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【CK3】四国の狗鷲② 神崎川・引田の戦い編(1575-1576)

 

古来より土佐の国は北を四国山地、南を太平洋に塞がれた陸の孤島として、罪人の流刑地など散々たる扱いを受けてきた。

しかしやがて戦国時代に突入すると、この土佐の地では細川や一条などの守護代・国司勢力を凌駕する地方豪族たちが力をつけ、彼らはやがて「土佐七雄」と呼ばれるようになる。

その中で台頭してきたのが長宗我部家。一時は同じ七雄の本山氏に滅ぼされかけた彼らも、名君・国親とその嫡男・元親の代に土佐を統一。

さらには毛利氏の力を後ろ盾にしていた伊予の河野氏、かつて天下人にまで君臨した阿波の三好氏といったライバルたちを次々に打倒。

四国のほぼ全域を征服し、名実共に四国の唯一絶対の大大名として認められるようになったのである。

 

だが、そんな彼の前に立ちはだかる存在が現れる。

の者の名は織田信長

尾張の一地方の守護代家臣筋に過ぎなかったこの男もまた、家督相続からわずか20年で機内最大の勢力へと成長。

形上は将軍・足利義昭の家臣ではあったもののその実質的な権力をほぼ独占しており、その比類なき野望の矛先は、長宗我部のもとへも差し向けられることとなる。

 

果たして、元親はこの危機を乗り越え、そして悲願の四国統一を果たすことはできるのか。

 

目次

 

※ゲーム上の兵数を10倍にした数を物語上の兵数として表記しております(より史実に近づけるため)。

 

Ver.1.12.4(Scythe)

Shogunate Ver.0.8.5.5(雲隠)

使用DLC

  • The Northern Lords
  • The Royal Court
  • The Fate of Iberia
  • Firends and Foes
  • Tours and Tournaments
  • Wards and Wardens
  • Legacy of Perisia
  • Legends of the Dead

使用MOD

  • Japanese Language Mod
  • Shogunate(Japanese version)
  • Nameplates
  • Historical Figure for Shogunate Japanese
  • Big Battle View
  • Japanese Font Old-Style

 

前回はこちらから

suzutamaki.hatenadiary.jp

 

神崎川の戦い

元亀三年(1575年)8月10日。

元親の居城・岡豊城で開かれた評定にて、先の三好戦役の後に新たに家臣となった篠原長房が進み出て、発言する。

「殿。兼ねてよりの伝手を使い、畿内の情報を集めているところですが、その中で気になる情報が一つ。どうやら、幕府が我が領土を狙い、配下の織田信長を用いて軍事行動を起こそうとしている様子で御座います。これを防ぐべく、我が城の防備を固める許可を戴きたい」

長房の言葉に、一同は騒然とする。
その中の一人、元親の次弟である香宗我部親泰は長房と並び前に出る。

「俄かには信じられぬ話です、兄上。先の三好戦役においても、我々は幕府方の三好義継と盟を結んでおり、少なくとも我々と敵対する関係にはないはずです」

これを受けて、長房はさらに言葉を紡ぐ。

「ええ。ですので幕府、並びに織田が敵対視しているのは三好義継およびこれと盟する長宗我部家そのものでは御座いません。

 彼らはかつて彼らと敵対していた三好三人衆と結んだ我が首と、そして我が持つ畿内の領土をこそ、狙っているのでしょう」

阿波平定に合わせ、阿波に領土をもっていた篠原長房と、彼が畿内に持っていたすべての領土が長宗我部家のものとして手に入っていた。


毅然とした長房の態度に、一同は息を呑む。

彼が何を言いたいか、皆一様に理解したのである。

「故に、戴きたいのは築城の許可のみで構いませぬ。我は我の身を守るために最前線の地に要塞を築きまする」

「そして彼らが我が城に攻め込んだ際には、私は全力でこれに抵抗いたしますが、殿に置かれましては決して四国を出ることなく、中立を保っていただきたい。篠原の命脈については、我が娘・繁子に託したく存じます」

掌を床に付き、深々と頭を下げる長房。

一度は言葉もなくこれを見守り、元親は静かにこれを見つめていたが、やがて小さく口を開いた。

「――何を言うか、義父上ちちうえ殿」

威厳と慈愛に満ちたその声に、長房はゆっくりと顔を上げる。その目を見て、元親ははっきりと告げる。

「貴殿は我が妻・繁子の父にして、我が長宗我部家の重要なる家臣の一人。例え、過去の行いがどうであれ、そのことを理由に貴殿を害そうとする者がいれば、私は全力でこれに抵抗致す。それは、我が長宗我部家に対する挑戦そのものであるからな」

「しかし――」

抗弁しようとした長房を、元親は小さく差し出した手で遮る。

「とまれ、防備を固めるための資金を融通致そう。また、有事の際には我が軍を挙げてこれに対抗することを誓う」

「――皆の衆も、それで異論はないな?」

元親の言葉に、親泰を含む家臣らは皆、平伏する。

その中でも特に長房は、額を床に擦り付けんばかりの平伏を見せていた。

 

 

そして、長房の不安は的中することとなる。

同年11月。

足利義昭家臣・織田信長の名において、元親に対し篠原長房の首とその所領とを要求する文が届けられたのである。

元親はこれを丁寧かつ毅然とした内容にて拒絶する文を書いて送り返し、同時に四国にて兵を集め畿内へと向かわせる動きを開始する。

「ほう」

文を受け取った岐阜城の信長は、その口元を愉快そうに歪める。

「良いだろう。捻り潰してくれるわ――鳥なき島の蝙蝠よ」

 

翌元亀四年(1576年)1月。

四国より派遣された長宗我部軍2万が武庫の長房居城・越水城に入城。元親は長弟の吉良親貞と共に、西成の天満砦を包囲する織田軍の様子を窺っていた。

「怪我はもう大丈夫なのか?」

「ああ。すっかりと良くなった。大きな後遺症もなく、万全の状態で戦えるはずだ」

「それは良かった――事実、この後の戦いは激戦とならざるを得ない」

元親の言葉に、親貞は頷く。

「織田軍の攻城戦の勢いは凄まじい。天満砦も補強していたにも関わらず、もはやあと一ヶ月も保たぬ勢い。これを陥落させれば、奴らはすぐさまこちらに兵を送り込んでくることだろう」

親貞の言葉に、元親はかぶりを振って答える。

「そうはさせられぬ。天満砦は放棄せざるを得ないにしても、この越水城まで包囲させられれば、戦況はより不利になっていく。越水城自体は過去何度も敵兵を跳ねのけた堅城ではあるが、その周囲は平野が広がり、包囲軍を外側から攻撃するには不利な地形と言える」

「それはその通りだ。とは言え、実際、どうする? 敵方には徳川軍が付いており、その援軍2万も間もなく天満に到着するとのこと」

「一方」と親貞は続ける。「我々の同盟国の毛利軍はまだ加古川も越えておらず、着到まで時間がかかる見込みだ」

「同盟国たる三好義継も、長房殿との対立や織田家との関係がゆえに参戦には応じない構えであり、我々単独で撃退するにはあまりにも分が悪い。ここは隘路となる花隈城まで撤退し、毛利軍との合流を図るべきかと」

親貞の言葉を受け、元親はしばし、思案する。

だがやがて、彼は地図上の一点を静かに指差した。

「――ここだ」

彼が指し示した場所は、天満と越水城との間に位置する、神崎川

雪解けの水で川の水量も増し、周囲は一面の湿地帯となっている箇所であった。

「奴らがここを通るとき、我々もこの越水城を出て一気に強襲を仕掛ける。奴らとて、寡兵たる我らの攻撃に、まさか背を向けて逃げることはないだろう。必ずや決戦と相成る」

「――双方共に、逃れることのできぬ地獄の様相となるぞ」

兄の決断に、親貞は息を呑む。

「それでこそだ。奴ら、畿内の兵らに、我らが土佐のつわものたちの恐ろしさを思い知らせてやらねばならぬ。この戦い一つで敵軍を全滅させられない以上、二度と戦いたくないと彼らに思わせてやることが唯一の勝利条件だ。

 それに、我らのその決死の攻勢を見れば、悠々とやる気なく向かってくる毛利軍の足も少しは早くなるだろう」

冷徹に、しかし冷静に局面を分析し、判断する元親の言葉に、親貞はそれ以上言葉を紡ぐことはできなかった。

こと戦術においては、この元親は初陣となる長浜の戦いから常に神がかったものを持っている。

親貞は確信していた。

この日ノ本において最も強き男は、織田でも、その東方に君臨する上杉も武田でもなく、この長宗我部元親という、四国の獰猛なる狗鷲イヌワシであるということを。



2月25日。

神崎川流域の湿地帯を織田・徳川連合軍が渡ろうとしているそのとき、越水城から出てきた2万弱の長宗我部軍が突如、これに襲い掛かった。

圧倒的寡兵。しかし軽装の農民兵中心の彼らは勇敢に織田兵に立ち向かい、その中で元親も寵愛していた甥の本山親茂も討ち取られるなど、その戦いぶりは壮絶なものであった。

だが、すぐさまここに毛利軍も合流。形勢は逆転し、次第に織田・徳川連合軍の数を減らしていくこととなる。

その先陣を切ったのが、毛利家随一の猛将・吉川元長。格下たる長宗我部家に後塵を拝するわけにはいかぬと果敢に前進し、徳川軍の勇将・服部正成を討ち取るなどの武功を挙げる。

さらに、毛利軍は海からの攻撃も苛烈に行った。村上水軍の長・村上武吉が率いる大艦隊が神崎川河口に迫ると、そこから無数の小舟が川をさかのぼり、逃げ出そうとする織田・徳川連合軍の背後を取って用意された鉄砲衆にてこれを撃滅していく。

この攻撃で数多くの兵が斃れたが、その中には織田軍最強の猛将と謳われた柴田勝家の姿も。

戦場は銃声と悲鳴、苦悶・怨嗟の声ばかりが響き、湿地に足を取られないように仲間の死体を踏み台にして逃げ出そうとするそこはまさに阿鼻叫喚の地獄絵図そのもの。

双方に多大な犠牲を出しながらこの地獄の「神崎川の戦い」は幕を下ろし、大方の予想を覆し長宗我部軍が勝利したのである。


「――さて、弥七よ。早速織田方に遣いを送り、和平の締結を進めてくれ」

足元に仲間の死体が転がり、自らもその頬に返り血を浴びているような凄惨たる様子の中で、顔色一つ変えず平然と言ってのける元親に、香宗我部親泰は狼狽えながらも首肯する。
「もしもまだ流れる血が足りぬというのであれば、さらなる首を用意すると申し伝えよ。我々がいかにして『触れざるべき存在』なのかを、とくと思い知らせることが肝要だ」

「ああ・・・分かった。適切な使者を用意し、必ずや成功させよう」

親泰の返答に満足し、元親は撤収の準備を進める。

ーー指揮官たるもの、苛烈かつ冷酷に決断し采を振いはしたものの、この惨状に彼が心を全く痛めていないわけではなかった。

むしろ、彼は自身の判断が生み出したこの犠牲の多さに気を失い、その場に倒れてもおかしくはないほどに動揺もしていた。

彼はもとより心優しい性格であり、それがゆえに初陣前は「姫若子ひめわこ」として家臣たちにも侮られるのが常であった。

しかし初陣以降、その苛烈な戦いぶりに彼は「鬼若子おにわこ」と称されるようになり、誰もがその軍事的才能に平伏すこととなった。

それは元親自身も良く理解していた。が故に、彼はその理想の実現のために、自らの軍才を遺憾無く発揮し、その勢力を伸ばし続けてきた。

しかしそれは、決して血を流したいがための選択ではなかった。すべては、最小限の血で、最良の結果を生み出すこと。

この戦国の世において永続的に繰り返される戦乱を、せめて自身の領国内においては停止ちょうじせしめること。

それだけが、元親の願いであった。

(――そのための、最後の戦いにこれがなれば良い。そして我が愛すべき千雄丸よ・・・お前には来るべき平和な世において、四国を最も豊かなる国とすることを期待する。お前は私にはない才を有しているのだから)

「思索家」の特性を持つ信親には、管理教育を施している。来るべき平和な世に向けて。


「御屋形様」

戦場を行きつつ、一人物思いに耽っていた元親は、傍らに駆け付けた伝令の声によって現実に引き戻された。

「どうした」

「ーー阿波の谷忠澄様より御注進。讃岐にて、休戦条約を破り、三好存康が阿波に侵攻を開始したとの由」


「そうか」

元親は、静かに、表情を変えることなく呟く。

「――その気骨、認めてはいたが、斯様な策に出るというのであれば、容赦はしない。その首、確実に仕留めてみせよう」

戦いの第2ラウンドが幕を開ける。

 

 

引田の戦い

同年6月。

畿内の織田・徳川連合軍への対処を毛利軍と最小限の兵だけを任せ、元親は1万2千の手勢を引き連れて四国・勝端城へと上陸を果たした。

この地はかつての阿波三好家の本拠地であったが、先の戦役の結果長宗我部家が接収。現在では元親から阿波の支配を任されている重臣・谷忠澄の居城となっていた。

「――いやはや、留守を任されていたにも関わらず、こうして御足労頂くことになり、実に申し訳ない」

「何を言うか、忠兵衛殿。三好軍はこの勝端城に強襲をかけてきたとのことだが、少兵で見事これを防ぎきってくれた。現在、奴らはいずこに?」

「讃岐山脈の向こう、引田にて陣を構えている様子。かの地は三方を山、残る面を海に囲まれ、海に突き出た小さな城山の上に建てられた要塞。守りやすく攻めにくいこの地で状況の好転を待つつもりでしょう」

「確かに、こちらも悠長にはいられない。畿内に残している兵力は毛利軍と合わせても3万程度。織田・徳川連合軍が先の敗戦による被害を回復し態勢を整える前にこの三好軍を撃滅しなければ、折角の勝利と犠牲が無駄になりかねぬ」

「時間はない――何としてでも、短期決戦を仕掛けねばならない」

「と、なれば、戦力も拮抗している中での力攻めは、避けざるを得ませんな」

忠澄の言葉に、元親は頷く。その表情を見て、忠澄は勘付いた。

「――何か、策があるのですな?」

忠澄のその問いに、元親は答えず、ただ口元に薄い笑みを浮かべただけであった。

 

 

6月27日夜。

長宗我部家1万2千弱の兵が、同じく1万2千の兵が駐留する三好軍・引田城に向け、進軍を開始する。

この報せを受け取った引田城内の三好軍はすぐさま評定を開き、どのように対処するか検討が重ねられた。

「――籠城戦は、望ましくありません」

三好存康の重臣の一人、香西元載は深刻な表情で告げる。

「村上武吉率いる毛利水軍が跋扈する瀬戸内海での制海権はとうに失われており、このまま陸路を囲まれれば待っているのは飢えと恐怖の時間のみとなります。さらに、畿内でも三好義継がこれ幸いと我らが領土に侵攻を企てており、救援を望むことはまず不可能となっております」

「城を出て戦えというのか?」

香西氏同様、細川管領家に仕えていた頃からの有力氏族に属する重臣・安富盛定はその表情を顰める。

「それこそ、自殺行為である。奴ら長宗我部の一領具足の勇猛さは如何とも否定し難い。平地で戦えば、我らがどれだけ勇敢に戦えど、最後には敗北を喫することは目に見えるだろう」

盛定のその言葉はあまりにも直裁すぎるも、それが真実であることは皆理解しており、沈黙が流れる。籠城か、迎え討つか。それは決断しきれぬ選択であるように思えた。

「一つ、策が無いわけではありません」

元載は言うと、机上に広げた地図の一点を指差す。一同は目を見合わせ、元載の意図するところを互いが理解したことを悟る。

「但し、この策の成功においては、前線に出る者の勇敢さと機を正しく見る力が求められます。会戦を恐れる安富殿は、後方にて計略を仕掛ける側に回ると良いかと」

元載のその挑発的な言葉に、盛定は顔を紅潮させ、机を叩いた。

「侮るな。元より戦場で散ることを恐れてなどおらぬ。勝ち目があるのであれば、そのために我が老命いくらでも差し出そう」

「ーー左様ですか。ならば、三郎殿。貴殿が後方にて、計略を仕掛ける役を担い給え」

一同の視線が、存康のもとへと注がれる。これを受け、存康は毅然とした様子で応える。

「いや、それは受け入れられぬ。我こそ前線にて戦い、将兵を奮い立たさねばならぬ。元よりこの身は長宗我部への復讐と一族の誇りのためだけに存ずる価値のあるもの。何より、仇敵を前にして、計略がために必要な冷静さを保てる自信などない。計略は義叔父上おじうえ*1、貴殿が担い給え」

存康の言葉に、一同は頷く。

いよいよ、長宗我部元親へ一矢報いる決戦の刻が迫りつつあった。

 

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そして、払暁。

峠を越えた長宗我部軍1万2千は引田の扇状地南半に兵を並べる。

一方の三好軍は、およそ同数と思しき兵を馬宿川を挟んでこれに対峙させ、両者は激しい睨み合いの様相を見せたのである。

最初に動いたのは長宗我部軍であった。元親の静かな号令により先駆けの兵たちが槍を持ち、馬宿川に向けて勇敢に突撃を開始した。

これに対し、三好軍は冷静に弓兵、そして鉄砲兵を前線に並べ、向かい来る一領具足たちを次々射抜いていった。

だが、勢いは止まらず。むしろこれを増し、一気に渡河を完了。今度は逆に、三好勢に襲いかかった。

「崩れるなッ! 持ち堪えろ! 耐えろ、耐えろーーッ!!」

安富盛定が叫ぶ。しかしこれを長宗我部軍の勇敢なる猛将たちが襲い掛かり、安富を含む三好の将兵たちを次々と追い込んでいく。

「ムウ――小癪なり。ここは決して通さんぞ、侵略者共めが」

安富・香西とならぶ細川四天王の一角たる香川氏の当主・香川之景が先陣に立ってこの猛攻を防ごうと構えたそのとき。

戦場に、太鼓の音が鳴り響く。

三好本陣が打ち鳴らす、退き太鼓の音だ。

「撤退、撤退ーーッ!!!」

勇猛果敢に長宗我部軍と対峙していた三好軍は、堰を切ったかが如く反転し、退却を始める。北方、引田城の方面へと。

当然、長宗我部軍もこれを逃すわけにはいかぬ。ここが好機とばかりに一気呵成にこれを追撃し始め、追い首を獲っていく。

そして、奥深くまで、敵勢を追い詰めたそのとき――

「――頃合いだ」

存康は振り返り、西側の翼山へと視線を巡らせる。

そこには、香西元載が率いる伏兵の姿が――

 

しかし。

 

山は、何も動きはしなかった。

 

播磨灘から吹き付ける風に頰をさらわれて、存康はただ呆然と立ち尽くしていた。周囲は混乱する味方の兵たちの悲鳴や怒号に包まれていたが、存康にはまるで無間の静寂に包まれているが如き心地であった。

「――そうか、我は所詮、王の器ではなかった、というわけだな」

 

 

「――想定通りの展開となりましたな」

猛攻を止めぬ自軍の後方にて、谷忠澄は元親の傍で呟く。元親は平然とした様子で答える。

「香西元載は金勘定の出来る男だ。勇敢と無謀を履き違える青二才の君主と、どちらがより四国を豊かにするかを十分に理解している。我もその器量を見せたまでだ」

「かくして、天下取りし三好も終焉を迎えると。真なる四国の王となられる心持ちはいかほどに?」

「フン――」

忠澄の言葉に、元親は鼻を鳴らした。

「ただこれが最後の戦いに、と願うばかりだ。八年前、貴殿から一条攻めを唆されたときからずっと、な」

「ハッハッハッハ――」

 

「――かくなる上は、討ち死にせん!」

存康は怒号と共に前に出て、兵を集めて反転する。わずかな手勢にて、強靭たる長宗我部勢に最後の一撃を加えんとしていた。

これに立ちはだかるのが、前代国親の頃より仕えし老将・福留親政

福留の荒切り」で知られるその猛将を前にして、存康の最後の足掻きは脆くも崩れ去り、ついにはその身柄を捕えられるに至ったのである。



その当主が捕えられたことで、三好軍はもはや抵抗する術を失い、間もなくして降伏。

存康は領国から追放され、ついに、長宗我部は四国全土を真に統一することに成功したのである。

合わせて7月8日。香宗我部親泰は無事、織田信長との和平締結を実現。

摂津・阿波・讃岐にまたがる大乱は蓋を開けてみればわずか一年のうちに終結し、長宗我部家はようやく平穏を手に入れることとなった。

 

 

夢の先へ

大乱終結から1ヶ月。

元親は新たに獲得した讃岐国の野原と呼ばれる港町に、新たな都を築くことに決めた。

それまで讃岐の城といえば宇田津にあった聖通寺城が都としての機能を備えてはいたが、寺社勢力の強いこの地を元親は嫌い、新たにこの野原の港に「高松城」の建築を開始する。それまでは讃州の中心とは言い難かったこの地も、万葉集に由来する「玉藻の浦」と呼ばれる海域に接する、天然の良港として高いポテンシャルを秘めていることを元親は見抜いていたのである。

開発度39は四国随一。城の名称を高松に変更した。


「早速、湊の整備を進めているようですな」

視察に来た忠澄に声を掛けられ、元親は頷く。

「ああ。その他にも市場を開き、農地を広げようと思っている」

「異なことを。この戦国の世で、かくも悠長な国造りに邁進する大名なぞ、あまりにも奇異ですぞ」

ハッハと忠澄は笑う。元親もフ、と口元を緩める。

「そうだな――だが、いつか戦国の世は終わる。そのとき、ただ戦うことにしか生きる術を持たぬ者たちは、露頭に迷い、やがて再び無用な血を流すことになるだろう。私はそうはさせたくない。故に、その日のための基盤を今から整えていかねばならぬ。

 それこそが、我が夢。そして、これまで数多もの血を流し続けてきたことへの、贖罪である」

「ほう――」

忠澄は、感心したように唸る。

「大抵の人は、罪を償うべく仏門か神に縋るものを、殿は現世の利益を民に与えることでなし得ようとするわけですな」

「神官たる貴殿にとっては、商売上がったりかも知れぬがな」

「いやいや――十分に儲けさせて頂いている手前、問題は御座いませぬ。それに、信心深くはないかもしれませんが、その慈愛は、ある意味では最も神仏に近い振る舞いやも知れませんな」

忠澄は言いながら、表情をふ、と真剣なものへと変える。

「とはいえ、まだまだ完全な平和が訪れるとは言い難いのも事実。織田とは一時的な休戦を結んだに過ぎず、彼らの領土欲はまだまだ健在。昨今は主君たる足利将軍家との関係も急速に悪化していると聞いており、遠くない未来において畿内はさらなる混乱が予期されるところとなるでしょう」

「ああ。故に、これを抑え込むための鯨組くじらぐみを形成する必要がある。弥七郎のみならず、忠兵衛殿、貴殿にも色々動いてもらう必要がありそうだ」

「成程・・・暫くは忙しくなりそうですな。

 分かりました。殿の夢の実現がため、私もまだまだ尽力致しまする。その先に、いつか京よりも繁栄したこの玉藻の都にて、盛大な歓待を受けることを、楽しみにしておりますぞ」

忠澄の笑顔に、元親も柔らかな笑みを浮かべる。

「ああ、約束しよう。万民惣無事なる四国の実現、この手にて、果たしてみせよう」

 

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「恐ろしき存在でしたな、長宗我部は」

岐阜城天守より畿内方面を見下ろす信長の背後より、木下秀吉が近づき声をかける。

「暫くは、奴らに手出しすることなく、拡張を進めるほかないかと」

「――そうだな」

秀吉の言葉に、信長はフ、と笑みを浮かべる。

「しかし、我々の覇道の前に、あの男は必ずやまた立ち塞がることとなるだろう。我々の再度の激突は、決して避けられるものではない」

「そのときは――」

秀吉も、覚悟した表情で頷く。

「我が身も、命を賭して働きます。柴田殿の、仇も討たねばなりませぬからな」

「フン」

鼻を鳴らす信長。振り返り、秀吉に告げる。

「書状を用意せよ。宛先は――東の武田だ」

 

 

元親の願いも虚しく、戦乱はより激しさを増していく。

 

次回、「信長大包囲網」編へと続く。

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過去のCrusader Kings Ⅲプレイレポート/AARはこちらから

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明智光秀の再演(1572-1609):Shogunateプレイ第4弾。信長包囲網シナリオで、坂本城主・明智光秀でプレイ。その策謀の力でもって信長と共に天下の統一を目指すはずが、想像もしていなかった展開の連続で、運命は大きく変化していく。

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平家の末裔 in 南北朝時代(1335-1443):Shogunateプレイ第1弾。南北朝時代の越後国に密かに生き残っていた「平家の末裔」による、その復興のための戦い。

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ゾーグバディット朝史(1066-1149):北アフリカのベルベル人遊牧民スタートで、東地中海を支配する大帝国になるまで。

 

 

*1:香西元載の正妻は存康の伯母であった。