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【CK3】正義と勇気の信仰④(最終回) 帝国の完成と、その先(886-897)

登場人物紹介(886年時点の年齢)

ハサン・イブン・ザイド(56)・・ザイド教団の指導者。

ダブヤ・アイユーブ(39)・・ザイド教団の大宰相(ワズィール)。

ザイド・イブン・ハサン(15)・・ハサンの嫡男。

ロスタム・カーリンザデー(41)・・ザイド教団元帥。マーザンダラーン総督。

アブドゥッラーフ・イブン・アル・ムフタディー(34)・・ワーシトおよびバグダードの太守。ハサンの娘婿。

タナズ・ビント・ハサン(29)・・ハサンの娘。ワーシト太守アブドゥッラーフの妻。

アブドゥッラーフ・イブン・アル・ムウタッズ(25)・・アッバース朝第14代カリフ。

ヤアクーブ・イブン・アル=ライス(46)・・サッファール朝アミール。

 

9世紀後半、中東世界に覇を唱えていたアッバース帝国が衰退すると、この地には3つの勢力が鼎立する混沌の時代を迎えることとなった。

その中で、この3大勢力に囲まれる位置に置かれていたカスピ海南岸タバリスターン地方にて、シーア派の一派であるザイド派の信仰をもつ集団が、初代イマームアリーの子孫を名乗る宣教者(ザーイー)ハサンと呼ばれる男を中心に台頭し、やがてアッバース帝国とサッファール朝との間に立つ第4勢力として勢力を拡大していった。

880年代後半にはアリーの墓があるナジャフの街も領有し、ザイド派のイマームを名乗ることとなったハサン。

中東の東の大国サッファール朝との同盟も結び、盤石の構えを見せつつあるように見えていた中で、ハサンは最後の仕上げへと邁進することとなる。

 

宣教者ハサンの物語、その最終章が幕を開ける。

 

Ver.1.11.2(Peacock)

使用DLC

  • The Northern Lords
  • The Royal Court
  • The Fate of Iberia
  • Firends and Foes
  • Tours and Tournaments
  • Wards and Wardens
  • Legacy of Perisia

使用MOD

  • Japanese Language Mod
  • Historical Figure Japanese
  • Nameplates
  • Big Battle View

 

目次

 

前回はこちらから

suzutamaki.hatenadiary.jp

 

 

教団の行く末

886年12月。

「世界の都」エスファハーンを訪れた一人の旅人が、その街の威容を目にして感嘆の声を上げた。

「なんと壮大かつ、奇異な。このような文化は見たこともない、この絨毯も、水差しも!」

「ええ、この街の文化は、アラビアの砂漠に住むベドウィンの文化と、このザグロス山脈と高原地帯に住むペルシア人の文化とが混交して生まれた、世界にも珍しい文化なのです。我々はこの文化をファールスと呼んでおります」

エスファハーンの商人の言葉を受けて、旅人は独り言つ。

「成程・・・ここならば、私を受け入れてもくれそうだな」

「見たところ、貴殿も随分と思い詰めた顔をされているご様子。もしかして、ザーイーのもとを訪れるおつもりか?」

商人の言葉に、旅人は頷いた。

商人は声を潜めて、旅人の耳元に囁いた。

「お気をつけなされ。ザーイーは常に宮廷の門を開いておられる。但し、残酷さと容赦なさも併せ持っている。寛容なあのお方は、宗派や民族で差別することは御座いません。皆、平等に、苛烈な行いをなされることも御座います」

 

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エスファハーンの宮廷。その謁見の間に、旅人は姿を現した。

「偉大なるザーイー、そして偉大なるイマーム、この度は私如きにお会いするお時間を頂き、誠に有難う御座います」

跪き、首を垂れるその男は、見た目こそベドウィン風の旅人の姿をしているが、明らかにその所作、語られる言葉の癖からして、異邦人であった。

「大宰相」と称されるイマームの側近、ダブヤ・アイユーブのその視線に気づき、旅人は顔を上げて説明を開始した。

「私は、マニ教と呼ばれる信仰を持つものとなります。東方の地より、迫害を受けてここにやってきました」

フェリードゥーンと名乗ったその異教徒の話を聞きながら、イマームは暫し、思案を続けていた。果たしてこの男を採用するか、否か。

もちろん、答えは決まっていた。そも、ダブヤ自身もまた、未だに自身のゾロアスターの信仰を捨てていない男。そんな彼が、今や大宰相(ワズィール)の地位すら与えられているのだ。

このフェリードゥーンという男も、とくにその弁舌の巧みさにおいては、このわずかな時を過ごした間でさえ、才能の高さを強く感じられる。

恐らくはこれまでダブヤが担ってきた諸国との外交交渉の役目を与えるのにも相応しい男となるだろう。ダブヤはそう考えていた。

しかし、すぐにこれを許可する前に、イマームはその男に向かって尋ねた。

「マニ教の僧侶よ、貴僧に一つ、聞きたい」

「――は、なんなりと」

イマームは少し前のめりになる。

「貴僧から見て、このエスファハーンは、そしてこの帝国はどのように映っている? そしてこの帝国の行く末はどのように視る?」

イマームの言葉に、男は暫し顔を上げたまま逡巡し、やがて意を決したように呟いた。

「は・・・実に、多文化的であり、多様な要素の入り混じる、他にない街であり、帝国であるように思えます。ザーイーを頂点に、ザイドの教えがその多くを占めておりますが、一方でその信仰に固執しない寛容さがこれを貫いているように思えます。それは我々マニ教とも共通する考え方でもあります」

「一方で」

と、フェリードゥーンは恐る恐るといった様子で付け加えた。

「その多様性を統一すべき存在が、ザーイー、貴方様のみのようにも思えます。果たして・・・このようなこと、申し上げるのも実に恐れ多いのですが」

「構わん、続けよ」

「はーーでは、申し上げます。

 果たして、ザーイー、貴方様がもしも、もしもお隠れになられたとき、一体どのようにして、この巨大な帝国が治まるのでしょうか。

 私はその点にのみ、不安を覚えます」

「ふむ」

フェリードゥーンの言葉に、イマームは口元に手を当て、暫し思案する。ダブヤも、この会話を聞いていた宮廷の家臣たちも皆、一様に押し黙りイマームの反応を待った。果たして、このフェリードゥーンに与えられるのは賛美か、それとも処罰か。

「フェリードゥーンと言ったな」

「は」

フェリードゥーンは真っすぐとイマームを見つめる。その目には自信が満ち溢れていた。ダブヤは少しだけこの男が恐ろしくなった。

「お前の言う通りだ。私ももう、晩年に近い。間もなく我が教団は目的を達し、偉大なる帝国の復活が成し遂げられるであろうが、その先の未来のことも、考えねばならぬな」

 

---------------

 

887年4月。

ハサンの嫡子ザイドと、その婚約者であったサッファール朝アミール・ヤアクーブの娘ゾフレフが共に成人し、正式な婚姻が結ばれることとなった。

これは、これまで公にはされていなかった中東三大勢力のうちの2つ、ザイド教団とサッファール朝との、固い結びつきを公式にするものであった。

そして同時に、この場において、ザイド派最高指導者ハサン・イブン・ザイドは、この嫡子ザイド・イブン・ハサンを後継者指名することが宣言されたのである。

それはある意味自然なことであったと同時に、ある意味で驚きをもって迎えられたことでもあった。兼ねてよりザーイーにしてイマーム・ハサンは、その教団の指導者としての立場の後継者を、決して明確にはしてこなかった。彼自身がザイド派の教義に照らし、決して血統のみがその指導者の地位に相応しいとは考えていないとにおわせる発言をたびたび行ってきたからだ。

一方で、ハサン自身もまた、初代イマーム・アリーの血統に連なることをそのカリスマの大きな源泉としてきたことも確かであった。故に、彼の嫡子が次代イマームとなることは実に自然なことでもあり、彼の生前においてそれを明確にしたことは、この教団の存続においても重要な出来事でもあった。

 

一方で、驚きと共に迎えられた理由は、その素質であった。

彼はその学識と敬虔さにおいては右に出るものがいないほどであった一方で、その内向的な性格や虚言癖が、やや目に余るものとして信徒たちには映っていた。

果たして、この男が偉大なるハサンの後を継ぐイマームとして相応しいのか――多くの信徒たちが、大きな声では決してないものの、明らかな懸念として囁きあっていることは明確であった。

 

そしてそれゆえに、彼らはこのザイドが「真の後継者」であるとは見ていなかった。

彼らはその後継者ザイドの教育係であり、成人後もその最大の友人として影響を与え続けている「大宰相」ダブヤ・アイユーブこそが、宣教者ハサンの真の後継者であると、信じて疑わなかったのである。

 

「改めて、ザイドのことを、よろしく頼むぞ」

ハサンのその言葉に、ダブヤは頷いた。

「誠心誠意をもって、努めさせて頂きます。しかし一点、気に掛かることが」

ダブヤの言葉に、ハサンは無言で続きを促す。

「ザイド様の教育係も兼ねていた私に対し、危害を加えようとする勢力が一定数以上おります。先日も、危うく毒殺されそうになる場面が。かろうじて一人の使用人の犠牲によって難を逃れましたが・・・」

「このままでは、いつ我が身が凶刃に倒れるか知れませぬ。奴らの不満は、私が徴税役としてザカートを課していることにも原因があるでしょう」

徴税布告の種類は色々選べるが、今回は現金を多く徴収したかったためこのザカートをメインで使用している。これは常備軍徴収率を下げることなく税収のみ上げることができる一方、大きな評価ペナルティを伴うものである。


「もちろん、ザイド様の補佐という大任の責務から逃れるつもりは御座いません。ただせめて、ワズィールの役目からは降ろさせて頂けますと幸いです」

「ならん」

ハシムは即答する。

「お前には、ザイドがイマームとなった後も、ワズィールとしてその補佐に徹してもらいたいのだ。ザイドが適切にその役割を担いうるとは私も思ってはおらぬ。より適切にこの教団を動かしていけるのは、ダブヤ、お前しかいない」

まっすぐとダブヤを見つめ、はっきりと言い放つハサン。ダブヤは目を見開き、これをしっかりと受け止めた。

「・・・畏まりました。そのように仰られては、私もこれを断るわけにはいきません。ワズィールの役目をこなしつつ、しっかりとザイド様の補佐を務めさせて頂きます。

 ただ、その代わり一点だけ、お願い申し上げたいことが」

再びハサンは無言で促す。

「・・・此度の我が身への謀略、その裏で糸を引いているのは密偵頭のゴルガーン領主イスマーイールと考えております」

「ほう。そのように考える根拠は?」

「は。兼ねてより、奴がザーイーの統治の方針に不満を持っていることは、私の放った密偵の情報から掴んでおります。とりわけ、私をワズィールにし、権力を得ていることについては、かなり悪様に。その上で密偵頭という彼の役職をもってすれば、私を亡き者にすることも難しくはないでしょう。動機と能力があります」

加えて、とダブヤは続ける。

「奴は先日、その権威を笠に着て信者たちからの善意の寄付金を横領した疑いが持ち上がっております。

 そのような者が、重職に就き続けていることは、今後の教団にとっても決して望ましいものではないと考えます」

「成程」

と、ハサンが口を開いた。

「つまりお前の要求は、イスマーイールを今の役職から外し、さらに言えばお前に手が出せないような状態にすべし、と言うことだな」

ハサンの言葉に、ダブヤは頷く。その口元には、笑みが浮かんでいた。

「ええ、それがこの教団の未来のためにも、適切なものであるかと思います」

 

---------------

 

887年9月3日。

エスファハーンを訪れていたイスマーイールは突如ハサンの近衛兵たちに囲まれ、その身柄を拘束された。

同時に彼の所領であるゴルガーンにはハサン直属の軍が差し向けられ、主君の不在を守るゴルガーンの兵士たちも、なす術もなくその武装を全て解除させられたという。

 

イスマーイールからはゴルガーンの地が取り上げられ、彼自身は凄惨な拷問を掛けられるも、特に目新しい情報は出ず。

それでもその身はもはや何か謀略を果たせるものではなくなっており、宣教者ハサンのこの突然の暴挙に対し、信徒たちは恐れ慄いたという。

 

-------------------------

 

888年2月23日。

サーリヤーの街の郊外の屋敷にて、その男は人知れずその館の主人との会合を行なっていた。

「――策は首尾よくいった。我らにとって懸案の種であったイスマーイールも失脚し、我々を邪魔立てする者ももはやおるまい。奴の領有していたゴルガーンの地も、ロスタム、君が得るべきであると私からも進言しておいたぞ」

「ありがたい。しかし、今回は随分と大胆にいったな。ザーイーは、疑念を持たなかったのか?」

「ああ、問題ない。信頼しきって下さっているよ。例え、私の狙いに気が付いていたとしても、それはザーイーの考えにおいては、力ある者の正しき判断として肯定して下さることだろう」

「――ザーイーの考えが、分かるのか?」

「ああ・・・私も長い間、誰よりもその近くに居続けてきたのだからな。少しずつ、彼の考えも理解できるようになってきたよ」

そう言って男はニヤリと笑った。

「とは言え、そんな彼でも、我々の本当の狙いは見透かすことはできていないだろう。さもなければ、こうして今も私をその傍に置き続けているわけがない。

 ――ロスタム、いよいよ、来るべき我々の時代の到来は近い。ペルシアの真の継承者たる我々の手によってこそ、正当なる帝国は復活されるべきなのだ。

 さあ、ロスタム、ハオマを掲げよ!」


「――以上、報告となります。また、同時にマーザンダラーンの領主ロスタム殿の邸宅も襲撃され、その時はロスタム殿も一命は取り留めたものの重傷を負い、それがもとで還らぬ人となりました」



「そうか」

と、報告を聞いたハサンは短く答える。その表情に浮かぶ感情を窺い知ることは難しい。

「ダブヤの後継者はフェリードゥーン、貴公が担い給え。この国と、我の後継者とを、支え得る立場として」

「は――承知いたしました」

フェリードゥーンは答えつつも、恐れていた。しかし、拒否権などない。与えられた任務を、ただ全うするだけである。

「それでは、いよいよ」

「ああ。帝国の復活に向けての、最終段階だ」

 

 

帝国の完成と、その先

889年2月3日、北西に位置する異教徒アルメニア公国との戦争にも勝利し、その領土の大半を奪い取る。

翌年11月には南東のファールス地方を支配していたターヒル家の残党を臣従させ、この地も領土に組み込んだ。

同時期に北東部のホラズム地方を支配するアフリグ家の者たちも、自らザイド派に臣従することを決める。

このアフリグ朝を足掛かりにザイド派の帝国はさらに東方にまで領土を拡大し、インドと呼ばれる地方の目前にまで、進出しつつあった。

 

そして、892年5月。

中東における最大勢力がこのザイドの帝国であることが誰から見ても明らかとなったとき、そのイマームたるハサンは、中東世界全土に向けて、その宣言を発した。

すなわち、この「ザイド帝国」こそが、古のペルシアの帝国の後継者であり、そしてこの中東の支配者であることの、宣言を。

 

「――そして、最後の仕上げだ」

 

 

893年9月2日。

アッバース帝国首都サーマッラー

第14代カリフ、アブドゥッラーフ・イブン・アル=ムウッタズは決断を迫られていた。

「アミール・アル=ムウミニーン、すでに城の周囲は異端の徒によって包囲されております。その先陣に立つのは一族のアブドゥッラーフ・イブン・アル=ムフタディー。忌わしくも、異端の教えを奉じ、言争にて我らが籠城の信徒たちを惑わしております」

「援軍として期待していたメッカ太守アブドゥル=ジャリールも、城外の戦いでいとも簡単に打ち破られ、救援は絶望的な状況でございます」

家臣の言葉を、若きカリフは陰鬱な様子で聞いていた。

「打って出るべしッ! アッラーは我らを御守りなさるに違いないッ!」

血気盛んな家臣たちが口々にそう叫ぶと、もはや宮中はその方針で固められたかのようであった。籠城派の家臣たちも萎縮し、何も言えなくなっていた。

「今こそバドルの戦いの奇跡をッ! アッラーは我らについている!」

籠城派家臣が恐る恐るカリフの表情を窺う。

カリフはもはや、何の希望も期待もしていないかのような表情で呟いた。

「――いずれにせよ、この帝国はもう、長くは持たぬ。偉大なるハールーン・アッ=ラシードの栄光は既に遠き過去のこと。内紛の繰り返しに、地方の反乱と独立、そして異民族の侵入。そこにきて、かのような異端の徒の拡大。我がカリフの位を継いだときから、このような未来は予見できていた。

 異端の徒の長、確か、ハサンと言ったな? 奴は何と言っている?」

「ーーはっ、カリフの地位は保証し、保護すると・・・。このザグロス山脈からアラビア半島北部、そして地中海に至るまでの帝国の領域の支配権をすべて認めてさえくれれば、領内での信仰の自由も保証すると」

「アミール・アル=ムウミニーン、異端の者共に屈するおつもりですか!? せめて一戦は交えねば、既に散っていった同胞たちに示しが尽きませぬ! せめて我々だけでも――」

「ならぬ」

カリフはそれまで見せたことのなかったような迫力でもって武断派の家臣たちを睨みつける。思わず彼らも怯み、口を閉ざす。

「誰一人とて、玉砕すること罷りならん。我が先頭に立ち、ハサンと交渉し、一人でも多くの助命を認めさせよう。そうして生き存え、怒りを溜め込むのだ。いつか必ず来る、復讐のときのために」

立ち上がったカリフ・アブドゥッラーフを中心に、家臣たちは平伏する。

「良いだろう、ハサン。この混沌の時代、支配者たらんことはそこに立ち向かうことを意味する。その地位は、貴様に明け渡す。我は混沌を招く側にならん。やがて貴様の喉元に食らいつくまでの間、決して自ら倒れることのないよう、覚悟せよ」

 

 

「――カリフ側より、恭順の意が示されました。開城し、降伏すると」

「そうか」

「カリフ以外の者は皆捕え、順に処刑致しますか?」

「いや、良い。そうしたところで、因果は変わらぬだろう。混沌はそのまま飲み込み、これを飼い慣らさぬ限りはな。それはファリードゥーン、貴公の仕事だ」

「はっ、善処致します」

指令を伝え、作業にかかるべくファリードゥーンはその場を離れ、ハサンはその場に一人残された。ダブヤ、と声をかけようと口を開きかけ、すぐさまそれを閉じる。

「――ムハンマド、いよいよ我らが夢は叶った。あの頃、何も知らぬ頃に我が抱き、語ったこの帝国の夢が」

「それが、我が体内の地と名に与えられた使命だと感じて。それは私がアッラーより与えられた使命だと信じて。

 だが、私にできるのはそれを成し遂げることまでだ。そこに意味を見出し、像を結ぶことは、やはりお前がいないと私にはできぬようだ」

ムハンマドの言葉に、返答はない。誰もそれは耳にしておらず、アラビアの乾燥した空の彼方へとただ消えていくばかり。

「私は間もなく潰える。私もできる限りは理想を語り、言葉を紡いできたつもりだが、それが果たして正しいものなのかは分からない。それでも、お前が教えてくれた意味をできるだけ形にした帝国をここに遺すことができたつもりだ。

 あとは、帝国の民に、委ねるしかないのだろうな。ムハンマド、ダブヤ、私も間も無くそちらへ向かおう。共に、この帝国の行く末を、見守ろうではないか」

 

 

897年4月17日。

カスピ海南岸、タバリスターンの地域にて興し、わずか数十年でアッバース朝を滅ぼし中東最大の勢力を築き上げた偉大なる「宣教者」ハサン・イブン・ザイドは、その67年の生涯に終わりを告げた。

彼の死後、その息子ザイドが2代目のイマームとして統治するも、903年にアッバース朝の残党がアラビア半島のベドウィンたちと手を組み大規模な反乱を巻き起こし、再び帝国は二つに分裂。

しかしその数年後に西方のキリスト勢力が聖地イェルサレムの奪還を目的に「十字軍」を組織し、復活したアッバース帝国は敗北。

これをきっかけとして折角復活したアッバース帝国も再び崩壊。小規模な地方政権に分裂したこのアラビア半島でザイド帝国、イェルサレム王国が共に拡大を見せ、アラビア半島に新たな秩序と対立の軸が生まれつつあった。

そして、ザイド帝国最大の同盟国であったサッファール朝も、始祖ヤアクーブの死後に二つに分裂。

兄弟同士が周辺の勢力も巻き込み内紛を繰り返すうちに弱体化・さらなる分裂。これを好機と見たザイドは、この分裂した小勢力を飲み込んで更なる拡大を見せていったのである。

 

だが、その帝国の繁栄に待ったをかける存在も、生まれつつあった。

 

 

962年。

すでに2代目ザイドは没し、ザイド帝国は3代目のニザームが継承していた。

その帝国の東方より、突如現れた遊牧民勢力。

セルジューク家と称するその一団の長、アタベクが率いる屈強な騎馬部隊の力によってザイド帝国は数的有利を覆すことができずに敗北。

ペルシア高原の中心に、独立した勢力が出来上がる事態となってしまった。

 

果たして、これは帝国の終焉を予見させる出来事なのか。

それとも、帝国の歴史の些細な1ページに過ぎず、帝国は更なる永遠の繁栄を築いていくのか。

 

それは、まだ誰にもわからない。かつての英雄、宣教者ハサンですら。

彼ならばこう言うだろう。

それは帝国の民が自ら創り上げていくものだ、と。

 

 

これにて、正義と勇気を象徴する、ザイド派の物語は終焉とする。

またいつか、新たなる物語にて。。。

 

 

Fin.

 

 

 

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