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【CK3】アル=マンスールの一族⑤:アブー=バクル編 疫病/王国の真の支配者(1103-1109)

 

11世紀初頭、後ウマイヤ朝末期の混乱に乗じ、元スラヴ人奴隷のサブールが建国したバダホス王国。そのサブールの宰相を務めていたベルベル人、通称「バダホスのアル=マンスール」ことアブダラー・イブン・アル=アフタスがサブール死後その息子たちを追放し王国を簒奪してから始まったのが、アフタス朝バダホス王国である。

その3代目にして「狼王アルディブ・アルマリク」と呼ばれたウマル・イブン・アルムザッファルは、英雄と称されたシル・ベラス将軍らの活躍もあり、一挙に領土を拡張。アル=アンダルスを完全に統一し、北方のキリスト教国に対しても優位を保ち、イベリアの統一も間近に迫っていた。

しかしそんな狼王も、51歳のときに突然の脳卒中により急死。

後を継いだ嫡男のアル=ファドルも武勇に優れ、カスティーリャ王国との戦争に勝利し、内乱も鎮圧するなど、着実に成功を収めつつあった。

だが、1103年5月2日。

反乱鎮圧後の平和な時を過ごしていたアル=ファドルが、狩りに出掛けていた途中に悪党たちに囲まれ、惨殺されるという事件が発生。

この後を継ぎ、アフタス朝第5代バダホス王として即位したのはアブー・バクル・イブン・アル=ファドル。わずか20歳の若き君主であった。

イベリア半島におけるバダホス王国の優位は間違いのないものとなりつつあるものの、その内部には幾つもの混沌と混乱の種が潜んでおり、安定と平和はまだまだ遠い。

アル=マンスールの一族は、そしてイベリアの住民たちは、この闇の中で果たしてどのような希望の光を見つけることができるのか。 

 

目次

 

Ver.1.12.4(Scythe)

使用DLC

  • The Northern Lords
  • The Royal Court
  • The Fate of Iberia
  • Firends and Foes
  • Tours and Tournaments
  • Wards and Wardens
  • Legacy of Perisia
  • Legends of the Dead

使用MOD

  • Japanese Language Mod
  • Historical Figure Japanese
  • Nameplates
  • Big Battle View
  • Invisible Opinion(Japanese version)
  • Personage
  • Dynamic and Improved Title Name
  • Dynamic and Improved Nickname
  • Hard Difficulties

特殊ゲームルール

  • 難易度:Very Hard
  • ランダムな凶事の対象:プレイヤー含め誰でも

 

前回はこちらから

suzutamaki.hatenadiary.jp

 

王国の支配者

タイタル・ハフスという男は、下級貴族ではあったようだが生まれもはっきりせず、気がつけばバダホスのタイファ、アル=ムザッファル2世の家臣としてこれに仕える身分であった。

しかしやがて彼の秘めたる才能、勤勉で、行政の才を持ち、そして何よりも算術に優れ人並外れた財政能力を有しているという事実は、王国家令アブドゥル=ガフールの知るところとなった。

アブドゥル=ガフールはすぐさまこの若者の才能を当時のバダホス王アル=ファドルに伝え、その傍らに置くべきであると説得した。

アル=ファドルもこれを認め、タイタルの引き抜きを画策。彼に、先の第3次カスティーリャ戦争の結果獲得したカスティーリャ王国との国境沿いの諸邦を与えることを条件にスカウト。これを受け入れたタイタルはアル=ファドルに仕えることを受け入れることとなった。

臣下の臣下から有能なパラメータを持つ人物を見つけ出し、土地を与えることで引き抜く手法を多用している。また、ゲーム的な効率性のため、管理力の高い有望な封臣には積極的に土地を与えていく。彼らはより多くの税金を徴収する能力に長けているため、国庫が潤う形となるのだ。ただ、RP的には、こういう官僚系のキャラはあまり土地を大々的に与えるのはやや違和感があるため、本当はあまり積極的にはやるべきではないのかもしれない・・・。

 

国王直属の封臣となったタイタルは期待以上の働きをしてみせ、すぐさまアル=ファドルは彼に魅了されることとなった。彼は最終的に嫡男のアブー=バクルの補佐官として彼を任命するなど、その信頼は実に厚いものがあった。

そして1103年5月2日。

狩りに出ていたバダホス王アル=ファドルが、森の中に突如現れた悪党たちにより、供回り共々惨殺されるという事件が発生。

この悲劇により、バダホス王の位は若きアブー=バクルの手に。

新たな時代の幕が開くこととなる。

 

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「――さて」

1103年10月18日。

王国家令アブドゥル=ガフールの居城たるファロ城に、タイタルは訪れていた。

「如何にして、この王国を取り仕切っていくか、だが」

アブドゥル=ガフールの言葉に、タイタルは頷く。

「――陛下は父の突然の死にお心を痛められ、またあまりにも早く訪れた重責を前にして、狼狽えているご様子」

「気持ちもわからぬではないが、乱世の王子たる者、常に心の準備を進めるべきではあったと思うのだがな。

 とは言え、この状況は我々にとって必ずしも憂慮すべき事態とも言えぬ。ともすればタイタル、お前はそのつもりで王子の教育をしてきた面もあるのだろう?」

「――人聞きの悪いことを言わないでください、家令殿。まあ、事実、世襲などという者は、権威を生むには良いが、権力を与えるには不適切。君主は無能なくらいが丁度良いかもしれませぬな」

「無能などと、あまりにも直裁な言い方よの」

言いながら苦笑するアブドゥル=ガフール。その表情を少し真剣なものに変え、前のめりにタイタルに顔を寄せ、声を顰める。

「――して、かの事件については?」

「ええ。密偵長のフェルナンドに命じて調べさせ、首謀者がアル=ファドル様の弟君で主馬頭も務めていたガーニム様であったことを突き止めました」

「ほう」

アブドゥル=ガフールは口元に手を当て、思案する。

「長弟のアル=アッバース様や次弟のムハンマド様ならまだしも、領地も与えられていない五弟のガーニム様がそのような手に出るとは・・・背後に誰かがいると考えるのが自然だろう」

「ええ。ですので、暫くは彼を泳がせ、その背後を探りたいと思います。アフタス家によるイベリアの支配を快く思わない連中はいくらでもいます。その勢力を駆逐する好機となるでしょう」

タイタルは相変わらず、人の命など興味がないような様子で告げる。有能なのは間違いないが、ときにそういった彼の部分を、アブドゥル=ガフールは恐ろしく感じるときもあった。

「ああ・・・それはその通りに進めてくれ。それから、先も名前を出したムハンマド様だが、そちらに接触があったようだな」

「ええ。アブー=バクル様がまだ若く先の通り頼りないところもあり、弟君たちもまだ未成年の状態である中、一時的な国王代理として働く旨の申し出がありました。

 ムハンマド様はキリスト教国家との国境に接する領地を能く守り、先のカスティーリャ戦争でもその活躍は疑いようのないものでした。

 その評判は高く、さらに兄のアル=アッバース様が未遂に終わったとは言え謀反の意を示していた以上、家内で最も実力ある存在があの方であることは確かです」

「だが、それでは我々にとっては都合が悪い」

「ええ――我々に敵対する可能性のある芽は、それが確かに力を持っていればいるほど――早めに摘む必要があるでしょう」

 

 

1104年2月5日。

アラゴン王国との国境を守るサラクスタのタイファ、ムハンマド5世が、わずか38歳という若さで唐突な死を迎える*1

それは明らかに不穏な死であったが、その真実を明らかにしようと大々的に動けるほどの余裕は、このときの王国には存在しなかった。

何しろ、王国はこのとき、未曾有の危機に瀕していた。

すなわち、疫病の発生である。

 

 

疫病

1104年1月22日。

アル=アンダルス南西のアル=マニヤの地で「アル=マニヤ炎」と呼ばれる「麻疹」が発生。

それは少しずつ被害を拡大させ、感染の規模を拡大させていき、5月に入る頃にはいよいよ首都クルトゥバに接近。

タイタルはすぐさま首都の封鎖を命令。

が、遅かった。

5月25日。

病魔は容赦なくクルトゥバに入り込み、アブー=バクルの唯一の男子たるアディーがついに麻疹に罹ってしまったのだ。

「この病気は子どもにとっては特に致命的なものとなる恐れが御座います。最善は尽くすつもりですが・・・場合によっては危険な道を取る必要もあるかもしれません」

東方から来た女医師ナズゴルの言葉に、タイタルが代わりに応えようと口を開きかけたが、それを押しのけるようにしてアブー=バクル王が語気強く宣言する。

「いや、障害が残るかもしれないような無理な治療はすべきではない。アディーは私の大切な後継者なのだから・・・なんとか無理なく治療させられないか」

アブー=バクルの言葉に、ナズゴルがちらりとタイタルを見るが、タイタルも小さくため息を吐きながら頷いた。

そしてナズゴルの治療は・・・失敗に終わった。当たり障りのない治療に実効性は薄く、その病態を悪化させるだけとなってしまったのだ。

そして――6月22日。

ついにアブー=バクル唯一の後継者であったアディーは幼くしてこの世を去ることとなった。

さらに7月には妻の一人であったヤスミーンの命も同じく病魔が奪い去り、立て続けに起きた悲劇を前にしてアブー=バクルは「」に悩まされることとなったのである。

 

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「陛下のご様子は?」

アブドゥル=ガフールの質問に、タイタルは首を振る。

「良くはありません。失意のうちに塞ぎ込み、自分を見失うご様子を見せることもしばしば」

「またより強く信仰を求め、以前よりもずっとアッラーへの祈りに精を出すご様子も御座います」

「先達てのアル=ファドル様の葬儀では、副葬品として貴重な『ゲオルギウスの腕』を共に埋葬してしまうなど・・・」

「ああ、イマームのワシムが言っていた、今回の疫病はアル=ファドル様の無念により引き起こされたものだという話を信じたというわけか」

「ええ。確かにあのキリスト教徒の遺物は我々にとってはさほど価値のないものとは言え・・・」

「まあ良い。実害は大きくないだろう。これを機に部屋に閉じ込めておけば良い。

 それよりは、アル=ファドル様暗殺の真犯人が分かったとのことだが」

「ええ――ガーニム様の今回の行動は、その奥方からの影響が大きいようでした。して、その奥方とは、アッバード家の娘でした」

「ああ――」

合点がいったようにアブドゥル=ガフールが唸る。

「なるほど、かつてイシュビーリヤ(セビリア)のタイファだったあの一族か。今は若い当主がアル=マニヤのみ領有しているんだったな」

「ええ。アル=ムウタミドという男です。調べてみると、本件以外にも色々動いている男のようです」

「分かった。私から手を回そう。

 アフタス家の・・・ひいては我々の支配を脅かすものは全て摘みとる。確実にな」

 

 

義務

1105年10月。

王国家令アブドゥル=ガフールは、アブー=バクル王の弟であるイシュビーリヤのタイファ、イッカームを通してアル=ムウタミドの捕縛を命令。これに抵抗したアル=ムウタミドは蜂起し、反乱を起こした。

しかし2年にわたる戦いの末に1107年7月4日についに敗北。アル=ムウタミドは囚われの身に。

アブドゥル=ガフールは彼の領主としての権利をすべて剥奪し、そのまま国外追放の刑に処した。

処刑ではなく国外追放、さらにはアル=マニヤ領主の後任には同じアッバード家のファドルを据えるなど、処罰自体はアッバード家に対してかなり譲歩した対応を取ることで、必要以上の混乱に繋がらぬよう配慮は進めた。

なお、この過程で内密にガーニムには接触し、犯罪に加担したことは公にはしない代わりに今後の絶対的服従を強要し、彼はこれを受け入れることとなった。

またもう1人の実行犯であるキリスト教徒のアリアスも翌年初頭に捕えられ、こちらは即日で処刑。

これら全ての対応は王国家令のアブドゥル=ガフールと国王補佐官タイタルによって進められ、この王国の真の支配者が誰であるかは、誰の目からも明らかなものとなりつつあった。

 

そのことはもちろん、新たな混沌の種を生み出すこととなる。

 

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1108年6月19日。

とある街の裏路地に面した屋敷。人目を憚るようにして、数人の男たちが集まっていた。

どこにアブドゥル=ガフールたちの「目」が潜んでいるか分からない。ゆえに慎重に慎重を重ねた上で彼らは集まっていた。

「何故・・・我々がこうして日陰でコソコソと集まらねばならぬのか。我々はこの国の支配者、アフタスの一族だというのに」

憤慨する様子で語るのはバタルヨースのタイファ・アル=ムザッファル2世。狼王の四男で、現国王アブー=バクルの叔父にあたる男だ。

「それこそが、今宵お集まり頂いた理由で御座います、叔父上。何としてでも、この『簒奪された玉座』を取り返す必要がある」

アル=ムザッファルの言葉に応えたのがサラクスタのタイファ・ラウェイェ。「不審な死」を遂げた父ムハンマドの後を継ぎ若くしてタイファ位に就いた彼も、父の仇に対する深い復讐心を抱いていた。

「すでにガルナータのタイファ・ワハブ殿や、バランシヤのタイファ・ジグザ殿とも話がついております。そして何より――将軍」

ラウェイェの言葉と共に、部屋の奥に黙しつつ座していた男に一同の視線が集まる。

それは、「元」王国元帥、アフマド・セビタ将軍であった。

「将軍もまた、元帥の地位を解任され、何処の馬の骨とも分からぬ男にその地位を奪われてしまった身の上。現政権に対する不満は多くお持ちでしょう」

アフマド・セビタを解任し、新たに元帥に仕立て上げたアッファーン。もちろんゲーム的には、より優秀だからこそ多くの土地を与え忠誠を誓わせて元帥に仕立て上げた形だ。

 

アフマドは暫し沈黙していたが、やがて口を開いた。

「私がこの場所に来たのは、地位の剥奪が原因ではない。元よりベラス将軍の後任として臨時で選ばれた役職と理解しており、さらにはそれが原因でアル=ファドル様のお傍におられなかったことが、あの悲劇を招いたのだ。元帥の地位に固執する思いなどなく、むしろ解任を喜ばしくすら思う」

言葉一つ一つを噛み締めるように鈍重に語るアフマドの迫力に、場に並ぶ一同は唾を飲み込み、何も言えずに言葉の続きを待った。

「ただ、貴殿らの言う通り、今の王国があの家令たちの手によって私物化されているというのであれば、私はこの剣を王国のために振るうことを約束するだろう」

「――有難い。将軍がいれば、我々には怖いものなしだ」

アル=ムザッファルが嬉々として身を乗り出す。だが、アフマドはそれを制した。

「とは言え、すぐに動くのは得策ではない。少しでも妙な動きを見せれば、彼らにすぐに勘付かれることだろう。今もこの会合がすでに認識されていてもおかしくはないのだ。下手に動けば、逆に我々の立場を危うくさせられるところだろう。奴らの背後には、マグリブの大アミールの存在もあるのだから」

マグリブの大アミール。その言葉に一同は唸る。アフタス家宗家と代々婚姻により繋がるマグリブの帝国は、イベリアの王国の安定を何よりも望んでいる。反乱ともなれば、その総兵力6,000が王国軍と共に鎮圧に動くであろう。

「では、どうすれば」

「機を待つほかありません」

ラウェイェの言葉に、アフマドは言い切る。

「歪んだ支配体制はいつの日か綻びを見せます。彼らもまた、驕り、油断し、道を踏み外すときが来るでしょう。その時こそ、正義が為される時。その時を、待ち続けるのです」

 

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1109年春。

クルトゥバの宮廷内の図書館に、今日もバダホス王アブー=バクルは籠っていた。

彼は即位直後の混乱の中で妻子を喪い、暫くの間、自分を見失っていたが、その後新たな妻ファーリーヤとの間に新しい子が産まれたことで幾分かその気持ちを取り戻すことはできていた。

しかしそのときにはすでに政治の実権は家令たちに握られ、アブー=バクルが何かをしようとするとすぐに理屈を積み重ねられ、身動きができない状況となっていた。

自然と彼は学問や信仰にのめり込むようになっていく。最近彼が特に読み耽っているのが、後ウマイヤ朝創始者たるアブド・アッ=ラフマーンの物語であった。

その物語で語られる過去の英雄の偉業、困難を乗り越えるその姿を、自然と彼は彼の父・祖父・そして偉大なるアフタスの系譜に重ね合わせていく。

それに比べて、今の自分はどうなのだ。

「いや」

とアブー=バクルは呟く。

「まだ、間に合うはずだ。私も今、大いなる試練を目の前にしている。かつて、フランク王国の兵士たちに攻め込まれたアッ=ラフマーンのように。私はこれを、自らの手で乗り越えねばならぬ!」

アブー=バクルは立ち上がり、信念と共に図書館の出口に向かって歩き出した。

 

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「ジハード?」

「ええ」

思わず聞き返したアブドゥル=ガフールに、タイタルも眉の間に皺を作りながら応える。

「間も無くイベリアはキリスト教徒たちの大軍によって襲われるだろうと。その前に、イベリアのキリスト教徒たちを完全に駆逐し、これに備えるべきだと」

「フン・・・」

不愉快そうにアブドゥル=ガフールは鼻を鳴らした。

「英雄物語の読み過ぎだ、あの世間知らずの無能国王が。すでにキリスト教徒たちは我々の手で十分に追い詰めており、もはや反抗する余地もないほどに弱体化しておる」

「これ以上は滅ぼしても益はなく、むしろ征服した旧キリスト教国版図の安定化に力を注ぐことが肝要だというのに・・・*2

征服したばかりのキリスト教諸侯たちが早くも「独立」を目指し派閥を形成しつつある。

 

「理は説いたのですが、随分と物語の中にのめり込んでいるようで、私を臆病者だの異端者だの罵り、勝手に元帥らのもとに提案に行くと言って出て行ってしまわれました」

「アッファーン元帥も分を弁えている男だ。同調することはないだろうが、その他の急進派の連中に接触されると厄介だな」

「サラクスタのタイファ・ラウェイェ様や、バダホスのタイファ・アルムザッファル様との接触も試みているご様子」

「ふむ」

思案するアブドゥル=ガフール。アフタス家内の反抗的勢力と手を結ばれるのは厄介だ。今や国王陛下の存在は彼らにとって障害になりつつあるものの、さりとて陛下をまさか一諸侯と同じように扱うわけにはいくまい。

どうしたものか、と悩むアブドゥル=ガフールを、タイタルの妖しく光る瞳が射貫いた。

「家令殿――」

その言葉と表情に、アブドゥル=ガフールはわずかな恐れを抱いた。

「我々は悪しき芽を摘むと同時に、適切に育ち得なかった悪しき枝を切り落とす必要もまた、あるかと存じます」

「それは――」

さすがに驚き、戸惑いを見せるアブドゥル=ガフール。

しかし、タイタルはこともなげに言い放つ。

「家令殿――この王国を存続させ、繁栄させるのに必要なものは、有能でなければ物言わぬ君主でなければならない。無能でかつ働き者の君主など、王国の障害以外のなにものでもない。

 我々は王国の繁栄のため、これを取り除く義務があります」

気が付けば、アブドゥル=ガフールは頷いていた。何か言おうと口を開いたが、その喉の奥は乾ききっており、すぐさま小さく唾を飲み込むために口を閉ざさざるを得なかった。

やがて長い沈黙の果てに、アブドゥル=ガフールは口にした。

「――分かった。許可しよう。国家がため、為すべきことを為すのだ」

 

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1109年8月4日。

バダホス王アブー=バクルは、自らのジハードへの思いに共感する勇士たちを集め、クルトゥバにて饗宴を開いていた。

サラクスタのラウェイエやバタルヨースのアルムザッファルらは列席能わなかったものの、その義士たちの姿と情熱を目の当たりにし、アブー=バクルは自らがついに自分の人生を生きることができるようになるだろうと期待に胸を膨らませていた。

「――信仰篤きアッラーの下僕たちよ! 今こそ我々にとってのカルモナの戦いの時である! ここに集いし勇敢なる戦士たちと共に、今ここに新たなアフタスの伝説を創り上げよう!」

 

杯が床に落ちる乾いた音が部屋中に響き渡り、部屋中の人々の視線が、床に崩れ落ちた「偉大なる王」の姿を目の当たりにした。

だが彼らは誰一人、主君の傍らに駆け寄って無事を確かめるようなことはしなかった。

彼らは皆、今にも暗殺者が部屋に入り込み、この場にいる全員を惨殺するのではないかと恐れ、一目散に部屋を飛び出していった。

哀れなる君主の亡骸が使用人たちの手によって丁重に運び出されていくまでにはあと数刻の時間を要するほどであった。

 

 

「――ついに、奴らは一線を越えたな」

闇の中で、震える声が二、三。

「もはや、待つべき時は潰えた。

 将軍――蜂起の時です。我々の手で、王国をアル=マンスールの一族のもとに取り返すべき時です」

 

次回、第6話。

大反乱戦争」へと続く。

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過去のCrusader Kings Ⅲプレイレポート/AARはこちらから

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*1:なお、この死の理由は本当に分からない。この年齢で「安らかな死」とは? ストレスは随分溜まっていたようだが・・・ゲーム的には暗殺などではないと思うが、物語上ではそういう風に扱うこととする。

*2:ゲーム的にはこのタイミングで闘争のフェイズが敵意から妥協に変わり、「闘争の衝突」CBが使えなくなったことで、征服の効率が下がったのが大きな理由。また征服して新たな土地を得ても、分け与えるべき有力な家臣もいない。