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【CK3】アル=マンスールの一族③:狼王ウマル編・下 伝説の誕生(1089-1096)

 

11世紀前半に後ウマイヤ朝が滅んだ後、戦国時代と化したイベリア半島南部アル=アンダルス

その中で台頭してきた勢力が西のバダホス王国と東のトゥレイトゥラトレド)首長国。

共にベルベル語を操るムワッラド派イスラム教徒たちという共通点を持つ彼らは同盟を結び、ときに北のキリスト教徒たちと戦いつつ、アル=アンダルスにおける勢力圏を拡大していった。

やがて、1082年夏。

ついに、この両者がその覇権を巡ってぶつかる瞬間が訪れた。

傭兵を雇用し5,000超の兵を集めるトゥレイトゥラ首長ヤフヤーに対し、アフリカなどから援軍を呼んで7,000近い兵を集めたバダホス王ウマル。

最終的にカブラの地で繰り広げられた決戦で、軍配はウマルに掲げられることとなった。

そしてついに1089年8月。

アル=アンダルスの全ての諸侯を下し、統一を果たしたバダホス王ウマル。

その過程で容赦のない苛烈さを見せつけ、臣民を畏怖せしめた彼はやがて「狼王アルディブ・アルマリク)」と呼ばれるようになっていった。

そして「イマシゲン」という新たな文化を創設した狼王は、その生涯と栄光を永遠のものとするための「伝説」制作に着手することとなる。

 

果たして、この「英雄」は、いかなる生涯を全うすることになるのか。

「狼王」編最終章。その「伝説」の、最後の7年が始まる。

 

 

目次

 

Ver.1.12.2.1(Scythe)

使用DLC

  • The Northern Lords
  • The Royal Court
  • The Fate of Iberia
  • Firends and Foes
  • Tours and Tournaments
  • Wards and Wardens
  • Legacy of Perisia
  • Legends of the Dead

使用MOD

  • Japanese Language Mod
  • Historical Figure Japanese
  • Nameplates
  • Big Battle View
  • Invisible Opinion(Japanese version)
  • Personage
  • Dynamic and Improved Title Name
  • Dynamic and Improved Nickname
  • Hard Difficulties

特殊ゲームルール

  • 難易度:Very Hard
  • ランダムな凶事の対象:プレイヤー含め誰でも

 

前回はこちらから

suzutamaki.hatenadiary.jp

 

「伝説」の誕生

「宰相殿」

クルトゥバ(コルドバ)の宮廷に辿り着き、主君アルディブ・アルマリクのもとに向かおうとしていた宰相アベイに、一人の官僚が声をかけた。

「もし陛下のもとに行かれるのでしたら、何卒ご注進をお願いしたく。昨今、陛下は政務を二の次とし、何やら怪しい女楽師や外国人の書記官を引き連れて、ひたすらに物語の制作に現を抜かしているようなのです。このままでは、この国の行く末に不安を覚えてしまうと、我々の間では話題になっており・・・」

「分かった。確認し、私から陛下に申し伝えるようにする」

アベイの言葉に、安堵した様子を見せながら官僚は引き下がった。

アベイが執務室に入ると、そこには狼王の姿と、官僚の言葉通り件の2人の人物の姿があった。

「おお、アベイか」

「陛下、外国情勢の報告に参りました。ですので・・・」

アベイはそう言うと、狼王の両脇に控えている二人に視線を送る。そこには宮廷楽師――加えて狼王の愛人でもあると噂されている――タゼンクウェートの姿と、フランス人の年代作家ニチュラウスの姿があった。

「良い。二人には我の一挙一投足を書き記し歌にするよう伝えておる。口も固いゆえ気にすることない。続けよ」

狼王の言葉に、少し逡巡を覚えながらも、アベイは口を開いた。

「承知しました。それでは、ご説明致します。まずはフランス情勢です。フランスでは凶悪な疫病が流行っており、これによりフランス王フィリップとその長子・次男、および2人の娘と妃が次々と逝去」

「王位はわずか6歳の三男アンリに引き継がれ、その母である平民の女によって摂政が行われているような状況です」

「当然、この弱体化した王国に対し、内部からの突き上げは凄まじいものが御座います。『剛腕公』と称されるブルゴーニュ公が、ブロワ家のプロヴァン伯を擁立し、シャンパーニュ公やベリー伯らと共謀し、王位簒奪戦争を仕掛けているようです」

「恐ろしいな。疫病はしばしばカスティーリャやアラゴンでも流行っていると聞く。万が一の時にはすぐにでも首都を閉鎖し、大事ないように我が国でも警戒するように」

「は。そのように致します。次に、神聖ローマ帝国ですが、こちらは70年前のコンラート1世以来続いていたザーリアー朝が弱体化したのに伴い、同族のフルダ伯が一時帝位を簒奪しておりましたが、先達てザーリアー家の娘のユッタが復位し、ザーリアー朝が再開されました」

「とはいえやはり女帝ということでその権力基盤は強くはなく、現在はフランス王臣下のヴィエノワ公によってプロヴァンスを責められ、劣勢に陥っております」

「最後に、マグリブ情勢ですが・・・」

そこで言葉を切り、アベイは再び、王の傍に座す2名に視線を送る。

それに気づいたアベイは「退がれ」と告げる。二人は静かに席を立ち、部屋を辞した。

「ありがとうございます」

「マラケシュのアブー=バクルのことか」

「ええ――現ムラービト朝君主イブラヒムの又従弟であり、陛下の御息女様が嫁いだ先であり我が国の重要な同盟国ですが、以前よりお話のありましたクーデターについて、いよいよ数年以内に実行に移すとの由」

広大なムラービト朝の中でも、特に大きな勢力を有するマラケシュ公。

 

「分かった。奴には、いつでも助力する準備がある旨伝えておけ。奴がマグリブを完全に掌握すれば、我々にとっては後顧の憂いを断ち、眼前のキリスト教国家に集中できる又とない状況となりうるのだから」

「ええ、そのように致します」

そこまで言って、アベイは姿勢を正した上で王に向き直る。

「陛下。先の2名について、宮廷内からも疑義や不満が出てきております。陛下の御意向を我々が理解できていないことが原因とは言え、彼らの不安も理解いただきたく」

アベイの言葉を、狼王はじっと押し黙って聴いていた。アベイは緊張で汗が流れるのを感じていた。かつてはもっと話しやすく、気さくな人物であったのが、ここ数年――その名前を正式に変えて以降特にーー随分と近寄りがたい雰囲気を見せるようになった。

「既に話をしているように、あの二人は今の私の計画において必要不可欠な存在だ」

「陛下の、『伝説』の製作、ですね」

「ああ、その通りだ。

 何も私も、矮小な自尊心や名誉欲で言っているのではない。ただ、我々はこのイベリア半島における征服王朝であり、常に部外者たる立場である。ウマイヤ家のような権威があればまだしも、アフタスなどという家系は100年前には存在すらしなかったのだから」

「ここまで、力でもって急激に勢力を拡大し、恐怖でもってこれを威圧してきたが、それも私が死ねば、崩壊の一途を辿るのみである。

 そうはならぬよう、明確な正統性を確立せねばならぬ。そのための『伝説』だ」

新たな王朝の遺産「伝承」の最初のパーク「古き英雄」をアンロックすることで、専用の「伝説の根源」を得ることができる。

 

アベイは頷く。二人はそのために、伝説の拡大に向けて動いている。ベラス将軍もその拡大に協力しているとも聞く。

キャラクターへのインタラクションで拡大の支援をお願いできる。とくに友人関係の場合は高い確率で了承してくれるので活用しよう。但し一度支援を依頼すると、別の人に依頼するのに1年間のクールダウン期間が必要になる。

 

一方でそのために莫大な資金が投じられていることもまた事実だ。コルドバの領有により高い収入を得られてはいるものの、伝説の拡大がこの国にもたらすものが本当に善なのか悪なのか、アベイには判断がつきかねる問題であった。

先の画像にある通り伝説を流布している間の維持費そのものも高い(先の画像では4.23/月)が、さらにはより効率的に伝説を広めるための「任務」を宮廷楽士や宮廷年代記官に頼むと、その任務費用も莫大なものとなってしまう。

 

「――承知致しました。官僚たちには、陛下の御意向をしっかりと伝え、理解させるように致します」

アベイはそう言って、自身の感情が表情に現れぬよう気をつけながら席を立ち、その場を辞した。狼王はその背中をじっと眺めていた。

 

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「陛下、偉大なる人物の経歴において、神との出会いは欠かせぬ要素です。例えば次のような物語はいかがでしょうか」

ニチュラウスはそう告げると、壮大な物語を語り始めた。

私の目的は?
周りは真っ暗だ。ただその先に、一筋の光が見える。本能のように、私はその一点の光に向かってこの虚空を横切って歩いていく。白衣に身を包んだ、年老いた私にそっくりな一人の人物に出迎えられるまで。
父親のような温かさで彼は私に微笑みかけ、横に座るよう誘う。その温かさに包まれながら、私は言いようのない高揚感と平安を感じる。
「私がなぜ人間を死せるものとしたか、知っているか、ウマル? それは、私とあなたたちを隔てるものだからだ。あなたは命の尊さを知っている。天国における永遠はまもなくやって来るだろうが、今はまだ、あなたを待っている人たちがいる」。

 

「――ふん、面白い。良いだろう、それも貴様の年代記に記すが良い」

「――陛下、先日陛下が資金を渡し南ヨーロッパに送り届けた旅人のロレートが、曰く付きの剣を持ってきております。何でも、エル・シッドの使っていた剣かも知れぬと」タゼンクウェートはそう言って、布に包まれた一振りの剣を持ってきた。

「ほう、良いだろう。真偽は問わぬ。その噂を我が伝説と共にしっかりと広め、そのように信じさせるのだ」

 

タゼンクウェートは歌い、ニチュラウスは語る。狼王を敬い賞賛する彼らの音楽と詩は、瞬く間にアル・アンダルス中に広がり、一部はアフリカにまで広まりを見せていった。

さらに、狼王はこの権威を広めるべく、首都クルトゥバにて盛大な饗宴を開いた。そこではタゼンクウェートの奏でる音楽に合わせ、脚色されたアフタス家の物語が壮大に語られ、それもまた国中に伝説を広げる役割を果たすこととなった。

伝説を流布している間は、饗宴活動の際に特別な選択肢を選ぶことができるようになる。

 

そして1094年12月。伝説の創作の開始から6年が経過した時、ニチュラウスはその「年代記」の制作を完了した。

最終的にアフタス家の伝説はここまで広がり、神に愛されたアル=マンスールの誇り高き一族として、狼王は「真なる者」と呼ばれるようになる。

アフタス朝バダホス王国はこのイベリア半島における支配権を(正統性)(実力)共に認めさせることに成功したのである。

 

 

――そしていよいよ、狼王はその政策の「仕上げ」へと移る。

すなわち、北のキリスト教国家たちに対する「レコンキスタ」である。

 

コラム:伝説について

今回、新DLCで追加された伝説について試してみたのだが、物語から離れてその雑感を記してみたいと思う。

まず結論から言えば、伝説はまだそこまで魅力的なコンテンツではない。Xでも「コレジャナイ感」とか「既存の別コンテンツの方が有用」という声も見える。

少なくとも今回使用した家系の遺産から得られる「〇〇家への偉大な功績」という伝説はかなり微妙なもののようだ。

逆にディシジョンや宮廷年代記官の伝説の調査任務で得られる史実の伝説などは、もっと強くて面白いものがありそうなので、この先も色々試してみたいと思う。

 

少なくとも言えるのは、ゲーム序盤で手を出すものではなさそうというもの。

まず作中でも記載した通り維持費など資金が莫大に必要になる。

また、上記ポストでも言及されているように、「神話級」まで成長させて完成させることが重要そうなのだが、そのための財力と「300男爵領への布教」のハードルも、序盤でやるにはかなり厳しい。しっかりと拡張し、財政的な余裕が出てくる中盤以降が良いだろう。逆に神話級の伝説であれば効果は絶大なようだ。

伝説の効果がほとんど一代限りなのも、序盤で早くやるメリットが少ない理由にもなっている。伝説なんだから代々残って欲しかったけど。

 

英語版Wikiには各伝説の細かなデータが記載されているので、参考にすると良いだろう。

 

 

アバディーンの戦い

「それでは、状況を説明致します」

1092年7月7日。

バダホス王国首都クルトゥバの宮廷内作戦室にて、政権幹部を見渡しながら宰相のアベイが説明を始める。

「まず、我々の最大の仮想敵国である北のカスティーリャ王国ですが、先達て同族のナバラ王国を攻撃し、これを併合致しました」

「かつてレオン王国を攻め滅ぼした際には同盟を結んでいた相手だと言うのに、容赦ないな」

王国元帥シル・ベラス将軍は眉根を寄せてコメントする。

「ええ。一方でこのナバラ征服にはナバラを挟んでカスティーリャの反対に位置するアラゴン王国もカスティーリャの同盟として参画。アラゴン王アルフォンソはまだ11歳の少年ですが、カスティーリャ女王エステファニアの異父弟でもあり、その結びつきは強固なものが御座います」

「さらにカスティーリャは西のガリシア王国とも同盟を結んでおり、その総兵力は約1万。まともにぶつかれば我々も無事では済みません」

「なるほど・・・カスティーリャ女王は20年前、我々との最初の戦争の時に王位を継いでいたあの幼子だろう? かくも巧みな外交を行うほどの者となるとは」

「摂政を長く務めていた王太后ヒメノの貢献もあるでしょう。彼女が夫であるカスティーリャ前王が死んだ後、即座に前アラゴン王と再婚し今のアラゴン王を産んだことがこの強固な同盟の始まりでもあります。そしてエステファニア女王自体も、幼い頃から血まみれの政争を生き抜いてきただけあり、まだ20代にして誰よりも狡猾で恐ろしい、一門の君主然とした傑物となっております」

「ふむ・・・」

報告を聞き、狼王は思案する。

「やはり、我々だけでこのキリスト教同盟と対峙するのは厳しいと判断せざるを得ないな。やはりここは、マラケシュのアブー=バクルがマグリブを制し、これを頼みにできるようになることが、最低条件だ」

狼王の言葉に、一同は頷く。

「では、それまで各位、鍛錬を怠るな。そしてアベイは引き続き北方の情勢を探り、情勢の変化あればすぐに知らせるように」

 

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そして、半年後の1093年1月15日。

ついに、その報せが狼王らのもとに届けられた。

「――陛下、ついに来ました。マラケシュのアブー=バクルより、『マグリブの大アミール国請求戦争』への参戦要請です!」

「――すぐに承諾せよ。兵をまとめ、アフリカへと向かうぞ!」

 

1093年3月15日。

アフリカに上陸したバダホス王国軍5,500は、敵首都を包囲するマラケシュ軍に合流する。

「――遥々アフリカの地にまで、よくぞお越しになられた、イベリアの同胞よ」

兵と共にやってきた狼王を、今回の叛乱の首謀者たる「マラケシュのアブー=バクル」が出迎える。現ムラービト朝君主イブラヒムの又従弟であり、勤勉さと冷酷さを併せ持つこの男は、この一大クーデターに向けて長い年月をかけた準備を進めてきていた。

「我々の突然の蜂起に、大アミールはすぐさま首都を捨てアトラス山脈の向こうへと逃げ去った。やがて決戦は必要となるだろうが、今のうちに彼らの首都を蹂躙し、真の支配者として相応しいのが誰なのか、民衆に思い知らせるべきときと言えるだろう」

「もちろん、決戦の際には我々の精強なる軍がこれを撃滅してみせよう。ウズミル!」

「ここに」

アブー=バクルの呼びかけに応じ、兵を率いていた指揮官が近寄ってくる。イベリアにもその名を轟かせているマラケシュ軍最強の将軍「冷酷なるウズミル」その人であった。

「――かの高名なべラス将軍と会えると思っておりましたが、来られていないのですな」

バダホス王国軍の面々を見渡したのち、ウズミルはそう呟いた。

「ああ。彼は大事に備え、イベリアで待機させている。奴の色白が、このアフリカの日差しには耐えられぬかもしれぬしな。代わりに、べラス将軍にも劣らぬ、我が軍随一の将を連れてきた。名は知られていないかもしれないが、実力は保証しよう」

そう言って狼王は独りの男を紹介する。アフマド・セビタ。隻眼の、野獣のような雰囲気を醸し出す男であった。

「それから、此度は我が嫡男、アル=ファドルも連れてきている。まだ若輩だが、軍事の才能は十分にある男だ」

「私ももう年だ。前線には我が嫡男とアフマドに出てもらい、私自身はこの宮廷で優雅に待機させてもらうとしよう」

「――その方が良いでしょう。私もさほど軍事は得意ではない。ウズミルに任せ、共に今後の政治について語りあうとしましょう」

そう言うとアブー=バクルは狼王を引き連れ、陣幕の向こうへと姿を消していった。

 

二人を見送ったのち、ウズミルはアフマドたちを視線を戻し、告げる。

「貴殿らも陣幕の中で休んでいれば良い。マグリブでの戦いには慣れていないだろう? 軟弱者の大アミール軍など、我々だけで十分だからな」

吐き捨てるように一方的に告げ、ウズミルはその場を立ち去った。残されたアル=ファドルは傍のアフマドの顔を覗き見るが、ウズミルの背中を睨みつけるその表情からは、いかなる感情も読み取ることはできなかった。

「どうするんだ、先生」アル=ファドルは呼びかける。アフマドは彼が幼少期に主に軍事面での指南を担い、現在も常にアル=ファドルの傍に仕え、彼の親衛隊のような役割を担う存在であった。寡黙で無表情だが、忠義に厚く、そして有能であった。

「・・・あの男の言う通り、我々がここにいたとしても、役立つことは少ないでしょう。そもそも敵はここにはいないのですから」

「まあ、そうだな」

「・・・マラケシュ軍は首都を含む大アミールの主要都市を中心に焼き払い、持久戦に持ち込むつもりなのでしょう。彼らはそれで良いかもしれませんが、我々にはそこまで悠長な時間はありません」

「――カスティーリャか」

アル=ファドルの言葉に、アフマドは頷く。

「その通りです。ベラス将軍が内地に残っているとは言え、大半の兵はここアフリカに連れてきております。戦争が長引けば、カスティーリャ軍に後背を突かれかねません。我々は何としてでも大アミール軍の主力を誘き寄せ、早期決戦に持ち込まなくてはなりません」

「と、なると、我々だけで動く必要があると言うわけか」

アル=ファドルは息を呑んだ。彼にとって、真に命を懸けて挑む戦いはこれが初めてであった。

「・・・殿下も後方にて待機頂ければそれで問題ございません。我々が必ず勝利を持ち帰ります」

「そうはいかんよ。俺がここで勇気を見せなければ、いつか俺が即位した時に誰もついてきやしない。たとえこの命が危機に晒されることがあったとしても、やらねばならないところがある」

アフマドは頷いた。このアル=ファドルという男は、昔からどこか危なっかしいところもある男だった。ときに勇敢というよりは無謀なところもある男だが、それでいて機を逃すことは決してない。アフマドは彼のそういうところを気に入ってもいた。

必ずや、この身に変えてでも、主君を守る。そして、勝利を届ける。

アフマドは無言でそれを誓った。

 

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1094年3月。

アフマドとアル=ファドルの軍は、マラケシュ軍の敵首都包囲部隊から離れ、単独でアトラス山脈の向こう側に進軍し、敵都市の包囲と陥落を進めていった。

そのことはもちろんマラケシュで待機する狼王のもとにも届けられたが、彼は特に止めるでもなく、放置した。

やがて、包囲される諸侯の後詰要請を無視できなくなった大アミール軍主力がアフマドたちの軍に近づいていく。アフマドは占領したアガディールに最低限の守備兵を残し後退。

そして、「決戦」の準備は整った。

 

「なんとか上手くいきましたな。すでにマラケシュ軍には伝令を派遣しており、間も無くして援軍はやってくるでしょう」

アフマドはアル=ファドルにそう報告するも、アル=ファドルは地図を睨みつけながら、何やら思案している。

「――先生。援軍がここに近づいてくることを敵が知れば、敵はまた、すぐに兵を纏めて逃げ出すのではないか」

アル=ファドルの問いかけに、アフマドは沈黙で返す。

「・・・それでは意味がない。先生の言った通り、決戦が何よりも大事だ。ここで敵主力を逃さず叩き潰さねば、早期決着は見込めない」

アル=ファドルは心臓が高鳴るのを感じた。

「先生も、それしかないと分かっているのだろう? そして、俺にそれを選択させようとしている。全く、相変わらずのスパルタだ」

アフマドは彼にしてはとても珍しい笑みを浮かべた。

これを見て、アル=ファドルは決断した。

「全軍、アガディールに向けて突撃せよ。援軍が来る前に足止めし、これを逃さず叩き潰す。マラケシュの奴らが我々イベリアのイマシゲンを舐めて掛かるようなら、その勇猛さと狂気を思い知らせてやれ」

 

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8月14日。

アガディールを包囲する大アミール軍に対し、アフマド率いる王国軍5,000が一気に襲いかかる。

後方に待機していた大アミール軍の後詰めもすぐに救援に動き出し、これで、アル=ファドルの狙い通り、敵軍主力の全てを引き付けることに成功した。

もちろん、兵数的には圧倒的不利。アフマドの軍は少しずつ劣勢に追いやられていくが・・・

そこにようやく駆けつける、マラケシュ軍。

これで形勢は逆転。

最終的には1.5倍の兵数差で押し切り、勝利。

こちらの犠牲は――とくにバダホス王国軍において非常に――多かったが、それでも敵軍主力を打ち破り、敵の将兵も多く討ち取るなど、状況を前に推し進める決定的な勝利となったことは間違いがなかった。

 

「――全く、イベリアの奴らはどいつもこいつもこんなマジュヌーンばかりなのか」

少し落ち着きを取り戻した戦場で、ウズミル将軍は吐き捨てるように言う。

「しかし、まあ――貴殿らのその蛮勇さによって、敵軍主力を壊滅させることには成功した。あとはマラケシュ方面へと敗走する奴らの残兵たちを残らず潰しきることができれば、終戦までは近いだろう」

・・・感謝しよう」

ウズミルの絞り出したその言葉を聞いて、アル=ファドルはアフマドを盗み見て笑いかける。アフマドも少しだけ笑っていたように見えた。

だが、その陣幕の中に、慌てた様子の伝令が駆け込んできて、アル=ファドルに一通の書簡を手渡した。

それを開き、アル=ファドルは目を丸くし、そして口惜しそうに呟いた。

「――間に合わなかったか」

それは、カスティーリャ王国からバダホス王国に対する、「宣戦布告」であった。

 

 

グレドスの奇跡

「――そうか」

報告を受け取り、エヴォラで待機していたベラス将軍はすぐに戦支度を始めた。手持ちの兵だけでは不足するため、アストゥリアス人の傭兵も雇用し、最低限の兵を整える。

それでも、兵数はわずか1,480。ガリシア王が亡くなり同盟から外れたとは言え、カスティーリャ・アラゴン連合軍計8,700を相手取るにはあまりにも力不足過ぎた。

「将軍、本当に行かれるのですか」

無謀にも程があるべラス将軍の行動を、側近のポンセ・ド・リアーニョが諫める。

「――将軍の忠義は理解しているつもりです。しかし、先達て将軍は、陛下の徴税官たるニチュラウスの讒言により、その名誉を侮辱された上で軍に対する特権を剥奪されるという仕打ちを受けております」

「全く根拠のない話というわけではない。地主たちの不正を暴けなかったのは確かに私の責任だ」

「しかし、かと言ってあのような現場を知らぬフランス人に好き勝手やられては、王国軍の統率が成り立つとは到底、思えません。

 私が言いたいのは、将軍、それだけの不名誉と無理解を与えられながら、なぜ命を擲ってまで忠義を尽くそうと考えるのか、ということです。

 何も、反乱を起こすべきと申し上げているのでは御座いません。ただ、アフリカからやってくる本隊の到着を、あと2ヶ月、待ち続けるべきだと申し上げているのです」

「――お前の言いたいことは分かるよ、リアーニョ。だが、奴らは間もなくアビラを陥落させる。そのまま2ヶ月も待っていれば、彼らはグレドス峠を越えて王国内に侵入することになるだろう」

「そうすれば、最初に標的となるのは我が友人たるアベイの治めるエルバスだ」

「それを、私は許すことはできない。お前の言う通り、主君に対する忠義という側面もあるが、それ以上に、王国の騎士として、私は私の誇りのために、戦うつもりだ。

 だからこれは私の勝手な戦いでもある。ついてくるのは、志願する兵のみで構わぬ。そのように伝えよ」

「――分かりました。将軍がそのように仰るのであれば、私もこれ以上は止めはしません。私もまた、将軍の誇りの為に、この身を尽くすことを誓います」

「・・・ありがとう、リアーニョ。もちろん、玉砕するつもりはない。必ず勝つための、戦いをしてみせよう」

 

――べラスもまた、迷いがないわけではなかった。

リアーニョが告げた軍給与のみならず、この数年、自分と主君ウマルとの距離が遠くなる一方であるとも感じていた。嫡男のアル=ファドルも自分ではなくセビタ将軍に預けられたと聞き、べラスは口惜しい思いを感じていなかったわけではない。

一度は陛下に直接手紙を送り、その忠誠を誓い友情を確認したこともあった。

しかしその返事が返ってくることはなく、逆にアフリカ遠征にも呼ばれず、イベリアでの待機を命じられることとなったのである。

 

それらはすべて、リアーニョの言葉通り、あのフランス人ニチュラウスの企みによるものなのかもしれない。

しかしいずれにせよ、かつて一度主君を裏切り、そして赦されて今ここにいる以上、自らは忠義を尽くし、そして剣でもって主君に貢献する以上の道はない。

――リアーニョにはもっともらしい話をしたものの、結局自分の中にあるのはただそれだけであった。

 

そして1095年3月14日。

べラス将軍はカスティーリャとバダホスの国境に位置するグレドス峠へと至る。20年前、同じカスティーリャ王国との戦いで、かのエル・シッドと戦い、そしてこれを打ち負かしたことでべラス将軍の名声を確固たるものとした、運命の地である。

あの時と同じく、べラス将軍は先に峠の頂上を確保した。しかしあの時よりもずっと敵は強大で、それはあまりにも無謀な戦いのようにも思えた。

「――敵軍の将は、ノース人だと言ったな」

「ええ。20年前の敗戦以来、同国人の中でさえ敵だらけとなっていたエステファニア女王とその母摂政ヒメノの『右腕』として重用され、反乱軍との数多もの激戦に勝利し、そして裏切り者を密かに処刑し続けてきたカスティーリャの狂戦士と称される男です」

「敵に不足はないな。――護りきるぞ、この峠を」

 

圧倒的不利な状況から始まった、グレドス峠の戦い。

敵の先発隊はそれでも何とか打倒していくものの、すぐに敵の後詰が来て追い詰められていく。

べラス将軍も自ら前線で剣を振い、敵の将兵を次々と負傷させ、あるいは討ち取っていった。

それでも、徐々に追い詰められていき、ついには完全に瓦解しようとしていた、そのとき――

「――将軍、後詰が到着いたしました! アフリカから駆け付けてきた第一軍5,000が、まもなくここにやってきます!」

「――ふう、間に合ったか。さすがにダメかと思ったが・・・」

安堵の溜息を一つ吐くべラス将軍。しかしすぐさま気を取り直し、合流した軍隊に指示を出し、一気に敵軍を押し込んでいく。

それは圧倒的な勝利であった。最終的には同盟国であるトレムセンら北アフリカ勢の援軍が駆け付けたとはいえ、あの絶望的な状況からの大逆転勝利。

それは「グレドスの奇跡」と呼ばれ、20年前のエル・シッドとの戦いの勝利と共に、シル・ベラスというアストゥリアス人の英雄の名を不変のものとする劇的な勝利となったのである。

この戦いでべラス将軍は106体もの敵兵を討ち取る驚異的な活躍も果たしてみせた。

 

「――殿下。べラス将軍の指揮の下、グレドス峠の戦いは我が軍の圧倒的勝利。将軍は敵の軍旗をも奪い、殿下に献上するとの由」

「さらにはそのまま逃げる敵軍を山を下りて追いかけ、ラ・アドラーダでの追撃戦にて敵将スノリ・クラーカも自ら討ち取る功績。それはまさにエル・シッドがそのまま乗り移ったが如き戦果で御座います」

興奮した様子で語る将軍からの使者の言葉を聞き、アフマドと共に遅れてやってきたアル=ファドルも感嘆しつつ応えた。

「大義であった。父上にも此度の栄誉、必ず伝えておくと将軍に申し伝えよ」

「は!」

使者が去るのを見送りつつ、アフマドはアル=ファドルに小さく告げる。

「殿下。あまり安請け合いし過ぎぬよう。陛下は元帥をあまり快くは思っていないのですから」

「何だ、アフマド、まさか嫉妬しているのか?」

愉快そうに笑うアル=ファドル。純粋な武人たる彼は元よりベラス将軍への敬意は深く、此度の英雄譚も心から喜んでいるようだ。

それはアフマドとて同じ。彼もまた政治家であるよりは武人であるのだから。

「私とて元帥の活躍は大変喜ばしく思っております。しかし、かのエル・シッドは活躍し過ぎたがゆえにカスティーリャ宮廷内で疎まれ、最後は孤独の死を遂げました。今も元帥には敵が多い」

「分かっておる。だが、それが適切な状態とも思えぬ。王国に忠義を尽くし、これに貢献する者が正しく認められること。もし今後俺が王になった暁には、そんな宮廷に必ずしてみせようじゃないか」

「そうですね・・・宮廷内政治は複雑怪奇であり、これを解きほぐすのは決して簡単なことではないでしょうが・・・あと10年は時間があるでしょうから、それまでにじっくりと基盤を整えねばなりませんな」

「ハハ、あの父上だ。10年どころか、20年でも30年でも生きていそうだがな」

 

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ベラス将軍の快進撃は続く。彼はさらに敵陣深くに入り込み、逃げる残党兵を追いかけ、これを壊滅させることにも成功した。

1096年春には敵首都ブルゴスを包囲し、これを解放しようとする敵本隊との決戦が間近に迫りつつあった。

このまま「第二次カスティーリャ戦争」は佳境へと入っていく、そういう風に思われていたが――

 

 

「殿下」

宵闇の中、アル=ファドルが眠るテントの中に、急使からの文を携えたアフマドが入ってくる。夢の中から醒めたばかりのアル=ファドルも、アフマドのそのただならぬ気配を察し、すぐさま飛び起きる。

「――陛下が、お倒れになられました」

「父上が・・・!?」

闇の中に消え入るかのようなか細い声で囁くアフマドに、アル=ファドルもつい大声が出そうになるのを抑えつつ驚きを見せる。

「まずは第一報に過ぎませんが、万が一も御座います。すぐさまここを発つように」

「分かった・・・だが、この戦いはどうなる。もし父に万が一のことがあれば、戦争どころではなくなるぞ」

「ええ。ですので、我々が優勢である今のうちに、停戦に向けて交渉を開始すべきです。我々の状況を悟られず、確実に数年間の休戦期間を得られるように・・・交渉はアラーッディンに一任します。彼はべラス将軍とも旧知の仲です」

「分かった・・・すぐに発とう」

「お供します」

夜も明けないうちにアル=ファドルと従者アフマドは、数名のお供を引き連れて密かにカスティーリャを発ち、そしてグレドス峠を越え、全速力でクルトゥバへと向かった。

だが、その途上。エルバスの街で、彼らは2通目の手紙を受け取ることとなる。

 

その手紙を開き、中を読んだアル=ファドルは、全身が崩れ落ちそうになる感覚に襲われた。

「――父が、死んだ」

 

それはあまりにも早すぎる死。

そして、アル=マンスールの一族の物語は、新たなる局面を迎えることとなる。

 

第4話、「狼を狩る者」へ続く。

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