正しき「統一」における大きな障害になるだろうということは、明白であった。

 

故に、成し遂げねばならない。

クルキの一族の、真なる繁栄のために。

そして、無念の中で果てた父の思いを、責任もって果たしてみせることを。

 

 

――やがて、その時がやってくる。

 

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突然の父の死を受け、スウェーデン王位はまだ若き嫡男のリクに継承される。

リクとその側近たちはすぐさま、伯父のアンリに対し、その娘とリク王との結婚を申し出る。父の頃と変わらぬ同盟を結び、共に手を取り合っていくことを、切に願うかの如く。

しかし、アンリはこれに応えなかった。

逆にリク王に対し、「王位の返還」を要求する。ヴォイット亡き今、それを保持し、亡きミッコ王の遺志を継承するに相応しい者は誰かと問うたのである。

リク王の側近たちはこれを拒絶した。そして前王ヴォイットの死の原因がアンリにあると喧伝し、仲間を集めようとする。

だが、その前にアンリは行動を開始する。

1124年11月26日。

悪しき君側の奸を誅し、亡き盟友たる弟ヴォイットの遺児リクを「保護」するという名目の下、王国に三方向からの同時攻撃を仕掛けたのである。

当然、スウェーデン王国がこれに抵抗することなど不可能であった。

1126年6月27日。

スウェーデン王国王都シグチューナを陥落させ、国王リクの身柄を確保。

その3日後、6月30日にスウェーデン王側は完全降伏し、アンリはついに、亡き父の果たせなかったスカンディナヴィア半島の完全征服を成し遂げた。

 

そして、アンリはここに宣言する。

スカンディナヴィアに位置する、四つの王国全てを束ねる、王の中の王――皇帝ケイサリとしての即位を。

ここに、スカンディナヴィア帝国が創設され、アンリは初代皇帝としてここに即位した。

 

「お見事で御座います」

宰相のカラショーカ伯が感心した様子でアンリに語りかける。

「偉大なる御父上様にも成し遂げられなかった偉業と言えます」

「ふん・・」

宰相の言葉にアンリは鼻を鳴らしつつ、嘆息する。

「ようやく、出発点に辿り着いただけだ。ここから先、父の夢見た帝国の真の繁栄を成し遂げるべく、やらねばならぬことはいくらでもある」

 

そう。

大いなる罪を背負うことを自ら選んだ以上、アンリには成し遂げねばならぬ義務があった。

もはや、その車輪を止めることは誰にもできない。

たとえその先に、いかなる悲劇が待ち受けていようとも。

 

第四話に続く。

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