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【CK3】明智光秀の再演③ 天正辛巳(しんし)の乱編(1578-1581)

 

応仁の乱より百年。

長く続き過ぎた戦国の世は、いよいよ終わりが近づきつつあった。

天下布武を掲げ上洛した織田信長は、浅井・朝倉・そして戦国最強と謳われる武田を次々と降し、その勢力を着実に広げていく。

そして天正5年(1577年)、信長本隊による播磨・赤松攻め、山岡による六角攻め、伊勢貞興による対足利反乱、松永久秀による対三好反乱、そして明智光秀徳川家康による京都侵攻という多方面同時作戦によって、包囲網を背後から支える将軍・足利義昭の権力簒奪を狙っていったのである。

しかし、翌天正6年(1578年)7月21日未明。播磨攻めから帰還していた織田信長が滞在中であった本能寺が何者かによって火をかけられ、その近習達は皆焼死。

そして信長自身の行方は誰にも不明となり、突如とした権力の空白状態が生まれてしまった。

今や、天下に最も近い存在であったはずの織田家は、その足元から大きく崩れ落ちようとしていた。

その中で、織田家筆頭の勢力と権力を誇っていた男、明智光秀は果たして何を思い、そして行動するのか。

激動の明智編第三話。

運命は更なる転回を見せる。

 

Ver.1.11.3(Peacock)

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  • The Northern Lords
  • The Royal Court
  • The Fate of Iberia
  • Firends and Foes
  • Tours and Tournaments
  • Wards and Wardens
  • Legacy of Perisia

使用MOD

  • Japanese Language Mod
  • Shogunate(Japanese version)
  • Nameplates
  • Historical Figure for Shogunate Japanese
  • Big Battle View

 

目次

 

前回はこちらから

suzutamaki.hatenadiary.jp

 

二条会議

天正6年(1578年)7月28日。京都・二条御所

かつての足利政権の中心、そして先達ての明智の京都侵攻により彼が奪い取ったこの城に、織田家中の重臣達が揃い踏むこととなった。

まずは織田家筆頭家老、最大の武断派たる柴田修理亮勝家

智略と粘り強さで功績を上げ、今や家内随一の出世頭となっている羽柴藤吉郎秀吉

米五郎左とも呼ばれ、信長にも重用された家内随一の内政上手・丹羽五郎左衛門長秀

その他佐久間信盛滝川一益池田恒興など、織田家重臣錚々たる顔ぶれが座敷に並ぶこととなった。

その頂点に立つのは、もちろんこの男。

織田信長が嫡男、織田勘九郎信忠

そしてその傍らに座しているのが、信長の頃より織田政権の「摂政」を務めている現二条城城主・明智十兵衛光秀

この場の取り仕切りも、この光秀によって行われていた。

 

「さて、皆の者。よくぞ集まって頂いた。未だ混乱する中ではあるが、状況を正しく整理し、適切な次の行動を策定すべく、ここで知恵を出し合おうではないか」

光秀の言葉に、一同も頷く。その胸中は様々あれど、まずは互いの出方を窺わねば何もなし得ぬ状況であった。

「まずは信長様の後継者としては、ここにおられる勘九郎様がお務めになられる件、異論はござらんな?」

これもまた、一同頷く。視線が向けられた信忠は多少の緊張は見られど、堂々たる姿で諸将を見渡しており、父親ほどの器量は無いにしても、仕えるには十分と誰もが認めていた。

「続いて、諸外国の動きだ。足利は信長様の死に応じて早くも兵を動かす様子を見せていたようだが、これは我々がすぐに京都入りしたことにより牽制。引き続き警戒すると共に、適切に追加の打撃を与え京都一帯からの追放を目指すつもりだ。

 北近江の浅井と越前の朝倉は如何に?」

「問題ござらん。こちらも最初は動きが見られたが三方の粟屋氏、高島の磯野氏、小谷城の信次様と連携し牽制中。引き続き攻めてくる様子は見られぬ」

近江・横山城を守り、北陸方面の押さえを担当する羽柴秀吉が回答する。これを聞いて光秀も頷き、続ける。

「大和の松永弾正は如何か。先達ては我々に呼応し三好への反乱を企てさせたが、大殿の死を契機に再び反織田の旗色を鮮明にしているようだが」

「問題ない」と、柴田勝家が回答する。「今も我が配下の山岡景隆に攻めさせておる。少しでも変な動きを見せれば容赦なくその首を切り落としてやろう」

「武田はどうじゃ。奴らが最も危険だと思うが」

続けて問いかけた柴田に、明智が応える。

「同じく、問題ない。我が家臣・左馬助に命じ、武田家内の状況は常に収集しているが、信玄公、勝頼公と重ねて当主の暗殺が続いたことで家内総勢疑心暗鬼となっており、内乱が絶えない。さらに幼君の近親者たちが権力争いに加わり、最重臣・山県昌景に嫌疑をかけようとする動きもあり、更なる混乱が予想されるだろう。外征などしている余裕もなさそうだ」

光秀の言葉に、一同は沈黙する。あえて誰も口には出さねど、自分たちもまた、武田と状況は等しいということを理解していた。

一体、何者が大殿を殺したのか。それがこの場で問われ、議論することはついぞなかった。おそらくは誰もが、その犯人が身内に――さらに言えばこの場にいる重臣たちの中に――いると疑っていたのだ。

「それでは、状況の整理はでき申した。引き続き各位、それぞれの持ち場を宜しく頼むぞ。織田家としての統一行動・指針については勘九郎様と共に審議し、改めて諸君らと諮らせてもらう。それまでは暫し、待ち給え」

諸案件の精査を終えた後、この場の会議は解散となった。

重臣たちが去った後、屋敷の廊下にて、歩く光秀の傍らに近づき、側近の明智左馬助秀満が声をかける。

「殿、やはり最も殿を疑いうるは、羽柴のようです。此度の信長公暗殺の下手人を殿であると周囲に吹聴しておるようで、派閥を形成しつつあります」

「そうか――気持ちは分からんでもない。直前に面会し、本能寺を勧めたのも私だ。織田家内では最も大殿暗殺に近しく、また外部の勢力の手によるものだとしても、私の手引きなくしては成功しむるとは思えまい。あるいはそうでなくとも、警護の責任を問われるのは致し方ないだろう」

主君の自分を責めるような言い方に、秀満も慌てて言を重ねる。

「私めがあの時、無理矢理にでも上様の警護を申し入れるべきでした。私が兵と共に近侍していればこのようなことは・・・」

秀満の言葉に、光秀もフ、と笑みを零す。その表情には疲労が色濃く映っていた。

「そのようなことを言うではない。もしもお前まであの時命を落とすようなことがあれば、我の悲しみは如何程であったか。いずれにせよ、起きたことは致し方ない。ここから先、最善を尽くすことのみを考えるばかりだ」

光秀の言葉に、秀満は頷く。それを見て光秀は早速、彼に指令を下す。

「まずは羽柴に対抗する派閥を作らねばならぬ。早々に動いてくれ」

「は。取次の光忠と共に動きます。まずはどちらを?」

「羽柴に対抗するならば彼しかおるまい。織田家筆頭家老、柴田修理亮殿に」

 

 

策謀合戦

同年11月。

明智光秀はかつての主君の居城・安土城を訪れていた。

そこは現在、名目上は信忠が城主ではあったものの、実際には柴田勝家が城代として入り、実質的な統治を行っていた。

それは信長死後、京を治める明智、北近江を治める羽柴と並び、織田家トップスリーの権力分立を図る意味でもたらされた状況ではあった。

だが京都と隣接する重要拠点であるこの安土、そして南近江一帯の丹羽や池田にも大きな影響力を持つ柴田と盟を結ぶことができれば、そのバランスは大きく明智方に傾くことを意味している。

既に羽柴が先に謀略を試みている以上、一足飛びにこれを抑え込む為の大胆な策に、光秀は出る必要があった。

 

「柴田殿、ここにおられましたか」

光秀が声をかけると、安土の城外、琵琶湖を見渡す位置に腰掛けていた柴田勝家は振り向き、ゆっくりと立ち上がった。

「フン・・・上様がどのような景色を見て、この国を統治しておったのか、理解したくてな」

「成程・・・して、何か分かりましたかな」

「うむ――いや、何も分からんということだけが分かった、ということかの。やはり上様の見識は異様に。小人たる儂の理解が及ぶものではない」

「左様に」

勝家は明智を見下ろす。光秀も決して小さい体つきではないが、勝家のそれは群を抜いていた。

「貴様は理解能うのか? 上様のご意向、その指し示さんとしていた行先を」

「――いえ、拙者も理解能わず。摂政と言えど、大殿様の申し上げられたことを忠実に実行していたまでに」

光秀は薄く笑いながら応える。

「故にこそ、今はその家臣団一丸となって勘九郎様をお支えにならねばなりませぬ。その筆頭同士が相争うなど以ての外。恐らくは、柴田殿にもそれはご理解頂けるものかと」

「うむ、分かっておる」

勝家は頷く。

「先達ての文に記載されておった貴様の思いは、十分に理解しておる。我々は織田家重臣としての名誉を穢すようなことを避け、そして織田家に対する厚い忠義を忘れぬべしという貴様の心掛け、いちいち尤も」

「ええ。そのことを最も体現されているのが柴田様であり、故に我々明智は柴田様についていくものと思っております」

「つまりは、サルではなくて、と言うわけだな」

「ええ。拙者としても、羽柴殿から向けられております余りに不名誉な疑いについては、腹に据え兼ねておるところもありまして」

「ほう――既に、件の噂については耳に入っておったか」

勝家の目が細められ、威圧と共に光秀を包み込む。背後でこれを見守っていた秀満も思わず身構えた。

「念のため聞くぞ、明智よ。此度の上様弑殺の件、貴様の謀りではあらぬな?」

柴田が腰元の刀に手を置く。秀満も同じく刀に手をかけるが、光秀がすぐさまこれを手で制す。そして平然とした様子を崩さぬまま、答えた。

「勿論で御座います。大殿は我が太陽。自ら太陽を斬る月など存在し得ませぬ」

暫しの間、睨み合う勝家と光秀。やがて勝家は刀からゆっくりと手を離した。

「――誠のようだな。貴様の目、疑うに能わず。しかし、では、一体何者が・・・」

「分かりませぬ。しかしこの秀満にも命じ、只今全力の捜索を続けております。必ずや下手人を見つけ、復讐を果たすと誓いましょうぞ。

 その為にも、今織田家を不確かな情報のみで不用意に混乱せしめるものではないと思いまする」

「ああ、その通りだな。貴様が潔白だと言うのであれば、儂も全力でこれを輔けよう。文にあった貴様の娘と我が嫡男・勝里との婚約も認めよう」

「有り難し。我らが盟を固くし、共に織田を支えましょうぞ」

かくして、織田家内最大の二勢力が連合し、最大の派閥が完成した。

 

---------------

 

「そうか、明智の奴め。なかなかやりよる。いや、柴田殿が単純に過ぎるのか。ワシに対する対抗心が故の行動としか思えん」

北近江・長浜城。自身が居城にて羽柴藤吉郎秀吉は憤る様子を見せていた。

「藤吉郎様は憎たらしき御仁。対して明智殿は得体の知れぬ御仁。どちらについた方がマシか、考えれば分かるものと思いますがね」

「そうそう・・・ってオイ、半兵衛。そりゃ逆にワシを貶してないか?」

「いえいえ。憎たらしく思う気持ちは容易に愛しく思う気持ちへと反転致します。そして藤吉郎様はそういった類を最も得意とする、人たらしの天才にて」

そう言って笑うのは、羽柴秀吉の懐刀、天才軍師・竹中半兵衛重治である。

「それはそうとして、策を考えねばなりませぬな。我々としても、信長公亡き後のこの国の統治を、かの不気味なる御仁と単純なる御仁に任せるのは少々心許なきことに。明智殿は実力は十分でしょうが、何分如何なる考えをお持ちか、信用に置けぬところがありますからな」

「のう、半兵衛」

秀吉が声を顰めて重治に尋ねる。

「やっぱりお前も、明智の奴が上様を弑したと思うか?」

「・・・分かりませぬ。状況から見れば、最もそれを容易に行い得たのが明智殿であることは明白。しかし、余りにも分かりやすい。そのようなことをあれほどの人物が成し得るというのも、不可解なことに」

「じゃあ、一体誰が」

「それも分かりませぬ。何かしら不測の事態が出来し、明智殿がやむにやまれず実行したのか、それとも明智殿を嵌めようとした何者かがいるのか・・・いずれにせよ、明智殿を野放しにしておくのは危険であることには変わりなく。故に」

「その追い落としを狙う、流言飛語を撒き散らしているというわけか。まあ、あんまり気持ちの良いものではないが」

そう言って秀吉は天を見上げる。

「これがワシにとって必要なこと、なんじゃろ?」

「ええ。藤吉郎様はやがて天下を牛耳るだけの才覚をお持ちのお方。乗り越えねばならぬ心の障壁はまだいくつも御座います」

重治はにこりと笑いかける。

「分かったよ。ワシにそんな器があるとも思い切れんが・・・上様亡き今、ワシがやらねばならぬとも分かっておる。

 だがどうするんだ? 実際、柴田を味方に付けられたのはまずいぞ。丹羽も池田も佐久間も奴らに靡いてしまいかねん。逆転の芽はあるのか?」

「ええ・・・飛車角を取られようと、将棋はあくまでも王の取り合いです。彼らが脇駒に気取られている合間に、我々は粛々と歩を進め、王手を掛けましょうぞ」

 

 

鬼手

翌天正7年(1579年)2月。

明智光秀は主君・織田信忠の呼び出しを受け、その居城・岐阜城へと訪問していた。秀満もまたいつもの供回りとしてこれについていった。

「おお、来たか、光秀」

上座に座る信忠の姿はどこか不安気で、心なしかやつれているようにも思う。

「勘九郎様。随分とお疲れのご様子。あまりご無理をなさらず、お早めにお休みになっては如何?」

光秀のその言葉に、信忠の眉がぴくりと動いた。

「光秀・・・そうやって我が父も、本能寺へと誘ったのだな?」

光秀の表情が固くなる。

「次は儂の番か? 我が子・三法師はまだ幼い故、貴公が操り易きことよのう」

「――勘九郎様、お戯れを」

光秀は柔らかな笑みでもって応える。

「何故、拙者が主君に弓引くことが御座いましょうや」

「――そう言って貴様は、かつての主君、朝倉公並びに足利将軍にも弓を引いたのではないか! 何を信じられるというのだッ!」

立ち上がり、興奮と共に叫びだす信忠。途端に咳き込み、背中を曲げる。座敷の外で控えていた廷臣たちも、何事かとざわめき立ち、身構えたのが感じられた。

「勘九郎様、やはりお加減が優れぬご様子。拙者らは一旦席を外します故、ゆっくりとお休み下され。後ほど落ち着いた頃に再度、お話をさせて頂きたく」

光秀はそう言うと彼も立ち上がり、襖の向こうの廷臣たちを呼び込む。侍衆に抱き抱えられるようにして座敷を出ていく信忠は、最後まで疑わしそうな様子で光秀を睨みつけていた。

 

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「――やられましたな。我らが外堀を埋める前に、本丸を攻め込まれるとは」

秀満の言葉に、光秀は返答せず。口元に手を置き、ひたすら何事か思案しているご様子。こういったときは、何も聞かず励ましもせず、ただひたすら必要な情報を供給することが肝要だと、秀満も心得ていた。

「簡単に調べさせたところ、やはり羽柴殿側の策略のようです。我々が柴田殿に送った書状の存在についても知られており、この危急下の縁談作りとしてこれも懐疑の対象とされているようです。おそらくは池田や佐久間など、柴田殿近辺からも羽柴方への内通者も出ている模様」

「――勘九郎様のご信頼回復は能わず、か?」

「・・・中々に、難しきものかと」

「そうか」

光秀は暫し沈黙し、やがて意を決したように目を開いた。

「ならば、やるしかあるまい。どうせ疑われているのであれば、その材料が1つから2つになろうと、大差はない。

 相手は竹中半兵衛だ。判断が遅れれば、その分だけ状況はより悪化するだろう」

その迫力に、秀満はごくりと唾を飲み込む。

「相手が詰将棋を仕掛けてくるのであれば、盤面をひっくり返すのみ。

 ――信忠公を、弑する」

 

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天正7年(1579年)10月5日。

半年前の光秀訪問以来、何度か病に臥せっては回復してを繰り返していた織田信忠であったが、この日もまた、彼は調子悪く一日中布団の中で過ごしていた。

そして、突然、唐突に、彼は激しく咳き込み、やがてそれが苦悶の呻きに変わったとき、従者たちは慌てて駆けつけるも、そのときにはすでに信忠の顔は蒼白になっており、助かる見込みはなかった。

直ちに原因究明を試みるも、同じタイミングで厨房係が惨殺されており、医師も行方不明になっているなど、ただ何者かによってそれが行われたという事実のみが残る形となったのである。

 

信長公に続き、その嫡男・信忠公の急死。新たに織田家家督は信忠公の遺児・三法師に譲り渡された。

早々に元服を果たし為信と名乗るも、まだわずか3歳。元々信長・信忠の摂政だった明智光秀がこれを引き継ぎ、政治の実権を完全に握ることとなったのである。

 

「――まさに鬼手。追い詰めれば退くどころか、逆に喉元まで喰らいかかってくるとは。もはや、織田家は明智殿に完全に乗っ取られてしまいましたな」

憤るでもなく、むしろ感嘆し敵方を褒め称えかねぬ勢いで告げる半兵衛に、秀吉も半ば呆れつつ訪ねる。

「なあ本当に、今回もあの明智が仕掛けたものなのか?」

「わかりませぬ。寧ろ前回のことがあるからこそ、今回のことは本当に分かりませぬ。もはや、明智殿が仕組んだものなのか否かの真否は問題に非ず。誰が強いか、誰についていくべきかの争いの舞台に、この陰謀戦を巻き込んだのです」

「はあ・・・で、どうすりゃいいんだ?」

秀吉の問いに、半兵衛は神妙に応える。

「播磨へ参りましょう」

「播磨?」

ええ、と半兵衛は頷く。

「織田信長が次男、信忠公の弟君にして、為信公の叔父に当たりまする、茶筅殿改め織田三介信雄殿の元にでございまする」

 

 

開幕

同年11月24日。

播磨・置塩城を訪れた羽柴秀吉と竹中重治を、城主・織田信雄が迎え入れる。 

「で、何の用じゃ。猿に今孔明、織田家中甚だ不穏なる時に、最も不穏なる貴殿らと面会したと知られれば、儂もあらぬ疑いをかけられてしまうではないか」

「それを知って我々を迎え入れて頂いた以上は、三介殿もその疑いとやらに心当たりがあるご様子」

「フン」半兵衛の言葉に、信雄は鼻を鳴らす。

「――やるからには、抜かり無い準備はしておるのだろうな」

「勿論で御座います。飛騨の大名・姉小路に、森長可九鬼嘉隆関盛信など剛の者たちが集い、池田恒興・滝川一益などの重鎮たちもまた、我らと同心する旨、連署を頂いております。その勢力や、十分たるものです」

「――柴田殿は?」

信雄の言葉に、半兵衛は罰が悪そうに応える。

「柴田殿は、まだ応じてはおりませぬ」

「それでは、意味がないではないか。明智と柴田と、お主ら。この三者こそが今の織田の頂点であり、そのうちの二つが敵に回るのであれば、その他の雑兵がいくら集まろうと敵わぬであろう」

信雄の言葉に、むむうと困り果てる秀吉。正直尤もなことだと彼も思っており、ちらりと半兵衛に視線を送る。

その半兵衛は何でもないかのような様子で応える。

「柴田殿はまだ応じてはおりませぬが、迷うてもおられます。以前は明智殿に与するとはっきり示し、信長公の暗殺が明智殿の仕業であるとの言にも聞く耳を持ちませんでした。

 然し今や、明智殿の第二の暗殺は、悪い方向へと働きました。柴田殿にも迷いが生まれ、我らの誘いには乗らねど、それを明智殿に伝える御様子もなく、寧ろ嫡男の妻に迎えた明智殿の娘を、早めの正月準備にと坂本に返してさえおります。

 迷うておる中で、確実に我らに気持ちを向けてすらいるでしょう」

ぺらぺらと弁を並べる半兵衛に、今度は信雄がむむうと唸る。そこに一押しとばかりに半兵衛が迫る。

「ご決断あそばれよ、信雄様。明智殿は今や織田家の権力を欲しいままにし、軍奉行の地位までも手に入れております。時を逃せば逃すほど、取り返しの付かぬものとなりますぞ」

「――良かろう」

信雄はついに、折れた。

「織田の家の正当なる後継者はこの儂だ。我が甥御を傀儡とし、織田家を乗っ取ろうとする不届き者を、我が刀にて誅せん!」

いきり立つ信雄を横目に、竹中重治が主君・羽柴秀吉を見やる。

秀吉も頷く。

賽は投げられた。覚悟を決めて、彼もまた天下人への道を踏み進める時であるのだ。

 

そして。

天正9年(1581年)1月14日。

ついに、織田家最重臣の一、羽柴藤吉郎秀吉が、故・織田信長が次男・織田信雄を奉じ、現主君・織田為信に反旗を翻す兵を挙げた。

織田家中の有力大名たちがこれに同心し、その総兵力は8,000を超えるほどに。

もちろん、明智光秀はすぐさま主君への助力を宣言。

それでもその総兵力は6,500に満たぬほどであり、明智陣営の不利は明らかであった。

 

だがここで、羽柴陣営にとっては思いも寄らぬ出来事が発生する。

 

「――ご注進、ご注進にッ!」

長浜城を出て、為信を匿う明智の居わす坂本城へと向かう途上の羽柴秀吉に、慌てて駆け寄る早馬の姿があった。

「何じゃ、騒々しい」

馬上よりこれを見下ろした秀吉に、息も絶え絶えの使者は差し出された水も拒否して報告する。

「あ、足利・・・足利義昭公が、明智殿の側に立ち、挙兵されたとの由・・・!」

「――は?」

秀吉は狐につままれたかのような表情で聞き返す。

「何を言ってるんだ? なぜ公方様が――」

「藤吉郎様」

いつの間にか背後まで近づいてきていた竹中重治が緊張した面持ちで秀吉に囁く。

「どうやら、本当のようです。私の方で放った草からも情報を得まして、どうやら信忠公の正室にして為信公の母君にあられます徳寿院様*1が、前妻を亡くされていた義昭公の後妻として迎えられたようなのです」

「な、何だと・・・」

「勿論、この奇怪なる縁談の背後には、明智の存在があるでしょう。世にも稀なる、織田-足利同盟。誠に、明智十兵衛なる御仁、底知れぬ者で御座います」

「ば、」

馬鹿野郎、褒め称えてる場合か、と秀吉も突っ込もうとして取りやめる。珍しく重治の肩が震え、表情も笑っているように見えていつもの余裕さが失われているようにも見える。

秀吉も重治も、何も将軍の参戦そのものを恐るべきものとしては捉えてはいなかった。

それ以上に、そこから導き出されるとある可能性について――。

「伝令!」

新たな遣いがやってきて、震える声で報告する。

「あ、安土城の柴田修理亮殿が挙兵・・・明智殿に与し、こちらに対峙するとの由!」

 

いよいよ、決戦の瞬間が訪れる。

 

 

結末

2月1日。

安土城近郊にて、待ち構えていた柴田隊に総勢1,700名の明智隊が合流する。その先頭に立つ光秀の視線の先には、馬に乗り、具足を見に纏った閻魔が如き威容の柴田勝家が在った。

「三法師様は?」

柴田の問いかけに、光秀は頷き、応える。

「我が信頼する家臣団と共に、坂本の城に居られまする。例え羽柴の軍に攻められようと、1年以上は持つ堅城にて、ご安心めされよ」

余裕に満ち溢れたその表情に、勝家は安心を覚える前に恐ろしさをも感じていた。

「此度は実に驚くべき仕掛けを施したものよ。我らが仇敵と罵り、貴様自らの手で京を追い出した筈の公方の手を今度は借りるとは」

「羽柴が右腕、今孔明の策を打ち破るには、尋常なき手段を取らねばなりませぬからな。公方様としても、血気盛んな織田家本流に近しい羽柴殿と三介殿よりも、私のような新しい見識を持つ手合いに与し易さを感じられた御様子。お陰で、貴殿もついに、立ち上がることを決められた」

ちくりと、同盟を組んでいたはずの柴田が迷う素振りを見せていたことを当てこする明智。

「フン・・・儂はあのネズミが気に食わんだけだ。さりとて、貴様のことも心から信用できていた訳ではない。だが、貴様のその、勝利が為に予想もつかぬ手段をもって、我々が理解能う前に正しき道に突き進んでいく果敢さは、悔しくも亡き上様に最も近しいと判断してのことである。

 だが忘れるな、明智よ。我が忠誠を誓うは、あくまでも上様の嫡孫たる三法師様のみ。三法師様を無下にした折は、我が命に代えても貴様の首を叩き割りに向かおう」

その脅し文句と共に巨体から発せられた威気は、周囲の家臣たちや明智の身の回りの重臣たちをも例外なく身震いさせるほどのものであったが、それを向けられた光秀自身は一切の恐れもなく、平然とこれを受け止めていた。

「勿論で御座います。織田家が為、その身命を賭すことを誓いましょう。その為にも、まずは目の前の障害を取り除かねばならぬ。

 では、行きましょう」

明智・柴田そして後方より駆けつけた足利軍とも合流し、合計7,200の兵は安土を発ち、北上。

この軍勢をすでに耳にしていたのであろう羽柴軍は横山城から南下させるつもりだった軍を引き返させ、美濃尾張で姉小路や森の軍勢との合流を図ったようだ。

3月には羽柴居城・不破郡垂井城を7千の兵で包囲開始。

ここを陥とされれば、即ち東西の最も重要な結節点を羽柴方が失うことを意味し、彼らの勢力が分断されることを意味してもいる。

故に、必然的に両者はこの地で、相まみえることとなる。

 

天正9年(1581年)5月25日。

織田家の命運をかけた決戦が、ここ安八郡・大垣の地で繰り広げられることとなった。

 

「懐かしいなぁ、小六。思えばこの地での一夜城建築から、ワシの栄達は始まったようなもんじゃ」

決戦の地に続々と集いつつある織田信雄軍の中で、実質的な総大将を務める秀吉は、傍らの蜂須賀小六正勝に話しかけた。

「そうだな――あれからもう、15年か。儂も随分と年を食った。この戦いを無事に終わらせることができれば、そろそろ息子に家督を譲り、隠居でも考えるかな」

「そんな寂しいことを言うなよ、小六。見い、この兵の数を。こんだけの兵、部隊が集まって来てはいるが、どいつもこいつも、自分たちの家や家来たちのことで頭がいっぱいじゃ。そいつを儂は、まとめきらねばならない。小六のような気の置ける友人が近くにいなければ、潰れてしまいそうじゃ」

馬上で珍しく気弱な発言を見せる秀吉を、正勝は心配そうに見やる。

「何を言っとるんだ、藤吉郎。おぬしは天下を獲るだけの器を持っている男で、そのことは儂も小一郎もみんな理解しとる。何より、あの弾正大弼様がおぬしを認めておったんだ。自信を持てよ」

そう言って正勝は秀吉の背中をバンバンと叩く。周囲の家臣たちも何事かと視線を向け、若い家臣などはぎょっとした表情を見せる。

しかし秀吉はそれを心地よく覚える。

「――あんがとよ、小六」

そして馬上より周囲に集う兵たちを見渡し、告げる。

「それじゃあ天下人としての責務を果たすか。

 この六千の兵、つわものたちを、今から号令一つで死地に向かわせねばならん。

 勝つか負けるか分からん。それでも、もうやるしかない。この死地を乗り越えた先に、我らの理想とする天下があるんじゃ。行くでよ!」

 

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戦闘は5月25日の巳の刻頃に始まった。

槍入れは、勇猛果敢さにて知られる森長可・池田恒興の隊合計1,100によって行われる。これに相対するは足利家が用意した小笠原貞慶率いる1,150の部隊。乱戦の中で恒興が長子・猛将池田元助によって貞慶が負傷させられる事態が発生するも、逆に森長可が弟で乱丸こと森成利も負傷するなど、一進一退の攻防が続いていた。

続いてこれに感化された羽柴方の右翼・蜂須賀正勝隊が一気に前進。対面する明智軍本隊と激突するが、利三や光忠が正勝およびその義兄弟の坪内光景に深手を負わせるなど、次第に明智方が有利の情勢となっていった。

そして中央。
柴田勝家が率い、蜂屋頼隆前田利家ら勇将が控えるこの部隊に、秀吉が自ら率いる反乱軍主力4,000が一気呵成に襲い掛かる。

揖斐川を越え、背水の陣で挑みかかるこの決戦。数では劣る反乱軍側が勝利するには、もはや戦略も何もなく、ただ勢いに任せ挑みかかるのみ。時間が経てば経つほど、大義が少なく烏合の衆でしかない反乱軍側が不利になることは、秀吉も十分に理解していた。

だが、やはり、勝家率いる織田本隊はその士気も高く、武威において秀吉に勝ち目は薄かった。柴田、蜂屋らが自ら前に出て次々と敵兵を屠っていき、越智家増氏家行広(氏家直昌長子)、深尾重良(安藤定治家臣)ら羽柴方の将兵も負傷し、撤退を余儀なくされていく。

そして午の刻を迎える頃には早くも戦況は決し始め、ついには未の刻の頃に羽柴方全軍の撤退が命じられた。

結果は、為信方(明智・柴田方)の快勝。主要な敵方将兵を捕えたり討ち死にさせることはできなかったものの、この決戦での結果によって戦役全体の趨勢もほぼ確定したと言えるだろう。

秀満も追撃戦において敵殿軍を率いていた美濃侍・一柳直高を討ち取るなどの戦功を挙げた。


戦勝に沸く織田本陣。あとはこのまま、反乱軍側の諸城を制圧していきさえすれば・・・

 

 

そのように、思っていたのだが。

 

 

 

同年10月23日夜。

森の中をごく少数の供回りを連れてとある場所へ移動していた光秀は、突如謎の一団による襲撃に遭う。

光秀は馬を駆り、全速力で自領へと向かう。

自分が今この場所にいることは秀満にすら伝えていない。供回りにも、その行先も目的も伝えずついてこさせただけである。それだけ、今回の会合は極秘で行うべきものであった。

にも拘らず、襲撃者は明確に自分を狙っていた。

導き出せる結論は唯一つ。

これは罠だったのだ。私を呼んだ、あの男が――

策士、策に溺れる、か――。

明智光秀はその生涯の最後に、自嘲に満ちた笑みを零した。



物語は、新たな局面を迎える。

 

明智光秀の再演、第四話「愛知川の戦い」編へと続く。

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*1:この世界では粟屋勝久の娘。