歴史はその細部を異にしつつも、大きな流れとしては変わらず流れていく。
この世界においても、戦国時代末期、織田信長という天才が現れ、瞬く間にその領域を広げていった。
彼は天下を手中に収め、新たな時代を築き上げた。
しかし、それは決して安寧に到達することはなかった。
1576年8月6日。史実よりも6年早いという「小異」はありつつも、彼はこの世界においても志半ばに闇の中に葬り去られる。
そして、時代は新たな段階に到達する。
物語は続く。さらなる加速を見せながら。
目次
※ゲーム上の兵数を10倍にした数を物語上の兵数として表記しております(より史実に近づけるため)。
Ver.1.12.5(Scythe)
Shogunate Ver.0.8.5.6(雲隠)
使用DLC
- The Northern Lords
- The Royal Court
- The Fate of Iberia
- Firends and Foes
- Tours and Tournaments
- Wards and Wardens
- Legacy of Perisia
- Legends of the Dead
使用MOD
- Japanese Language Mod
- Shogunate(Japanese version)
- Joseon (Shogunateの朝鮮半島拡張)
- Joseon JP Translation
- Japanese Font Old-Style
- Historical Figure for Shogunate Japanese
- Nameplates
- Big Battle View
- [Beta]Betray Vassal(JP)
- Battleground Commanders
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急報
1576年8月7日夜。
織田軍・中国方面軍総司令官たる丹佐秀吉は、信長の命を受けての播磨侵攻の只中にあった。
播磨を支配する赤松氏の本拠・加古川城も陥落は時間の問題。あとはその降伏を受け入れさせるのみであった。
しかし、そこに、その報が届けられる――。
「――上様が、死んだ、だと?」
あまりにも信じられぬその内容に、彼は思わず目の前の伝令を怒鳴り散らしてやろうかと思いさえした。
しかしその伝令の顔面は蒼白で、脂汗さえ流れぬほど憔悴しきっておりながらも、差し出された水を断ってまでいち早くその報せを秀吉に届けたのである。
「兄上」
緊張感漂う帷幕の中に、秀吉の弟である秀長が入ってくる。
「敵方に向かう密使を捕らえました。その携えた密書を確認しましたがーー」
秀長の深刻な表情を目にし、秀吉はそれが事実であったことを理解した。
それは信じられないような事実ではあったが、事実であればこそ、彼はすぐさま決断せねばならないことも理解していた。
「ーー小一郎、後は頼んだぞ」
「は。兄上もお気をつけて・・・道中何が起こるか予想も尽きませぬ故」
信長の死が知れ渡れば、畿内はすぐに無法地帯と化すであろう。本来であれば、赤松家との戦争を終わらせ、後背の難を取り除いてから、大軍で岐阜に向かうことが何よりも大事であることは間違いなかった。
しかし、秀吉にそんな余裕は残されていない。
織田信長亡き後の天下――これを巡る戦いはすでに始まっているのだから。
翌8月8日。
丹佐秀吉はわずかな手勢と共に播磨を出立。その行先は、天下の中心――岐阜であった。
岐阜会議
8月11日。
岐阜城下は隠しきれない混乱に満ち満ちていたものの、それでも城内は不可思議なほどの平穏に包まれていた。
秀吉が到着したときにはすでに、近江方面軍総司令官の浅井久政、伊勢方面軍総司令官で対三好戦役に向けた準備を進めていた丹羽長秀の姿があった。
もう1人の重臣である北陸方面軍総司令官の佐々成政の姿はまだない。それもそのはず、彼らは武田家に攻められている同盟国・新発田氏の後詰めに向かおうと準備を進めていたところであり、そこに届けられた、真偽も不明な衝撃の急報――その足が直ちに岐阜に向かえずとも、攻められる筋合いはどこにもないであろう。
寧ろ、同様に――ある意味ではそれ以上に困難なことに――今まさに戦闘中であったはずの播磨から、わずか数日で秀吉がこの場にいることの方が、久政や長秀からすれば驚きであった。
「・・・丹佐殿、まさに神速の大返しで御座いますな」
久政の言葉に秀吉は両手を広げ大仰に応える。
「いやはや――此度の変事を耳にして、居ても立ってもいられなくなり、気がつけば播磨を飛び出しておりました! 嘘報であればどれだけ良いかと願いながらーーしかし安心して下され。播磨は我が有能なる弟小一郎がしかと守っておりますゆえ。儂がおらずとも播磨は問題なく織田家のものとなりましょう」
言葉は軽薄だが、その目は笑っていない。秀吉を見据える久松と長秀を牽制するが如く刺し貫く。三人の間には今やかつての同輩の気軽さや友好的な雰囲気は認められず、互い互いの肚の内を探り合う疑念と警戒とで満ち満ちていた。
「ーーおお、丹佐もようやく来たか」
そこに、気の抜けた声が届けられる。秀吉が振り返ればそこには、織田家の「新当主」の姿があった。
「大義であった。内蔵助はまだ来ないのか?」
「――佐々殿は武田を牽制しつつの撤退となる故、今暫く時間を要するかと。まずは我々だけで会議をば」
長秀の言葉に、そうかそうか、と特に気にするでもなく信雄は返し、そして続けて尋ねる。
「しかし、会議とは一体何を論ずるのだ? 織田の新当主がこのワシであることに議論の余地はなく、方針も引き続き各方面軍の領国の統治と拡大とに振り分ければそれで良かろう」
信雄の言葉は相変わらず気の抜けた響きを含みながらも、最後の一文だけはやや強い響きが含まれてもいた。
「それは、そう、ですが――」
「ええ、ええ、尤もです主計様」
何か納得のいかない様子を見せかけた久政を遮り、秀吉が前に進み出る。
「しかし織田家は今や室町幕府にも匹敵する巨大国家となりつつあり、各大名に一任、というわけにはいきますまい。改めてその頂点に立つ『将軍』様の御意向を明らかにし、これを確実に各方面に伝える必要があります」
秀吉は笑顔と共に胸元に手を当て、熱く信雄に語りかける。
「この不肖秀吉を始め、我々一同、大殿に忠誠を尽くす所存で御座います。ご安心の上、我々をお頼り下さい」
「そうか――それならば良い。今やワシこそが織田家であり、ワシに楯突くことは即ち織田に楯突くのと同義。よもやの謀反人が出ぬよう、丹佐らで上手く取りなすのだぞ」
は!と秀吉が威勢よく応え、長秀も黙したまま頭を下げる。久政も小さく頭を下げつつも、どこか苦虫を噛み潰したような表情をその裏に隠していたことを、秀吉は横目で確かに確認していた。
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「如何でしたかな、岐阜のご様子は」
播磨に戻った秀吉は、秀長に出迎えられる。すでに播磨は陥落させており、城主だった赤松則房は切腹。新たに秀吉直属の黄母衣衆の一人、横山信房*1を城主に据えている。
「思いの外落ち着いておったな・・・ただ、燻った火種はいくらでもある。何が起きても対応できるよう、準備しておくに越したことはないだろう」
左様ですな、と秀長は頷く。
秀吉は続ける。
「上様が御存命の時に計画していた三好家への侵攻計画が改めて発令することとなる。動くのは元々予定していた信孝様と丹羽殿の連合軍のほか、我々も淡路を制圧するべく兵を出すことが決まった」
「承知しました。指揮官は誰に任せるおつもりで? 次郎兵衛は播磨の防衛に忙しくなるかと思いますが」
「ああ、そうだな――吉太の奴に任せてみようかと思う」
「ほう、あの吉太に・・・」
兄の提案に、秀長は面白そうな顔をする。
「美濃時代から長く仕えてきた彼奴ももう二十二。随分と逞しくなりましたからな」
「いつまでも一兵卒をさせているわけにもいくまい。この作戦、うまくいけば奴に淡路を丸ごとくれてやるつもりだ」
「ほう」秀長は愉快気に笑う。「それは太っ腹なことで。彼奴のことですから、そのまま海賊にでもなってしまうかもしれませんがな」
ハッハッハと秀長は笑う。秀吉も、信長の死以来ーーさらに言えば重治の死以来――久しぶりに心から笑える心地がしていた。
この家族たちを守ってやらねばならぬ。そのために、これから必ず来るであろう、激動の時代を必ず生き抜く――。
多聞山城の戦い
1577年8月4日。織田信孝・丹羽長秀による連合軍が三好に対して宣戦布告。
次いで11月4日。秀吉率いる中国方面軍も三好家に宣戦し、淡路へと兵を進める。
侵攻作戦は順調に進んでいた。
翌1578年2月には北淡路・洲本城も陥落させ、次いで南淡路・志知城を包囲中。一部は四国へも上陸し、三好家を脅かしている。
畿内でも信孝・丹羽軍が三好軍を壊滅させるなど、織田軍の快進撃を止めるものなど何一つない様に思われていた。
しかし――。
「――信長公亡き後の織田は、果たして忠誠を誓うべき対象か? ――否!」
「信長公程の器なき者が無意味に拡張しようとも、いつか必ず崩壊する時が訪れる。我々はそれに巻き込まれるわけにはいかないのだ!」
1578年5月12日。
近江の守護・浅井久政を中心としたいくつかの大名・国衆らが結託し、一斉に蜂起。
織田家は早くも危機に直面することとなったのである。
「――吉太、分かっておるな」
秀長は若き指揮官に声を掛ける。
「これは織田家にとっては大いなる危機ではあるが、同時に我々丹佐軍にとって最大の好機である。兄上はすぐさま主計様に賭けた。それは必ずこの賭けに勝てると信じたからだ」
「兄上の・・・我らが主、秀吉様の賭けを勝利に導くのは、我々――そして吉太、お前に掛かっているのだ」
「分かっております、小一郎様」
青年は堂々たる様子で応える。
「我々が先陣を切って敵軍に当たる。そうすることで、織田家中における我々丹佐軍の存在感をより増すことに繋がるということだ」
「――難しいことは分かりませんが、要はズバッと行って、ドバッと勝って、ドーンと威張ればいいわけでしょう?」
「――まあ、そうとも言う」
秀長は苦笑しつつ、青年の言葉に頷く。
「お前は丹佐家中――いや、織田家中で最も勇敢なる男だ。そして戦場におけるお前の軍略は、かの竹中半兵衛重治にも劣らぬ。その名、天下に轟かせてみよッ!」
8月1日。
急ぎ畿内に舞い戻ってきた丹佐軍1万2千は、神速の行軍で浅井軍2万5千に挑みかかる。
もちろんこれは、勝利には程遠い兵力差。無謀とも言える突撃であった。
だが、すでに京都より佐々成政率いる織田本隊6万が南下してきているという情報を、秀長は掴んでいた。
故にまずは、敵軍を逃がさないこと。数的不利であってもしばらく持ち堪え、敵を足止めしている間に、織田本隊による追撃でこれを壊滅させるのだ。
自らの命を張って前に出て、そして主家に勝利をもたらす。これが丹佐軍の泥塗れの戦い方であり、吉太という男はそれを成し遂げるだけの勇敢さと武勇とを持ち合わせていた。
そしていよいよ、8月24日。
大和国・川辺郡の多聞山城を前にしての、謀反人・浅井久政並びに高山友照軍との決戦。
最初こそ丹佐軍は少数の兵で立ち向かう劣位に置かれていたが、程なくしてやってきた織田本隊6万との合流を果たし、一気に形勢逆転。
最終的には敵軍2万5千をほぼ全滅させる圧勝を果たし、重要な敵将を討ち取ったほか、久政の嫡男たる長政を生け捕りにすることにさえ成功する。
この勝利で反乱軍側の勢いは地に落ち、間もなくして鎮圧。
そして中断されていた対三好戦もその後も順調に進み、1580年1月には三好家当主・義興*2が降伏。
秀吉は播磨に続き淡路をも自身の領国として獲得し、この淡路の国主として約束通り吉太を任命したのである。
そして――織田家中における、秀吉の立場もまた、大きく引き上げられることとなる。
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「――大儀であった、丹佐」
「勿体なきお言葉」
信雄の称賛を、秀吉は平伏して受け取る。
「そんなに謙遜せずとも良い。貴様の活躍により、我が獅子身中の虫も炙り出し、取り除くことができたのだ。実に感謝しておるぞ」
そう告げる信雄の瞳の奥には、いつもの愚鈍そうなそれではない、剣呑な輝きを見出せるような気が秀吉にはしていた。
「――して、久政殿の処遇はいかほどに?」
「勿論、生かしておいても災いを産むだけ。直ちに切腹を命じるつもりだ」
「左様で御座いますか・・・ただ、主計様。嫡男の長政殿については、私に一任して頂けませぬか」
「ほう?」
秀吉の申し出に、信雄は訝し気な表情を浮かべる。
「確かに奴の身柄は貴様が捕らえてはいたな。しかし嫡男こそ、最も始末せねばならぬ男。それを生かしておくことほど危険なことはないと思うが」
「いえ――」と、秀吉は否定する。
「すでに何度かあの男と話しておりますが、そのような恐れは、あの男には御座いません。ただ愚直で、ひたすらに真っ直ぐな男。それよりは、あの男の持つ武勇にこそ価値があります。
殿、どうか私めにお任せを。必ずや奴を、織田家に資するものとしてみせましょう」
丁寧に、しかし有無を言わせぬ頑なさで請願する秀吉を、信雄もそれ以上は拒絶しきれなかった。
「――分かった。好きにしろ。
だがその分、貴様にはしっかりと働いてもらうぞ、丹佐よ」
「は――!」
恭しく頭を下げつつ、その頭の中で秀吉は異なる思いを巡らせていた。
信長の死により、時代は決して後戻りのできない渾沌へと進んでいく。
これを静謐に戻すことができるのは、目の前の若き主君では――決して、ない。
それならば、一体誰が?
その答えはまだ、秀吉の中にはない。しかし、来るべきその時に向けて、今はただ、その牙を研ぐことだけが必要だ。
次回、第漆話。
「四国征伐」編へと続く。
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過去のCrusader Kings Ⅲプレイレポート/AARはこちらから
クルキ・タリナ(1066-1194):フィンランドの一部族「クルキ家」の物語。
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