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【CK3】アル=マンスールの一族⑥:光輝王ワハブ編・上 大反乱戦争(1109-1121)

 

「勝利者」アル=マンスールから始まるアフタス朝は、アル=マンスールの孫にあたる第3代「狼王」ウマルの時代に大きな繁栄を迎える。

しかしウマルの死後、王国は混乱の時代を迎える。まずはウマルの息子であるアル=ファドルはカスティーリャ王国を打倒し、反乱も抑え込むことに成功するも、即位から7年で突如暗殺の憂き目に遭う。

続く第5代アブー=バクルもまた、即位から6年目の1109年8月4日に苦しみと共に死を迎える。

これを受け第6代国王として即位したのが、わずか4歳のワハブ・イブン・アブー=バクル

そしてその統治の実権を握るのは、幼いワハブ王の「摂政」を務める男、タイタル

偉大なるアル=マンスールと狼王により拡大したアフタス朝は、今その存続の危機に瀕していた。

果たして運命は、どのような結末へと向かっていくのか。

 

目次

 

Ver.1.12.4(Scythe)

使用DLC

  • The Northern Lords
  • The Royal Court
  • The Fate of Iberia
  • Firends and Foes
  • Tours and Tournaments
  • Wards and Wardens
  • Legacy of Perisia
  • Legends of the Dead

使用MOD

  • Japanese Language Mod
  • Historical Figure Japanese
  • Nameplates
  • Big Battle View
  • Invisible Opinion(Japanese version)
  • Personage
  • Dynamic and Improved Title Name
  • Dynamic and Improved Nickname
  • Hard Difficulties

特殊ゲームルール

  • 難易度:Very Hard
  • ランダムな凶事の対象:プレイヤー含め誰でも

 

前回はこちらから

suzutamaki.hatenadiary.jp

 

カトリック反乱戦争

1109年12月22日。

王国家令として巧みな財政能力でこれを支えたアブドゥル=ガフールは、その人生の終盤に差し掛かろうとしていた。

「ハミード」

「は」

アブドゥル=ガフールの呼びかけに、宮廷イマームとして常に傍に仕え続けてきた男、アブドゥル=ハミードがすぐさま駆け寄ってくる。

「すでに身体は殆ど言うことを聞かず、我が身も間もなく、終焉を迎えることとなるだろう」

「・・・・」

珍しく弱気な主君の言葉に、アブドゥル=ハミードも返す言葉を見つけられず、沈黙する。聡明なこの主君には、気休めの言葉など逆効果であることを彼は知っていた。

「気がかりなのは、まだ生まれたばかりの我が子、ラシードのことだ」

「彼の兄イスマーイールが存命であれば不安は少なかったであろうが、彼はかつてアル=マニヤ炎にてすでにこの世を去り、今残っているのはこの幼き子のみ」

「娘たちもすでに他家に嫁いでいる身なれば、とかくこのラシードを護り、育てなければならない。だが、私の命はそれまで間に合うことはないだろう」

「私めが責任をもって、ラシード様を御守り致します。ガフール様の血族は必ずや、後世に遺しましょう」

アブドゥル=ハミードの言葉に、アブドゥル=ガフールも頷く。しかしその表情にはまだ不安の色が残っていた。

「ハミードよ・・・家を護る上で、気を付けるべきはあの男――タイタルだ」

アブドゥル=ガフールの口から、かつて彼がその才を見出し、傍らに置き続けた国王補佐官――そして今や新国王ワハブの「摂政」を務める男の名が飛び出した。

「私は奴を甘く見ていた・・・奴は想像以上に、恐ろしい男だ。奴はこの王国の存続など、歯牙にもかけてはいないだろう。このままではやがて、この王国もアフタス家も、あの男によってこの乗っ取られてしまうことだろう。

 ハミードよ、十分に気をつけるのだ。この私が亡き後、奴はこの領地も狙ってくるに違いない。そのとき、ラシードの命がどうなるか、私は不安で仕方ないのだ」

「どうかこの家を、ラシードを――そしてこの王国を、護ってくれ、ハミード」

アブドゥル=ガフールの言葉に、アブドゥル=ハミードはしっかりと頷く。

アブドゥル=ガフールはそれを見て、ようやく安心したように瞳を閉じた。

「私は暫し休むよ・・・」

 

翌1110年3月11日。

王国家令アブドゥル=ガフールは、その64年の生涯に幕を下ろした。

 

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「――状況を説明致します、家令殿」

そう言ってアッファーン元帥は地図を広げ、説明を開始した。

「今回蜂起したのは先年の第四次カスティーリャ戦争にて新たに傘下に加えたキリスト教諸侯であり、その筆頭に立つのはアヴェイロの女領主、『串刺し女伯』トダ

「5年前に父であるアヴェイロ伯が他界した後、領内の不満分子たちを一人残らず処刑して回ったことからそう呼ばれるようになった女傑であり、兼ねてより反バダホス王国派の筆頭とも言える存在でした」

「他にも彼女の息子であるヴィゼウ伯メンド・メンドス、ポルトゥカーレ公スエル、アマヤの領主ポンセ・アルバーロス、トゥデラの領主アザムなど、王国北部のカトリック諸勢力の殆どすべてが参加したこの反乱軍の総勢は1万を超えますが、その一つ一つは多くても千と少しの兵力しか有さない小領主たち。

 まさに烏合の衆とも言える存在であり、精悍たる我々王国軍の敵ではないでしょう」

自信満々に説明する元帥の言葉を受け、王国家令にして摂政、タイタル・ハフスは眉間に皺を寄せる。

「――例のバルセロナ伯も、蜂起に加わったようだな」

タイタルの言葉に、アッファーンは少し焦りながらも頷く。

「確かに、奴は厄介ではあります。しかし反乱軍は統率の取れた軍隊ではなく、各個撃破が能うものとなります。決して、恐るべきものではないかと――」

「万が一すらも、あってはならぬ」

タイタルが語気強く、元帥の言葉に割って入った。

「この反乱それ自体は問題ではないが、この対処を如何に為すかを王国内のその他の諸侯は見ている。少しでもそこに瑕疵があれば、第二、第三の反乱すら招くことになるだろう。やるならば隙を見せることなく徹底的に、だ。

 マグリブの大アミールとの同盟はどうなっている?」

タイタルの言葉に、宰相のベルナルドが進み出て説明する。

「1年前、懇意にしていた大アミールのアブー=バクル殿が亡くなられ、新たにその嫡男のマスガバ殿が即位されております」

「すぐさま我々は彼と接触し、その弟君であられるシュファクス様とワハブ陛下の妹君であられるアーリファ様との婚約を締結。同盟の再締結を果たしております」

「うむ、大義だ。それではすぐさま援軍の要請を送るように」

「家令殿、マグリブの異端者共になおも頼るというのですか。今や我々は奴らを凌ぐほどの実力を得ていると言っても過言ではありません。むしろ奴らを招き入れることで、王国内からの信頼も失いかねないのでは――」

アッファーンの言葉はそこで途切れる。タイタルの鋭い瞳が、彼を刺し貫いたからである。いまだ30になったばかりの若きこの家令に、家中の誰もが逆らえぬ状況となっていた。

「もう一度言う。万が一はあり得ぬのだ。我々は徹底した実力でもって反乱軍を叩き潰す。2度とそのような愚かな真似をさせぬようにな。敵は容赦なく虐殺し、略奪せよ」

タイタルの言葉に、一同は静まり返る。それを見て、彼は笑顔を浮かべる。残虐なる笑みだ。

「手本はあるゆえ、安心せよ。――ウールヴケル」

タイタルの言葉に合わせ、一人の男が作戦室に入ってくる。見たことのないような鎧兜に身を包んだ、異様な風体の異邦人であった。

「かつてカスティーリャで鳴らしていたスノリ・クラーカの同胞だ。信念はなく、金に忠実な男であるゆえ、ある意味で同国人よりも信頼できる男だ。この男の容赦なさを、皆模範とすべし」

一同は黙って頷く。

そして戦いは、幕を開ける。

 

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1110年5月24日。

蜂起したカトリック勢力を粉砕すべく、王国軍は部隊を二つに分け、アッファーン元帥率いる第一軍を西のポルトゥカーレ公軍にぶつけ、マッシヴァ将軍率いる第二軍を北のアストルガ女伯軍にそれぞれぶつける。

ポルトゥカーレ公軍と激突した「シンファンイスの戦い」は、ウールヴケル率いるノース人部隊ものちに合流したことで数的優位を手に入れ、余裕の勝利を遂げる。

一方、北の「ポンフェラーダの戦い」においては、数的にも大差ない中で山岳地帯にこもる敵兵に力攻めをしたことにより、勝ったは勝ったものの自軍の損害も大きい辛勝となった。

さらにその年の暮れ、12月末。

総長マスガヴァ率いる「ハディース戦士団」が、突如現れたカトリック反乱軍の集団にレオンの地で襲われ、危機に陥る。

壊滅する前に何とか撤退することには成功したものの、その撤退戦の中で貴重な戦士が一人喪われるなど、大きな被害と恐怖とを王国軍に与えることとなった。

 

「――奴が、現れたか」

作戦本部のあるアストルガの街を訪れていたタイタルは、険しい顔つきで戦況報告を聞いていた。

「言ったはずだ。万が一はあってはならぬと。マグリブの援軍が到着する前に敵陣深くまで入り込みおって・・・」

タイタルの言葉に、作戦総指揮を担うアッファーン元帥は申し開きもできぬまま項垂れている。

「奴らはバルセロナの『巨人』ベレンゲルを中心として、数を集めて対抗しようとしてきている。もはや奴らは烏合の衆ではない」

「我が軍も急ぎ兵を集めさせてはいるが、マグリブ軍も含めた完全な集結までにはまだ時間を要するものと思われる」

「――それまで、持ち堪えることは能うるか? 元帥」

「――もちろん、果たしてみせましょう。我が命に代えてでも・・・異教徒共の殲滅が為、命果つる覚悟でこの戦いに臨みます」

 

 

1111年4月16日。

カンタブリア山脈山中の険しい地形の中に聳え立つアストルガ城。かつて、プリニウスによって「ウルブス・マグニフィカ(壮大な都市)」と称されたこの地は、長くムーア人とキリスト教徒との対立の最前線に位置する都市であった。

その地が、今再び両者の激突の舞台となろうとしていた。

最初はごくわずかの先発隊の攻勢を難なく押し返すアッファーン。

だがすでに後続の敵部隊が追い付いてきて、次第にアッファーンは劣勢に追いやられていく。

戦いの中で、有力な将軍の一人マッシヴァが討ち取られるような場面も。

このままでは壊滅か――そう思われていた中で、「その男」が猛然と前線に飛び出し、敵兵を屠り出していく。

「――実に恐ろしい男だ。だが、我々イマシゲンも、負けてはいられない。私とて、陛下より『マリクの代行者』としての勲章を戴いている身なれば」

「ヘラクレス」と称される恵まれた肉体をもち、イマシゲン随一の武人としての誉れ高いアミール・イブン・ウマイヤも負けじと前線に飛び出し、迫りくる敵騎士たちと対峙していく。

これらの英雄たちの活躍に感化され、怯む様子を見せていたその他の兵たちも次第に士気を取り戻していく。そこにアッファーンも的確な指示を出し、敵軍の動きが緩慢なところを中心に突撃を仕掛けていく。

そうして次第に戦線が膠着してきたころ――いよいよ、援軍が到着し始めてきた。

 

「――我々の敗けだな」

周囲を完全に包囲されたことを悟った「巨人」べレンゲルは観念し、降伏の旗を掲げさせた。

キリスト教勢力による事実上最後の抵抗であった「アストルガの戦い」はこうして幕を閉じたのであった。


「――国内の反乱勢力に、動きはなかったか?」

「はい。いずれの諸侯も陛下に対する恭順の意を示しており、不穏な動きは見られません」

宰相ベルナルドの報告に、タイタルは唸る。

もしも国内で反乱が起こるとすれば、今が最大の好機だったはずであり――そうしたとしても、これを叩き潰すつもりで準備をしていた。

しかし、何も動きはなかった。

まだ、彼らは何かを待つつもりでいるのか?

「――それならばそれで良い。

 暫し、国内の安定に努めようではないか」

 

 

大反乱戦争

月も見えない漆黒の夜、砂の海に浮かぶタガザの城に一陣の風が吹き抜ける。わずかな星明かりだけが、アブー=バクルの部屋へと続く廊下を照らしていた。

その影は物音ひとつ立てず、壁に沿って忍び寄る。しかしその一挙手一投足を、アル=ムワッタミドは決して見逃すことはなかった。

彼は静かに立ち上がり、長剣を手に取る。その剣を手に取るたびに、彼の脳裏には過去の記憶が蘇る。父の死。アフタス家への憎しみ。そして、絶望の淵から湧き上がる、未来への希望。

彼は暗殺者の前に立ちはだかり、告げる。

「何者だ? この暗い夜に、何を求めている?」

 

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全てが終わった後、部屋の中から彼の主君、アブー=バクルが現れる。

「さすがだな、アンダルスの騎士よ。その腕前、我が競技場にて観衆に広く披露したいものだ」

「御冗談を。私めのような醜き者、この昏き闇の中でしか生きられぬ運命と理解しております」

「そうか――」

アブー=バクルはにやりと笑う。

「貴様の眼は、そのような卑屈さに澱んではおらぬ。寧ろ、陽の光の中に立つ何者かへの強い怨み、憎しみで燃え激ってさえいるように思える」

アブー=バクルの言葉に、ムウタミドは表情を引き締める。この男は常に人の心を、そして未来をも見透かすような目を持っている。この男ならば。

「望みを言ってみよ、アンダルスの騎士よ。貴様は我が命の恩人なのだからな」

「は――」

ムウタミドは平伏しつつ、その瞳を真っ直ぐに主君に向け、告げる。

「では、お願いを申し上げます。殿下、何卒、マグリブの王、マスガバに対し兵をお挙げ下さい。暴政を繰り返す若き残虐王とその側近たちに、裁きを与えるべき時です」

ムウタミドの言葉に、アブー=バクルは小さく驚く。

「それが貴様の願いなのか? それは我が願いでもある。もちろん、すぐにでも兵を挙げるつもりで、準備は進めてきておる。しかしそれが貴様にどのような価値を持つのだ?」

主君の言葉に、ムウタミドは応える。小さく、月のない夜の闇に溶け込むように、しかしはっきりと。

「もちろん、価値はございます。そのことで後ろ盾を失ったバダホスの王は、内部より大いなる刃で貫かれることでしょう。その国が、栄誉が、崩壊する様を眺められることこそが、我が人生における最大の目的なのですから――」

 

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1115年2月6日。

マグリブの大アミール、ムラービト家のマスガバは、同じムラービト家の一員である「丁重なる」アブー=バクルを中心とした大規模な反乱に見舞われた。

この「丁重なる」アブー=バクル、マスガバの父である前代アミールの妻の兄にあたる人物で、その類稀なる才覚により、前政権では中核的な存在として重用されていた。

史実人物でもないのに非常に高い能力が揃っている。

 

しかしその前代アミールの死後、新たな王となったマスガバはまだ若く、妻の実家であるエジプトのファーティマ朝の影響力が日増しに強くなりつつあった。

このままでは国がこの異端者たちによって乗っ取られかねない――そう危機感を抱いた「丁重なる」アブー=バクルは、その大義に共感する同胞たちを集め、主君に退位を迫る蜂起を引き起こしたのである。

そして、この状況は、このマグリブ王国を最大の同盟国として捉えていたバダホス王国にとっては、大きな危機の出現を意味していたのである。

 

 

「――状況はどうなっている?」

タイタルの言葉に、宰相ベルナルドは応える。

「反乱の勃発直後は主要城砦を一挙に制圧され、危機に瀕していたマスガバ殿ですが、同盟国ファーティマ朝の軍勢がマグリブに到着したことで、少しずつ劣勢を押し返しつつあるとの由。我々に対する援軍要請も今のところは来ておりません」

「しかし問題は我々です。すでにズィール家のガルナータ太守を中心に、ズンヌーン家のバランシヤ太守、ターヒル家のムルシヤ太守、さらにはサラクスタ太守の一門衆、ラウェイエ様も、反乱を企てようとする派閥の一員に名を連ねているとの噂が御座います」

「そうか」

報告を聞き、タイタルは頷く。

「――これは、これこそが、待ち侘びていた瞬間だ。

 今や、この半島の旧支配者たちはその息の根を止められる瞬間が訪れる。

 ズンヌーン、ズィール、アーミル、アッバード・・・そして、アフタス。

 誰がこのイベリアの支配者として相応しいのか、思い知らせてやろう――」

 

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1115年8月13日。

バダホス王国国内においてもついに大規模な反乱が勃発。首謀者はズィール家のガルナータ太守ワハブ。ほかにズンヌーン家のバランシヤ太守ジグザやターヒル家のムルシヤ太守アブド・アッ=ラフマーン、そしてアフタス家一門のサラクスタ太守ラウェイエなど、イベリア東部の主要なタイファが一斉に兵を挙げた。

しかしタイタル率いるバダホス王国はすぐさま行動を開始する。

総勢7,300人の王国軍を二つに分け、南部にはアッファーン元帥率いる第一軍を、そして東部には先のカトリック反乱で王国を苦しめたあの「巨人」ベレンゲルが率いる第二軍を組織して向かわせたのである。

 

「頼んだぞ、バルセロナの英雄よ」

タイタルの言葉に、「巨人」ベレンゲルはフン、と鼻を鳴らした。

「貴様らの為に剣を振るうつもりはない。ただ、我々の名誉と繁栄が為に。この戦争の勝利の暁には、約束を守ってもらうぞ」

「勿論だ――このイベリアは一つの家のためだけのものでもない。この戦いの勝利はすなわち、新たなるイベリアの時代の始まりを意味する。貴殿への報酬もその理想の1つの形だ」

タイタルの言葉に満足気に頷き、「巨人」は信頼する兵たちと共に平原の向こうへと進軍していった。

 

 

1115年10月17日。

まずはウクリスの地にて、ベレンゲル将軍率いる王国第2軍とバランシヤの将軍タナンとの軍が激突。

これに圧勝し、敵将の一人を捕えるに至る。

ほぼ同時期に今度は南部アル=ジャジラ・アル=ハドラの地にて、アッファーン元帥率いる第一軍がガルナータ軍の軍師サイード率いる部隊を強襲。

これも難なく打倒し、自軍にも犠牲者を出したものの、「狂戦士」ウールヴケルの活躍もあり敵将の一人を討ち取ったほか、反乱の首謀者ワハブの親族であるブルッギンを捕えるなど大きな成果を残した。

さらにワハブの叔父(前代アブー=バクルの弟)であるトゥレイトゥラのタイファ・タイイーブもバランシヤに対し宣戦布告し、参戦。

1116年5月17日のアルコイの戦いではバランシヤのタイファ・ジグザを捕えるなど活躍し、王国軍の対反乱戦争を脇からアシストする形を取ることとなった。

 

「バジャのアル=アッバース殿下のみならず、参戦を約束していたはずのアル=ムザッファル殿下も未だ沈黙。我々の呼びかけに対しても応答は御座いません」

宰相の言葉に、ラウェイエは唇を噛んで応える。

「――日和見主義者め。奴らの求めに応じ、この機を待ち続けていたというのに・・・分かっているのか、この状況を。我々栄光のアル=マンスールの一族が、今まさに下賤なる者共によって乗っ取られようとしているのだぞ」

「かつて太祖アル=マンスールが、主君サブール亡き後のその子らを追放しこの王国を簒奪したときと同じことが繰り返される・・・ある意味では、これはその報いなのかもしれぬがな」

苦笑するラウェイエに、傍らから声を掛ける者がいる。

「そうはさせぬ為にこそ、我らは命を賭して戦わねばなりませぬ。たとえこの戦いに敗北したとしても、我らの思いが未来へと繋がるように」

「フン――その敗北に意味があるかは知らんが、私も覚悟は決めよう。将軍、最後まで付き合ってもらうぞ」

 

1116年5月20日。

反乱軍の各勢力を撃滅した王国軍は、ついに全勢力を率いてサラクスタのタイファの本拠地へと進軍する。

対する反乱軍も残る勢力を全て結集し、このサラクスタのアルハフェリア要塞にて迎え撃つこととなった。

反乱軍を率いるのはアフマド・セビタ将軍。かつて、アル=ファドル王の右腕として活躍した王国最強の元帥の一人である彼もまた、この反乱においてサラクスタ太守の下につき、最後の抵抗を試みたのである。

寡兵ながらも高い士気でもって決死の抵抗を試みる、アフマド率いるサラクスタ軍。

その勇敢なる兵たちを次々と斬り伏せながら、「ヘラクレス」アミールは、単身敵陣深くへと食い込んでいった。

そして、彼は森の奥で、その男と対面した。

「――将軍」

「もはや貴殿らの将軍ではない。私はただの一人の、叛逆者だ」

剣を構えるアフマド。アミールも剣を抜き、構える。既に60を過ぎているとはいえ、目の前の男が決して油断のできない男であることは、アミールもよく理解していた。

「――勇敢なる闘士アミールよ。

 最後に一つ、頼まれてほしいことがある」

アフマドの言葉に、アミールは無言で続きを待つ。

彼にとっても、目の前の「元」将軍は――イマシゲンの騎士として、憧れの一人であった。

「陛下を――ワハブ様を、よろしく頼む。

 今はまだ、タイタルの傀儡でしかない陛下も、やがて生育し、自らの意思で正しき道を選び取り、光り輝く王になることを、私は確信している。

 もしも今、陛下がその未来を自ら諦めようとするときがあれば、そのときは貴殿が、正しく導いていってほしい。

 頼んだぞ、勇敢なる『マリクの代行者』よ」

 

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反乱軍にとっての最後の抵抗の舞台となったサラクスタの戦いは王国軍の圧勝に終わり、アフマド将軍率いる精鋭部隊の3分の1近くが、森の中で屍と化した。

それでもまだ3,000近い兵力が生き残り、逃亡を図りはしたものの、もはや反乱軍側に組織的な抵抗ができる状態でないことは明白であった。

そして1116年10月31日。

ついに反乱の首謀者であったガルナータのタイファ・ワハブも降伏を宣言し、ここに、「大反乱戦争」は終わりを告げることとなる。

捕らえられた反乱諸侯たちは1人の例外もなく処刑。

そしてもちろん、この男も――。

「――先にジャハンナムで待っているぞ、タイタル」

その首に刀が振り下ろされる直前、男はどこか遠くを見る目つきでそう呟いたという。

 

――もちろん、タイタルはその言葉を聞いてはいない。たとえ目の前で囁かれたとしても、耳には入らなかったことだろう。

彼はまさに、その権勢の絶頂期にいた。

 

反乱の勃発とその鎮圧は、すべて彼の思惑通りであった。

これで反抗的な勢力を一掃し、様子見であった残りの諸侯たちにも十分な脅しをかけられたと悟った彼は、反乱勢力から取り上げた領地を自身に忠実な兵たちに再配布することにした。

まずは、ガリシア王から奪い取ったブルトゥガール(ポルトガル)をアッファーン元帥に譲渡。

半島北東部のアラゴンの地は「約束」通りに「巨人」べレンゲルへと手渡した。

ベレンゲルも自らムワッラド派へと「改宗」も行い、王国への忠誠を誓った。

さらには「狂戦士」ウールヴケルにも、その活躍に報いてヴァレンシアのタイファ位を授ける。

もちろん、タイタル自身も、アル=キーラ(カスティーリャ)の地を自ら分け前として獲得し、国内最大勢力の一角へと上り詰める。

なお、ガルナータとムルシアの地は国王ワハブの直轄領に。

もちろん、これもまた、実質的な「摂政」タイタルによる支配の範疇となった。

ゲーム的にもタイタルに摂政をやらせておくことはメリットが大きい。管理力の高い「傑出」摂政である彼は、主君の直轄領上限を+4させるというとてつもなく大きいボーナスをもたらしてくれるのだ。また頻繁に大金を獲得してきてくれる。

 

1117年9月1日。

反乱の鎮圧を終えた王国軍は続いて同盟国マグリブへの加勢を行う。

ファーティマ朝の強力な軍隊に加え、想定以上に早く内乱を収めたアンダルスの大国の参入で、さしもの「丁重なる」アブー=バクルの軍も対応しきれず、追い詰められていくこととなる。

そして、この男も――。

 

「そうか。反乱は鎮圧されたか」

密かにイベリアとの連絡役を任じていた密偵からの報告を、アル=ムウタミドは微笑と共に受け止めた。

「だが、王国の内実がそのようなものとは、実に喜ばしい。いずれにせよ、アフタスの終焉は近い。我が父を暗殺し、その領土を我々一族から奪い取った醜悪なる一族よ。同じく全てを奪われ、滅びゆくが良い」

アル=ムウタミドの父アッ=ラシードは、狼王の時代に彼の息子の領地に対し攻撃を仕掛けた咎で密かに暗殺されていた。

 

「――ムウタミド様、エジプト軍がこちらに!」

部下の報告を受け、アル=ムウタミドは剣を構える。

「我が人生に悔いはない。多くの罪を被ってきた穢き復讐者はそれに相応しい最後を迎えようではないか」

その生涯の大半を復讐に費やした1人の男は、その人生の終幕に向けて歩み出した。

 

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「陛下」

アミールが部屋の中に入ると、バダホス王ワハブは肩を振るわせ、恐れるような表情でこちらを見つめていた。

「驚かせてしまい、申し訳ありません。本日は私一人ゆえ、ご安心を」

先のカトリック反乱戦争、および国内の内乱において共に活躍した「ヘラクレス」アミールは、領地こそ与えられなかったものの、国王の親衛隊隊長に任命され、国王の近くでこれを教育する役割も任ぜられた。

それはアミールから志願したものであった。タイタルも彼に領地を与えるほど信頼はしていなかったがゆえに、これを承諾した。今や王国の権力を一手に握っていると確信してやまないタイタルは、傀儡の国王の傍に誰が就こうと関係ないと判断していた。

アミールは目の前の少年を、憐れな目で見つめた。幼くして父を失い、その本来の権利をすべて、側近に奪われ続けている少年。元々は勝気なところもあったようだが、その本来の姿を見せる度にタイタルによってこれを抑圧され、次第に自分を出すことのない「内向的」な性格へと変貌していったという。

 

アミールはワハブに近づき、その両肩に手を置いた。ワハブはまたびくりと肩を震わせるが、その置かれた手の温かさと自分を真っ直ぐに見つめるアミールの瞳に惹きつけられ、それ以上の抵抗は見せなかった。

「――陛下。今は多くの困難のさなかにあるかと思います。多くの敵が、あなたを永遠の沈黙の中に閉じ込めようとするでしょう。しかし、お忘れなきよう。陛下は紛れもなく、栄光あるアフタスの一族の長であり、そしてこの王国を導くアル=マンスールの血族の長なのです。我々が真に忠誠を誓うのは貴方であり、タイタルではない。

 今はまだ、忍耐の時です。今、その牙を見せれば、きっとタイタルは貴方を赦すことはないでしょう。ただ、耐え続け、耐え続けた先に、必ずや訪れる機会を、ものにするのです。その時までは必ず、貴方のお傍にて仕え続けさせていただきます」

 

 

――その言葉は、ワハブにとって、その人生を規定する重要な言葉となった。

タイタルの抑圧の中で、自らの人生を生きる可能性を見失いかけていた思春期の少年は、彼に許されたこの先の栄光への道標となったのだ。

それは、忍耐という美徳。必ず来るであろう、「好機」に向けて、耐え続けること――。

 

だから、ワハブは耐え続けることに決めた。

たとえタイタルが、調子に乗ってワハブから権限を奪い続けようとしたとしても、彼は自分を押し殺し、それに従った。

たとえ自らの友人であったアブドゥル=ガフールの息子ラシードが、突如として不審な死を遂げ、その遺領をタイタルがすべて接収することを決定したとしても。


ワハブは耐え続ける。「その時」が訪れるまで。

 

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1118年1月17日。

クルトゥバを訪れた高名なイマーム、アービディーンが、貴族の子弟ら向けにイスラームの重大な教えを説く機会があった。ワハブも当然列席し、他の子どもたちと共にその説教を聞き続けていた。

ワハブは説教の後、アービディーンに近づき、囁くようにして尋ねた。

それは、子どもながらの純粋かつ悪意のない愚かさを含んだ問いであるかのようにアービディーンには思われた。

しかし、その眼差しは真剣そのもので、その問いに彼が何か強い思いを抱いていることにアービディーンは気づいた。

アービディーンは一人の偉大なる王を前にするときと同じように身を正し、答えた。

「陛下ーーそして我々ムワッラド派の偉大なるカリフよ。もちろん陛下に与えられた権限とは、預言者の代理人に過ぎず、預言者にも、ましてや神にも匹敵するものでは決してありません。

 しかし、我々ムワッラド派の進むべき道を正しく指し示す指導者としての地位は唯一無二であり、正しき道を陛下が指し示すことを我々は強く願っております」

「正しさとは、何だ? 王の正しさとは、王国の民をより多く繁栄させ、豊かにさせることか?」

「・・・確かにそう言った面もあるでしょう。しかし富とは、一時的なものに過ぎません。いつかそれが失われたとき、人びとは永遠なるものの価値に気がつくこととなるでしょう。

 そのときの正しさ、永遠なるものとは、大きな変革の流れの中でも揺らぐことのない、巨大なる幹の如きものとなるはずです。

 陛下、それはあなただからこそ持ちうるものなのです」

アービディーンの言葉に、ワハブは無言で頷く。アービディーンはこの少年が、自分の答えを聞くよりも先に、そのことを十分に理解していたことに気がついた。

この少年は愚かなる傀儡ではない。そしてアフタスの一族も、今まさに滅ぼされようとしている斜陽の王朝ではない。

この聡明な少年の持つ、茫漠な沈黙と謙虚さの海の中にわずかに秘められた、遠大なる「野心」の大きさを、アービディーンは十分に感じ取ったのである。



そして、1121年1月3日。

「狼王」の曾孫にあたるアフタス朝バダホス王国第6代国王、ワハブ・イブン・アブー=バクルは、ついに成人を迎えることとなる。


まだ、その牙を見せるつもりはない。

しかし確かな「意思」をもったこの青年は、少しずつ、王国を「取り戻す」ための戦いを始めていくこととなるだろう。

 

 

――そして、王国にはもう1つ、危機が迫ってもいた。

 

次回、第7話。

十字軍の襲来」へと続く。

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