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【CK3】アル=マンスールの一族⑦:光輝王ワハブ編・中 十字軍の襲来(1121-1139)

 

11世紀初め、元主君サブールを追放し新たに王朝を打ち立てたアル=マンスールの一族は、そのおよそ100年後に存続の危機を迎えていた。

王国を拡大させた3代ウマルの死後、2代続けて10年に満たない統治の中で不審な死を遂げ、6代ワハブはわずか4歳での即位となった。

そしてその「摂政」を務めるのが、家令タイタル

優秀だが黒い野心を持つこの男の手により、反乱はすべて意図的に起こさせられた上で鎮圧され、アフタス家の者さえも含む反乱首謀者たちの多くが処刑されることとなった。

今や、タイタルは王家アフタス家をも凌ぎ、このイベリアの真の支配者たらんとしていた。

 

 

だが、ワハブは決して、沈黙するだけの王ではなかった。

王国の行く末を憂う者たちの意思を継ぎ、忍耐と野心とを密かに育み続けた若き王は、1121年に成人を迎える。

 

ここから、少しずつ、彼の「反撃」の物語が始まるのである。

 

 

目次

 

Ver.1.12.4(Scythe)

使用DLC

  • The Northern Lords
  • The Royal Court
  • The Fate of Iberia
  • Firends and Foes
  • Tours and Tournaments
  • Wards and Wardens
  • Legacy of Perisia
  • Legends of the Dead

使用MOD

  • Japanese Language Mod
  • Historical Figure Japanese
  • Nameplates
  • Big Battle View
  • Invisible Opinion(Japanese version)
  • Personage
  • Dynamic and Improved Title Name
  • Dynamic and Improved Nickname
  • Hard Difficulties

特殊ゲームルール

  • 難易度:Very Hard
  • ランダムな凶事の対象:プレイヤー含め誰でも

 

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suzutamaki.hatenadiary.jp

 

 

妥協と機会

1121年8月11日。

成人したワハブ王と、婚約していた北アフリカ・イフリーキヤを支配するリヤド朝の娘アセネトとの間の「結婚式」が開かれる。

これは当然、タイタルによる手配の結果である。先のマグリブのムラービト朝内乱においては、何とか同盟者マスガバが反乱を抑え込み勝利したものの、不安定な基盤は変わらず、さらにマスガバの妻の実家であるエジプトのファーティマ朝への接近は、今後のバダホス王国の外交的転換の機会としては丁度良かった。

エジプトの雄・ファーティマ朝は、総兵力7,000超の強大国であり、かつイスマーイール派を信奉する勢力であり、バダホス王国とっては脅威となりうる相手でもあった。

 

マグリブとの同盟は維持しつつ、マグリブとエジプトとの間に位置するイフリーキヤ(現チュニジア)との同盟は、その軍事力の高さはもちろん、両国に対する楔を打ち込む大きな価値を有していたのである。


すなわち、それは完全な政略結婚ではあった。

しかし、結婚式の場で初めて彼女と会い、そして二、三言葉を交わすうちに、ワハブは彼女が実に聡明で、そして自分にとって最も相応しい存在であることを瞬時に理解した。

そしてどうやら相手もそのように感じたようだ。

その場で二人は、言葉の上だけではない、本当の意味での永遠を誓うこととなったのである。

 

そして、この結婚式は半島の諸勢力との外交の舞台でもあった。

先の大反乱戦争においては、ガルナータの支配者であったズィール家の当主とバレンシアの支配者であったズンヌーン家の当主を共に葬り去ることに成功した。

しかし一方で、ズィール家のもう一人の有力者が、未だ国内で大きな勢力を保って生き残ってもいた。

彼は当然、先の大反乱戦争におけるズィール家当主ワハブの処刑を快くは思っていないことだろう。

それ故に、タイタルは国王ワハブに対し、このハムダを丁重に迎え入れ、もてなすよう「命じた」。

ワハブはこの「任務」を見事やり遂げた。ハムダは若き国王の礼節と堂々とした振る舞いに感心し、最初は刺々しかったその態度も次第に軟化させることに成功した。

 

さらに驚くべきことに、この式典には最大の敵国であるはずの、カトリック教国カスティーリャのエステファニア女王も招かれていたのである。

ワハブ王の曽祖父たるウマルの代から長きにわたり対立し、実際に幾度となく戦火も交え続けてきたこの仇敵たるカスティーリャ王国も、今や半島の北端にわずかに領土を残すのみ。

エステファニアとしても国家の存続がため、内心の恨みや悔しさを封じ、「妥協」の道を取らざるを得ないことを十分に理解していた。

そして、タイタルもまた、この事情を利用した政治を推し進めようとしていたのである。

 

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「――タイタル殿、長きに渡り我が治世を支援して頂き、深く感謝申し上げます。ついに戦乱の時は終わり、いよいよ安定と平和の時代がもたらされていること、この式典を通し強く実感しております」

ワハブは笑顔でタイタルに話しかける。タイタルも満更ではない様子で、上機嫌に答える。

「有難きお言葉で御座います、陛下。私もたかが摂政の身の上、差し出がましいことにならぬよう注意しつつも、王国の繁栄を第一に考えここまでやってきました。この安定は私の努力の結果であれば幸いですが、同時にやはり陛下のご威光によるものでも御座います」

「とは言え、油断はなさらぬよう――今は確かに安定しているようにも見えますが、半島の対立は未だ火種が燻っている状態。言わば、妥協の産物に過ぎません。やがてこれがまた、不穏と対立の時代を迎えることでしょう」

ゲーム的にはこの妥協フェイズを迎え、「闘争の衝突」CBが弱体化してしまう(複数の所領を対象にできなくなり、コストも高くなる)ため、暫くは征服を行わない内政モードに切り替えている。機会フェイズに移行することでまた「闘争の衝突」CBが問題なく使えるようになるため、それまではひたすら待つつもりだ。

 

「また半島が混乱するのも時間の問題というわけですね。これからもタイタル殿を頼ることになるでしょうが、よろしくお願い致します」

「ええ、もちろん――これからも微力ながらお支えさせて頂きます」

言いながら、笑みを浮かべるタイタル。それを見て、ワハブも彼を信頼しきった様子で頷く。これを遠巻きに眺めていた王国の臣民たち――アフタス家の者も含む――は、もはや王国の行く末がこの家令の手に完全に委ねられ、以後もそれが続いていくであろうことを痛感していた。

何しろ、摂政という地位に加え、今や王国内最大の勢力を確保するこのタイタル。

誰も彼に逆らうことはできない。

その共通認識は確かに、王国内に蔓延していた。

 

 

「――だが、あなたはそうは思っていない、でしょう?」

妻の言葉に、ワハブは無言で微笑む。

「否、寧ろあなただけがその可能性を持っている。誰もがそれを理解しながらも、そうはならぬと期待している。あのタイタルでさえも。そのこと自体が、それを最大の可能性たらしめることであると気がつきもせずに」

アセネトは賢しらに言葉を紡ぐ。ワハブにとって、彼女との時間は至福であった。それはときに神学、幾何学、形而上学にまで及び、その大半は現実から遊離したようなものであり、それ故にその会話を盗み聞きするタイタルの密偵たちもまた、彼らが現実逃避しているものと判断し、よりタイタルを安心させていた。

だが、ワハブは彼女が明確に現実を見つめていることを理解していた。彼女と会話することで、彼自身もその知性を磨かれる心地がしたのだ。

イスラム勢力は第一夫人を自由に入れ替えて強化したい能力を状況に合わせて変えられるのが強い。今は新しい技術の獲得を進めたいため、学識の高いアセネトを第一夫人にしている。

 

「――大学に、行ってみてはどうかしら?」

「大学?」

アセネトの唐突な提案に、ワハブは目を丸くする。

「ええ・・・いかにも貴方が政治に興味を持っていないかを印象付ける良い機会になるわ。それに、時間はたっぷりとある。いつか来る『その時』に向け、深く叡智を学び、あるいは俗世から離れた友人を見つけるには、最適だと思うのだけれど」

「成程・・・」

ワハブはその提案を吟味した。

確かに、彼女の言う通りだ。いずれにせよ、タイタルによって支配されたこの俗世には暫くの間、関わる価値はないだろう。

顕学に囲まれ、自らの限界とその先を見据えること。そしてやがて再び、ここに戻ってくること――。

 

「分かった。しばらくの間、大学に籠ってくるよ」

 

 

「――陛下は、学問に耽っているようだな」

「ええ。その聡明さはイベリア中の学者たちを驚かせているようで、大学卒業にあたって著した論文はムスリムのみならずユダヤやキリスト教徒たちからも称賛を集めているとのこと」

「さらには陛下は宮廷楽師や年代記作家を雇い入れ、祖父であるアル=ファドル様をムワッラド派の守護者として喧伝する伝説の作成と流布に力を入れられているご様子」

伝説の主人公として選択した人物が持っている「美徳」の数だけ、作成者に正統性のボーナスが手に入る。今回アル=ファドルは「太っ腹」と「節制」の2つの美徳を持っていたため、伝説の主人公として選択してみた。

 

「その神学的見識の高さと敬虔さとによって、イマーム・アビーディーン様からも、陛下は将来的に偉大な神学者になるだろうとお墨付きをもらっております」

「ハ――」

宰相の言葉に、タイタルは笑いがこみ上げるのを懸命に押さえ込んだ。

「それは良い。せいぜい天上の事柄に精通し続けることを望む。地上は我に任せて頂ければ、それで良い。

 なあ、ベルナルド。聞けば東方のセルジューク朝ではスルタンという存在が国を統治しているというではないか。バグダードにいるカリフは象徴的な存在で、これに権力を委任されたスルタンこそが武を象徴し、支配権を得ていると」

「ええ、存じております」

「ならば、私がそのスルタンとなろう。陛下には良きカリフとして聖界をお治め頂き、私が俗界の全てを手に入れる。

 その際にはベルナルド、お前には十分な分け前を与えてやろうぞ」

タイタルの言葉に、ベルナルドは薄く笑みを浮かべた。

 

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タイタルの専横はさらに進む。

彼は自らの権力を利用して賄賂を受け取り、その代償として便宜を図った上で、獲得した報酬は自らの懐へ入れていく。

一部の徴税官たちはこのことに反発し、適正かつ公正に徴税を行うことの必要性を訴え、タイタルと真正面からぶつかることもあった。

だがそんなことをすれば、その「正義漢」の運命は、決して明るいものとはならないであろう。

もはや、この半島において安寧を得ようとすれば、それはすなわち、「皇帝」タイタルへの服従と迎合に他ならなかった。

それは、キリスト教国家たちにおいても同様。

1129年にエステファニア女王が没すると、その後を継いだ嫡孫のフレデリクは自らムワッラド派に改宗。

さらには自らの宮廷言語を王国の公用語であるベルベル語に変えるなど、徹底した王国への従属を受け入れることとなった。

 

まさに、タイタルは自らの理想とする「帝国」の形成にまっすぐと近づきつつあった。

――だが、その思惑の眼前に、あまりにも巨大なる試練が立ちふさがることとなる。

 

 

十字軍の襲来

1130年2月1日。

イタリア・ローマ、教皇庁。

一人の老人が、怒りに身を震わせながら、その報告を聞いていた。

「――カスティーリャが、異教に堕したと?」

「は。今やイベリアは悪徳と退廃のソドムと化しております。これを放置していればやがて奴らは大挙してピレネーを越え、キリスト教世界を侵食することとなるでしょう。もはや、猶予は御座いません。猊下の号令の下、全キリスト教世界が一致団結し、異教の軍からイベリアを取り戻すべき時です」

リナルド・ディ・イェンネ枢機卿の言葉に、教皇アレクサンドル3世は震えながらも頷く。

十字軍――35年前にも一度、前教皇アレクサンドル2世が聖地イェルサレムの奪還を目指し発動したことがあったが、そのときはエジプトのイスラーム国家によって防がれ、失敗に終わっている。

だが、今度はイスラームの周縁に過ぎぬイベリア。現地に残るキリスト教徒たちの助けを得られる可能性もあり、勝算は十分にあると感じていた。

「――分かった。十字軍を発令する。ただちに全キリスト教徒たちに招集をかけよ。イベリアで勇敢に異教徒たちに立ち向かう同胞たちを救うのだ」

 

「――十字軍、とな?」

宰相ベルナルドの報告に、タイタルは眉間に皺を寄せる。

「は。複数のキリスト教国家の連合軍であり、その総兵力は数万から十数万にも及びうると聞きます。35年前にも一度発令され、東方のエルサレムを奪い取らんとしておりましたが、このときはファーティマ朝の抵抗により失敗に終わったようです」

「成程。狂信者たちによる烏合の衆、というわけだな」

タイタルは鼻を鳴らす。

「ならば我々はこのイベリア半島の勢力を一致団結させ、これを撃退してみせよう」

そう言うとタイタルは手元の剣を掲げる。それは、カスティーリャ人の冒険家ディエゴが持ち帰った「ムハンマドの剣」である。所有権は国王ワハブにあったが、タイタルはそれを私物化していた。

「陛下はカリフ、そして我はスルタン。国内随一の勢力を有するムワッラド派の剣たる我は、その責務を果たす必要があるだろうな」

タイタルは笑う。

これは危機にあらず、と。

このムワッラド派の危機を自らの主導で乗り越えたときにこそ、真にこの国の支配者たる権威を勝ち取ることができる。

「これは我々にとってのサラゴサの戦いだ。我々を滅ぼさんとする悪辣なる異教徒たちを撃滅し、永遠の繁栄を掴み取るぞ」

 

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1131年4月6日。

ついに、カスティーリャ王国奪還を狙った教皇主導の「第2回十字軍」が発動。

フランス王国、イングランド、神聖ローマ帝国などの主要大国は国内の不安定などを理由に参加を見送り、各国の中小諸侯らの参加が中心とはなってしまったものの、それでもムワッラド派の総兵力3万の2倍以上となる6万5千の兵を集めるに至った。

これを、タイタルおよび王国元帥アッファーン率いるバダホス王国軍とムワッラド派諸侯らは、イベリア半島にて兵を挙げ迎撃することを狙う。

十字軍の挙兵が報じられてから数ヶ月間は特に動きは見られなかったが・・・

「摂政様、バレンシアの沖合に、十字軍主力と思われる艦隊の姿を確認致しました。奴らはそのまま南下しようとしているようです」

「良し、首都にて兵を集めよ。奴らが上陸したところを狙って強襲をかけるぞ」

しかし、敵艦隊はそのままなかなか上陸する姿勢を見せず、やがてジブラルタル海峡を通り抜け、大西洋へと姿を移していく。

「奴らは何を考えている? リスボンの守りも固めておけ。いつでも動けるように、首都の部隊は待機を――」

「急報ッ――!」

陣幕に飛び込んできた急使が、青ざめた顔で報告を行う。

「イベリア北方、サンティリャーナ近郊に敵軍の上陸が認められたとの由!

 その数――1万を超える数にて! その背後にも無数の艦隊の姿が!」

完全にAIに翻弄されてしまった。

 

「・・・南方海軍は囮か」

タイタルは苦虫を嚙み潰したような表情で呟く。

「陛下は?」

「どこにも居られませぬ。聞かば、鷹狩に出掛けたとの報も」

侍従の言葉に、タイタルは呆れたような表情を見せる。

「このような有事に何を・・・まあ良い。戻ってきた際も、このクルトゥバにて落ち着いて待機するよう、申し伝えよ。

 異教の軍は、ムワッラドの剣たる我は撃退せしめよう」

そう言って武具を用意し始めたタイタルに、同じく武装した一人の男が近づき、声を掛ける。

「摂政殿、私もお供致します」

男の名はアミール。15年前の大反乱戦争においても活躍し、国王ワハブの親衛隊隊長にも命じられた男であった。「ヘラクレス」と讃えられるその武勇は高齢に至り幾分か衰えを見せたものの、それでも常人を遥かに超える力量を誇っていた。

「此度の戦、陛下も出陣なさらぬのであれば、我が武威は王国を護ることにこそ貢献致したく。今や、摂政殿が王国の旗振りをなされる身。その身辺をこそ、我が命を賭して御守りしたく存じます」

アミールの殊勝な言葉に、タイタルも感心したように頷く。これまで、他の将軍たちと異なりどこかタイタルと距離を取ろうとする様子が見られていたが故に、多くの領地は与えずに国王親衛隊隊長に留めていたのであるが、その人生の末期が近づくにつれ、一族の為か、人並みの欲と阿りが出てきたというわけか。

「良かろう、共に行かん。

 此度の戦いは、まさに歴史に名を残すこととなる、大いなるジハードとなるだろう。

 共に、イスラームの英雄となるぞ――」

 

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準備を整えたムワッラド軍は、アッファーン元帥率いる王国第一軍を先頭にクルトゥバを発ち、北上。

グレドス峠を越え、全速力で北へ向かう彼らの行軍速度に、その他の諸侯軍もなかなか足並みを揃えることもできず、気が付けば彼らが突出する形でアマヤに到着していた。

その先に見えるのは、異教徒軍がはびこる、ラ・モンターニャの大地。

「すでに異教徒軍の上陸後の混乱はなくなっており、サンティリャーナ城を包囲中。その陥落はもはや時間の問題となっております」

アッファーン元帥の報告に、タイタルは唇を噛む。

「ここでサンティリャーナを落とされれば、様子見しているイベリアのカトリック勢力も調子に乗り蜂起するやも知れぬな」

「――もはや一刻の猶予もありません。仕掛ける他ありますまい」

アッファーンは威勢よく告げる。アミールよりもさらに一回り年老いているものの、その意気はさらに盛り上がらんとしていた。アミールがここについてきたことに心なしか対抗心を燃やしている様子で、自信を漲らせてタイタルに主張する。

「奴らもまた、足並みが揃っていない様子が見られます。数は確かにあれど、そのうちのいくつかは勝手に陸地を離れようとする等、混乱が見られます。奴らも、統率する存在はなく、勝利後の領地争いを巡って内紛を繰り返しているとも聞きます」

「で、あればこそ、ここを強襲するのです。サンティリャーナとの間に位置するレイノーサは、山岳と湖に囲まれた隘路。まずはこの地に滞在する5,000の異教徒軍を撃滅し、これを後詰に来た異教徒軍を、各個撃破していくことで、数の不利を覆すこともできるでしょう」

「良し。ならば行け。

 我らが正義の鉄槌を下さん。アッラーは見守られておるぞ!」

タイタルの号令のもと、王国軍は一気に峠を越え、レイノーサへと突き進んでいった。

 

「――いよいよ、始まったか」

密偵長の報告を聞き、バダホス王ワハブは呟いた。

「すでに我々の軍勢も準備が完了しており、いつでも出撃できる状態にあります」

「うむ――」ワハブは頷く。

「昏き時代に、終わりを告げよう。今こそ、我々の光り輝く時代の幕開けを迎える時だ」

 

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1132年5月7日。

朝焼けがカンタブリアの谷間を駆け抜けると共に、戦端は開かれた。

ムワッラド軍の動きを読んでいた十字軍はすぐさまレイノーサに援軍を送り、最初の戦いは1万対9千5百と数の上ではほぼ対等な形で戦いは始まった。

とは言えすぐさま十字軍側の後詰はその数を増していき、それは王国軍としても想定外の速度。

それでも何とかムワッラド軍側の後詰も逐次的に合流していき、兵数差は再び互角近くにまで押し戻すことに成功。

太陽が東から南天に輝き、気温も次第に上がってくる頃には、双方共に2万以上の兵力を投入し、それぞれの屍をレイノーサの盆地に積み上げる形で一進一退の攻防を繰り広げる形となる。

日が西に傾きかける頃。

いよいよ、戦闘は終盤戦に入り込んでいく。

軍量ではわずかに上回る十字軍も、統率の面では劣る部分も見られていた。戦闘の総指揮を担うのはノルウェー人のエイリーク。武名と信仰心は確かなものがあったが、いかんせん多様な国籍入り乱れる3万の兵を纏め上げるだけの器量は乏しかった。

その点は、バダホス王国という絶対的な存在を頂点とし、さらには誰よりも信仰心の厚く実績もあるアッファーン元帥の指揮が一枚上手ではあった。

次第に状況を優勢に傾かせていき、互角の戦況を徐々に勝利へと導かせつつあった。

そんな折、ムワッラド軍の最大の主力たるアル=キーラ軍を率いるタイタルに、親衛隊隊長アミールがとある提案を行う。

「摂政様。敵軍をかなり追い詰めてきてはおりますが、我々もかなり限界を迎えつつあります。今はエブロ川を挟んでの膠着状態。このまま日が暮れれば、敵の主力の多くが温存された状態で撤退を許すこととなるでしょう。

 そこで、提案なのですが、私の配下の密偵の調べによれば、エルベ川河口部には浅瀬が広がっており、渡河が容易な地が御座います。ここを薄暗がりの中密かにわたり、敵主力部隊の側面を突くことで、敵軍の壊滅が成されることとなるでしょう」

アミールの提案に、タイタルはやや怪訝な表情を浮かべる。

「しかしそれは、敵中に入り込むことも意味し、危険も大きいのではないか?」

タイタルの言葉に、アミールは頷く。

「ええ、もちろんそうでしょう。しかし、ここで敵の壊滅を逃せば、最終的には総兵力の豊富な異教徒軍が優位を保つこととなります。今、こここそが、この戦いにおけるもっとも重要な瞬間。

 ――ここでの劇的な勝利にて、タイタル様の栄光は不変のものとなるでしょう」

アミールの最後の言葉に、タイタルも眉を吊り上げる。

「勿論、私めが御身を全力で護りきります。元帥は少し離れたところにおり、力を借りることはできませんが、逆に敵が元帥の軍に引き付けられている今のうちに――」

「――分かった」ギリギリまで迷う素振りを見せていたタイタルも、ついには同意を示した。

「アッラーの加護の下、決戦を挑もう」

 

そしてカンタブリアの西の山脈に太陽が隠れつつあった夕暮れの中、タイタル軍は数千の手勢を引き連れてエブロ川の下流部を渡り、敵主力の横腹を突こうと動いた。

だが、その刹那――敵主力軍の背後に控えていたさらなる後詰がこのタイタル軍に迫り、一気に襲い掛かった!

「な――」

恐るべき事態に、タイタルは動揺する。それ以上に周りの兵たちは色めき立ち、すぐさまその場から逃亡しようとするも、目の前には敵主力軍。右手からはさらなる後詰。左手にはエブロ川。後方には湖が控えており、身動きなど取れるはずもなかった。

「お、おのれ――アミール!」

タイタルは叫ぶが、すぐ近くにいたはずの将軍の姿が今やどこにもなくなっていた。

その瞬間、彼はすべてを悟った。

これは奴の――奴らの、謀りか!

「――死ぬわけにはいかぬッ!」

タイタルは馬を駆り、必死にエブロ川へと突き進んでいく。何としてでも――この地獄から生きて還る。栄光が・・・永久の栄光が、まさに目の前に届かんとしていたところだというのに――

「死ぬわけには・・・いかぬッ!!!」

そのとき、一本の矢がタイタルの乗る馬を刺し貫き、タイタルは川の中へと身を崩れ落とす。そこに十字軍の騎士たちが数名飛び掛かり、タイタルの護衛たちがこれを撃退するも、その中から1名、勇気ある男がタイタルの眼前にまで迫った。

タイタルもムハンマドの剣を取り出してこれに立ち向かうも、騎士の一撃はタイタルの左眼を襲い、エブロ川に鮮血を撒き散らすこととなった。

 

戦い自体はアッファーン元帥の指揮の下、最終的には敵兵を押し込んで勝利。十字軍を敗退させた。

敗走中の敵兵にも容赦なく襲い掛かり、幾多もの兵を討ち取っていく。

最終的には3万対3万8千の数的不利を覆しての勝利。とは言え、エブロ川も邪魔をして、敵兵全体の3分の2は取り逃がす結果となってしまった。

そして、元帥のもとに届けられた、衝撃の報告。

「摂政殿――タイタル殿の部隊が敵軍の攻撃を受け壊滅。タイタル殿自身も重傷を負って、瀕死の状態となっております」

その事実が意味するところを、アッファーンはすぐさま理解した。

王国の実質的な支配者であったタイタルの戦線離脱は、ムワッラド軍全体の崩壊を招きかねない。押さえ込まれていた諸侯が互いの権力争いを開始し、十字軍撃退どころではなくなるやも知れぬ――たとえそこまでいかなくとも、なおも6万近い兵を残している十字軍を撃退することは、かなり難しくなると言わざるを得ないであろう。

タイタルに代わる、真の王国の統率者が現れぬ限りは――

 

「――へ、陛下が・・・陛下の軍が、現れましたッ!」

 

兵士の一人が叫んだ声は、空の大半を覆い尽くす夕闇の中に雷鳴の如く響き渡った。

そして戦場の兵士・将軍たちの視線はある一点へと注がれる。

それは峠の頂上より姿を現した国王陛下の直属軍の姿であり、その中心で馬上に構えた国王ワハブの姿であった。

金の王冠と鎧とが西の山脈に沈みかけた太陽の光を反射して輝き――絶望に沈みかけたムワッラド軍の兵士たちに、アッラーが遣わした希望の光そのものであるかのように映ったのである。

 

「マリク・・・マリク・サーティアン(光輝王)!」

 

兵士のうちの誰かが叫んだそれは、次々と戦場に伝播していく。

やがて大きなうねりとなったその合唱に迎え入れられて、「光輝王」ワハブはアッファーンの目の前にまでやってきた。

「元帥、良くぞ耐え抜かれた。タイタルのことは聞いた。ここからは私が全軍の指揮を執る。忌まわしき異教徒たちへ、反撃を開始するぞ」

これまで見くびっていた存在はもはやそこにはなく、偉大なるアル=マンスールの末裔、バダホス王国の正統なる王の姿が、確かにそこに存在した。

「は――」

アッファーンはすぐさま平伏する他なく、それに倣って王国軍とムワッラド派同盟国軍の全てはこの唯一なる王の下に服従を誓った。

 

 

そして、6月1日。逃亡する十字軍残党をサンタンデールで追い詰め、殿軍を務めた3,000の兵を壊滅。

さらに10月17日。

ビリャビシオサの地にてビスケー湾に逃れようとしていた十字軍を強襲。

激戦の中で今度はアッファーンが重傷を負い、「無能力者」となる被害が被ったものの、戦闘自体は勝勢で推移。

最終的にはこの戦いで3万の異教徒軍をほぼ全滅させる大戦果を遂げることとなった。

 

これで、ついに十字軍はその闘志を完全にへし折られることとなる。

戦時中に病没したアレクサンドル3世に代わり、新たに教皇に就任したアレクサンデル4世は屈辱的な敗北を認め、「第2回十字軍」通称「カスティーリャ十字軍」は、第1回に引き続きキリスト教勢力の大敗という形で歴史に刻まれることとなったのである。

 

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「――すべて、首尾良くいきましたな」

若き元帥の言葉に、ワハブは頷いた。

「ああ。貴殿の義父であるアミール殿があの時、その身を犠牲にしてでも役目を果たしてくれたお陰だ。感謝してもしきれぬ」

「――生前の義父上は、常に申しておりました。正しき者への正しき忠誠こそが、アッラーがその身に恵まれし才覚を渡した所以なのだと。

 私もまた、そんな義父上の意志と思いを受け継ぐことを約束致します。アッラーに誓って、陛下の剣としてこれからも貢献致しましょう」

しかし、とイーサは続ける。

「すでにカスティーリャも正式に王国に併合され、先の十字軍に協力していたアラゴン王国とガリシア王国も武力にてこれを征服。

 今や、長きにわたるイベリアの闘争は陛下のご威光の前に終わりを告げ、陛下の名は偉大なる『征服王ファティーフ)』として知れ渡っております」

「そして武威のみならず、カリフとしても、此度の十字軍撃退の功績やイベリアの統一も活用し、ムワッラド派の守護者としてその名声を確かなものとしつつあります」

「今や、半島に敵なし。アフタスの名は真に普遍なるものへと成長しつつありますが・・・その上で、陛下は何をお求めで?」

イーサの言葉に、ワハブは暫し思案したのち、応える。

「――そうだな。此度の十字軍は、最後には勝利したものの、多くの犠牲を兵たちに強いることとなった。そして、その犠牲に比して、彼らに与えられる恩賞もまた、少ない。

 で、あれば、我々がやるべきは復讐であろう。キリスト教勢力の領土に侵攻しこれを奪い取り、かつての『殉教者の道の戦い』の恥辱を奪い返すこと。そして我らが信仰を、半島を超えた領地へと拡大していこうではないか」



次回、最終話。

勝利者の末裔」へと続く。

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過去のCrusader Kings Ⅲプレイレポート/AARはこちらから

北条高広の野望β ~上杉謙信を3度裏切った男~北条高広の野望β ~上杉謙信を3度裏切った男~(1567-1585):Shogunate Beta版プレイ。単発。

明智光秀の再演(1572-1609):Shogunateプレイ第4弾。信長包囲網シナリオで、坂本城主・明智光秀でプレイ。その策謀の力でもって信長と共に天下の統一を目指すはずが、想像もしていなかった展開の連続で、運命は大きく変化していく。

江戸城の主(1455-1549):Shogunateプレイ第3弾。「享徳の乱」シナリオで関東の雄者太田道灌を中心とし、室町時代末期から戦国時代中期までを駆け巡る。

正義と勇気の信仰(867-897):アッバース朝末期の中東。台頭するペルシア勢力や暗躍する遊牧民たちとの混乱の狭間に、異質なる「ザイド教団」とその指導者ハサンが、恐るべき大望を秘め動き出す。

織田信雄の逆襲(1582-1627):Shogunateプレイ第2弾。本能寺の変直後、分裂する織田家を纏め上げ、父の果たせなかった野望の実現に向け、「暗愚」と称された織田信雄が立ち上がる。

「きつね」の一族の物語(1066-1226):ドイツ東部シュプレーヴァルトに位置する「きつね」の紋章を特徴とした一族、ルナール家。数多もの悲劇を重ねながら七代に渡りその家名を永遠のものとするまでの大河ストーリー。

平家の末裔 in 南北朝時代(1335-1443):Shogunateプレイ第1弾。南北朝時代の越後国に密かに生き残っていた「平家の末裔」による、その復興のための戦い。

イングランドを継ぐもの(1066-1153):ウィリアム・コンクェスト後のイングランド。復讐を誓うノーサンブリア公の戦いが始まる。

モサラベの王国(867-955):9世紀イベリア半島。キリスト教勢力とイスラーム勢力の狭間に息づいていた「モサラベ」の小国が半島の融和を目指して戦う。

ゾーグバディット朝史(1066-1149):北アフリカのベルベル人遊牧民スタートで、東地中海を支配する大帝国になるまで。