我々の知っている歴史と似ているようで、少しずつ異なっているこの世界。
のちの天下人たる織田信長はこの世界においても1570年頃までの間に北近江・越前・加賀・伊勢に至る広い領域を支配するなど、その勢力を大幅に拡大させていた。
一方、史実同様に今川家からの独立を果たしていた松平家康は、史実同様に織田信長と同盟を結ぶも、同じく信長と同盟を結んでいた武田信玄に攻められた際、信長はこれを助ける事をせず見捨て、結果として三河遠江含む東海地域すべてを武田が牛耳ることとなった。
史実とは少しずつ異なる歩みを見せつつあるこの世界の歴史。
やがて、物語は運命の1571年を迎える。
この年、将軍・足利義輝の家臣であった三好長慶が主君に反旗を翻し、これを追放。
ここに、240年間続いた室町幕府は滅亡を迎え、三好長慶は新たな「天下人」となった。
そしてこれこそが、織田信長が待ち望んでいた好機である。
彼はいよいよ、「天下」獲得に向けた最後の一手に手を差し出すこととなる。
それが、より大きな戦乱への序章となることを、知る由もなくーー。
目次
※ゲーム上の兵数を10倍にした数を物語上の兵数として表記しております(より史実に近づけるため)。
Ver.1.12.5(Scythe)
Shogunate Ver.0.8.5.6(雲隠)
使用DLC
- The Northern Lords
- The Royal Court
- The Fate of Iberia
- Firends and Foes
- Tours and Tournaments
- Wards and Wardens
- Legacy of Perisia
- Legends of the Dead
使用MOD
- Japanese Language Mod
- Shogunate(Japanese version)
- Joseon (Shogunateの朝鮮半島拡張)
- Joseon JP Translation
- Japanese Font Old-Style
- Historical Figure for Shogunate Japanese
- Nameplates
- Big Battle View
- [Beta]Betray Vassal(JP)
- Battleground Commanders
前回はこちらから
重治の策
1571年1月17日。
南北近江の国境に位置する佐和山城下にて、織田軍の主力3万3千が招集されつつあった。
これを率いる総大将は、先の対上杉戦で手痛い敗北を喫しながらも、その勇敢さを認められ、信長から越前・加賀の2ヶ国を与えられ家内随一の大名として出世した佐々成政。
さらに寄騎として、信長傘下に加わった北近江の守護・浅井久政。
そして織田家一番家老にして伊勢の地を与えられた丹羽長秀。
その他、信長参謀の竹中重治、木下秀吉、林通政など、織田家内の有力武将らが揃い踏む豪華な面々であり、この一戦に懸ける信長の意思を強く感じさせるものとなった。
何しろ、これはまさに天下を狙う戦いであった。相手は足利将軍を追放し、室町幕府を滅ぼすという禁断の一手を繰り出した三好長慶。
この戦いの勝利はすなわち、信長が天下ーーここでは畿内の意ーーを掌握することを意味していた。
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「貴殿らまで招集されているとは。上様の意気込みの高さが思い知らされますな」
秀吉の言葉の先にいたのは、信長直属の精鋭部隊「赤母衣衆」の面々。
「尾張の猛牛」と渾名される稲葉一鉄。
「弓の兵庫頭」と称される蜂屋頼隆。
そして・・・
「ほう、貴殿もついに初陣か。噂には聞いておるでな」
「光栄で御座います、木下殿」
秀吉に声をかけられたのは、佐久間甚八盛政。まだ若年ながらもその武勇は広く知れ渡っており、今では「槍の甚八」と呼ばれ、稲葉や蜂屋と並ぶ赤母衣衆の実力者となりうる者として期待されていた。
「ようやく、といったところです。訓練ばかりで、飽きていたところです故。誰よりも早く戦陣に赴き、諸先輩方にも負けぬ武功を立てたく思います」
「はっはっはっ、威勢の良いことだ。ワシらの手柄まで奪わんでくれよ。いや、むしろ奪ってもらった方が、ワシは楽できるかも知れんがな」
秀吉は破顔しつつ盛政の肩を叩く。そんな彼に、背後から声をかける者がいた。
「木下殿」
振り返ると、そこにいたのは信長の参謀役である竹中重治。
「おや、竹中殿。貴殿まで来られているとは。これで大殿が居られないのが不思議なくらいですな」
何気ない気持ちで気楽に告げた秀吉に、重治は苦笑しながら彼を手招きする。
「その件ですが・・・少し、こちらに」
重治の表情に秀吉も何事かを察し、重治に誘われるままに人気のないところにまでやってくる。
「結論から申しますと、大殿もすでにこちらに居られます」
何と、と秀吉は小さな声で驚く。
「姿を隠してらっしゃるということか。何故」
「すべては我が策が為でございます」
重治は説明する。曰く、先の愛知川の戦いの顛末を踏まえ、三好軍は織田軍との全面対決は徹底して避けるであろう。織田軍が大軍でもって京に攻め入り、これを制圧することは容易ではあるが、問題はその後。彼らはいつでも、こちらが油断したタイミングでゲリラ的に奇襲を仕掛け、常に京を脅かし続けるだろう、と。
「そのような状態を放置して、天下を治めるなどと主張できることは決してございません。大事なのは三好軍の根本を断つこと。彼らの本拠地のある、大和国高田城を襲うことが肝要となります」
しかし、と重治は続ける。
「山中こそやつらの領域。雑賀衆を始めとした屈強なる鉄砲隊を傭兵として雇い入れているという情報もあり、ただ主力を全力投入するだけでは、織田軍の犠牲も甚大なものになりかねません」
「それは前回の戦いの時にも危惧していたことですな。故にあの時も竹中殿の策で愛知川にまで敵主力を誘き寄せこれを壊滅させましたが」
ええ、と重治は頷く。
「しかし今回はそれも警戒され、今度こそ彼らは得意の穴熊を決め込むつもりでいるわけです。
そこで、一計を案じました」
と、重治は笑みを浮かべる。
「大和に佐々殿丹羽殿を中心とした主力を差し向けると同時に、少数精鋭部隊で京を襲う。しかもこの部隊に、大殿が存在するとなればーー」
「成る程」秀吉は唸る。
「王手を掛けられているとは言え、その目の前に一発逆転の可能性をちらつかせれば・・・いやはや、実に恐ろしい。敵の欲を刺激し、これを思う通りに動かそうというわけですから」
その通りです、と重治は頷く。
「そしてこれが仕掛けられた罠だと敵に気付かせないためには、居るはずのない大殿がそこに居ると敵に思わせる必要がある。千載一遇の好機、それは相手が隠そうとしていたものに自分たちだけが気づいたと錯覚したとき、それは本来のそれ以上に価値あるものと感じられてしまうものです。冷静な判断ができなくなるほどに」
「だから大殿の存在をひた隠しにしているというわけですな。京に入り、それから明かすというわけだ。それもこちらは隠し通しているつもりが、意図せず敵方に漏れてしまったという形で。
恐ろしい考えですが、何より恐ろしいのは、大殿を平気で囮に使おうという竹中殿のそのお考えにあります」
「そのような私の無謀な謀を迷う素振りなく承知して下さる大殿こそ恐ろしい存在ですよ。他の大名であればこうはいきません」
確かに、と秀吉は笑う。
それを見て同じように笑いながらも、ふと重治は表情を真剣なものに切り替えた。
「ただやはり、これは大きな危険も伴います。欲を刺激された敵軍は決死の覚悟で挑んでくるでしょうし、想定以上の大軍を差し向けられる可能性もあります。いざとなれば我々は人柱となり、大殿の身を守り切る覚悟が必要となります」
「我々、というとーー」
秀吉はようやく、なぜ重治がこの話を自分にしているのか、その理由を理解するに至った。
「ええ、お察しの通りです。
木下殿、此度の策における京強襲部隊の総大将は貴殿が担うこととなります。もちろん私も参謀としてお助け致しますが。
心してください。織田家の勝利と、そして大殿の命は、我々に掛かっているのですから」
高鳴る心臓の音に、重治の言葉の最後の方は秀吉の耳に届いていなかった。こめかみに浮き出る脂汗の感触を不快に感じながらも、秀吉は目の前に訪れた大きな重圧と、それ以上に大きな栄達への可能性に胸を高鳴らせていた。
かくして、戦いは始まる。
二条合戦
1572年5月8日。
南近江各地の支城を制圧した成政率いる織田軍主力2万3千は、後詰めに来た三好軍1万8千を捉え、追い詰める。
両者は伊賀国名張郡黒田城前にて対峙し、名張川を挟んで激突。
双方の大将格が負傷するほどの激戦となったが、最終的には織田軍が勝利。
そのまま織田本隊は大和国の三好本拠地へと軍を進めていく。
そして、この間に織田本隊から分離した小隊が京都を襲う。
この部隊は小規模ながら、信長側近の竹中重治や赤母衣衆の存在が認められ、そして信長自身もどうやらここに参加しているようだ、という確かな情報を三好側も掴み取る。
これを受けて、三好軍は大和での全面的な抵抗ではなく、大将・三好長慶を中心とした1万3千の襲撃部隊を組織し、包囲された京・二条御所へと強襲を仕掛ける。
それは1572年7月7日の夜から翌8日の明け方にかけてのことであった。
「来ましたね」
重治の言葉に秀吉は頷く。
「・・・正直、木下殿がご提案されたこの策の有効性は私も十分に高いものと保証致します。信長様の承認もすでに得られており、市民の多くもここ数日の混乱により上京からは立ち去っております。
とは言え、全員とまではいきません。犠牲は少なからず出ることでしょう」
「構わぬ」
秀吉は短く答える。その横顔には、あらゆる葛藤と煩悶を乗り越えたものにだけ許される深みと皺が刻まれていた。
重治にはどれだけ知恵を重ねても、その境地には決して辿り着くことはないであろう。これが、戦国大名というものか。
「承知いたしました。それでは、頃合いかと」
秀吉は頷き、傍らの兵士たちに指示を出す。彼らは手に持った松明の火を周囲の家屋につけ始め、それは重治の計算通り、風向きに合わせ次々と燃え広がっていった。
そしてこれを合図に、上京のあらゆる地点にて、同様に焼き討ちが開始された。
驚いたのは三好軍であった。市街戦の中で織田軍が要所要所に伏兵を忍び込ませ奇襲を仕掛けてくるであろうことは予想していたが、まさか付近一帯を火の海にするとは、予想だにしていなかった。
阿鼻叫喚の中、混乱した三好軍は、もはや戦いどころではなくなっていたが、そこにさらに織田軍の組織だった奇襲部隊が次々と現れ、襲撃を加えていく。
火に追われ、闇の中から現れる襲撃に怯え、三好の兵たちは皆、逃げることさえもできずに屍となって京の街中に積み上げられていく。
太陽が昇り辺り一面を照らす頃には、すでに三好軍で立っている者もほとんどいない状態であった。
結果、三好の有力武将らも多くが討ち死にし、総大将の長慶もその身柄を拘束される。
五十を超える村が焼き払われ、さながら最後の審判が如きと宣教師に伝えられるほどの犠牲を生み出しながらも、重治と秀吉の策は成功裡に終わり、総大将を捕えられた三好家も降伏を認めるほかなくなった。
この勝利により、京都一帯を含む北畿内全域(南近江や山城、摂津、丹波など)は織田の領地に組み込まれることとなったのである。
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「――大義であった、禿げ鼠」
奪い取った二条屋敷にて、上機嫌の信長は秀吉を労う。
「これまでは単に調子のよい鼠くらいに思っていたが、此度は実によく働いたものだ」
「は――勿体なきお言葉」
尊敬する主君に過分なまでに褒め称えられ、秀吉は額を畳に擦り付ける勢いで平伏する。
「貴様ももう、戦国大名として真面目に取り組む覚悟ができたと見て良さそうだな」
「は――?」
その言葉の意味は、すなわち。思わず秀吉は顔を上げ、主君の顔を覗き見る。
信長はそんな秀吉にニカッと笑い、告げる。
「今回新たに得た丹波、摂津の二ヵ国、ここを貴様にやる! しっかり励めや!」
木下藤吉郎秀吉。
いよいよこの物語のもう1人の主人公が、歴史の表舞台へとはっきりと現れ出た瞬間となった。
そして――。
1572年11月30日。
比叡山・日吉大社内にて、密かな集まりが催されていた。
「揃われましたな。それでは会議を始めましょう。此度の会議で決めることはただ一つーー魔王・織田信長を、いかにして誅するか」
比叡山延暦寺座主・応胤は物騒に告げつつ、一同を見渡す。
最初に口を開いたのは、紀伊・和泉・そして山城の一部をも領有する、三好と並ぶ南畿内最大の実力者、畠山高政。
「まずもって三好の敗北から学ぶべきは、一対一で立ち向かうことの愚かさだ。それを克服するために、我々はこの場に集まったのだからな」
「その意味で、貴殿らの働きが最も重要となる」
言葉と共に向けられた高政の視線の先には、剣呑な瞳の輝きを持つ一人の坊官の姿があった。
「良いだろう。但し、畠山殿。貴殿が持つ雑賀における権益の融通、これが条件だ」
男の名は下間頼廉。若き法王を戴く本願寺における最大の軍事司令官にして、最も影響力を持つ男だ。
「フン・・・坊主の癖に金を最優先とは」高政は苦々しく表情を歪める。
「しかしまあ、分かりやすいことだ。この状況でそんな交渉をしている場合でもないという言葉は飲み込もう。希望通り、勝利の暁には、雑賀を貴様らに渡すことは約束する。代わりにしっかりと結果を出してもらうぞ」
勿論だ、と頼廉が告げるのを見て、高政も頷く。
「本願寺が織田を引きつけている間に、我々で京を狙う。しかしそれでもまだ、駒は足りぬ。上杉の力を借りたいところであったが、残念ながら謙信公は先達て亡くなり、新たな当主は国内の安定化にかかり切りと言ったところで役には立たぬだろう」
「故に、貴殿らの動きが、最後にして最大の一手となる。分かるな?」
高政が視線を向けたその先。
そこに、その男の姿があった。
東の「最強国」の重臣の一人にして、最も恐ろしき男。
「良かろう。精々、我らが御屋形を、愉しませてくれよ」
かくして、ここに「信長包囲網」が完成する。
果たして信長はこの最大の危機を、無事乗り越えることはできるのか。
次回、第伍話。
「信長包囲網」編へと続く。
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過去のCrusader Kings Ⅲプレイレポート/AARはこちらから
クルキ・タリナ(1066-1194):フィンランドの一部族「クルキ家」の物語。
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